JINSEI STORIES

退屈日記「この味噌ラーメンが美味いのだ。フランスの田舎ですする日本の味」 Posted on 2022/12/08 辻 仁成 作家 パリ

某月某日、三四郎のトイレタイムなので、田舎の通りを歩いていたら、クラクションがなった。振り返ると、シェフのチャールズと奥さんのミラであったぁ。
「あら、すごい。どこいくの?」とぼく。
「家に帰るところなんだ。お茶でもしようよ」
と二人に誘われた父ちゃん。
チャールズが運転する彼のワンボックスカーに乗った。
そのまま、二人に連れて行かれたのが、な、なんと、いつもの犬カフェであった。
「ここ、ぼくが毎朝通っているカフェなんだけど」
「マジか、ここはぼくらの行きつけの店だよ」
ということで、ぼくの素性を知らない店主に、チャールズが紹介をしたのだ。
「歌手で作家!?」
「あはは」
「あはは」
「あはは」
田舎でも次第にバレ始めた。
「何者かと思っていたんだよね。ミニチュアダックスフンドとやってくる日本人男性って、なかなか珍しいし。それにほら、なんか出で立ちが変わっているし」
「あはは」と苦笑い・・・。
また、ここでも言われた。これはもう勲章ということにしておこう。
ミラとチャールズとビールを呑んだ。
ここに来て二日目だけど、昨日の続き、今日は偶然、道端で会った。
とはいえ、昨日は渋谷で会ったが、今日は銀座で再会くらいの距離感で、ぼくらは出会ったのである。
しかも、ぼくと三四郎が毎日行くカフェに連れて行かれて、店主ご夫妻に紹介された。
「あれ、この人、今朝も来たよ」
と言われた父ちゃんと三四郎であった。実に、地球は狭い。

退屈日記「この味噌ラーメンが美味いのだ。フランスの田舎ですする日本の味」

退屈日記「この味噌ラーメンが美味いのだ。フランスの田舎ですする日本の味」

※ 田舎の浜辺は超寒いので、厚着。このジャケットの下に、ダウン、セーター二枚。ズボンの下にジャージ、その下にタイツ!!! あはは。「犬服」と呼んでいる。



この地にアパルトマンを買って、二年が過ぎたが、どんどん仲間が増えていく。
だいたいの人たちがパリから脱出した二拠点生活者たちなのだ。
コロナ禍や公害、戦争などの問題で都会にうんざりした人たちが移住してきているのであった。
チャールズは、思えば、浜辺でばったり出会って、仲良くなり、彼らが料理人であることを知ってからは、いっそう接近したのであった。
特に、チャールズを通して、ぼくの世界はいろいろな意味で広がった。
きっと、明日以降、犬カフェの店主ご夫妻がぼくをこの村の様々な人たちに紹介していくのであろう。ここの常連さんたちとは何せ、三四郎を介してほぼみんな顔見知りなので、親しくなるのは時間の問題なのである。
チャールズが「オランピア劇場」でのライブのこともばらしてしまったし、急速に友だちの輪が広がるような気さえする。
ここで第二のマーシャル(八百屋さん)、ロジェ(肉屋さん)、ベロ肉(パン屋さん)が出現するのも時間の問題かもしれない・・・。
チャールズたちと別れて、ぼくは魚屋に行った。そして、オイル漬けにするための牡蠣とラーメンに入れるための殻付きホタテを買った。

退屈日記「この味噌ラーメンが美味いのだ。フランスの田舎ですする日本の味」



お昼は鶏肉のクリームソースだったので、夜はラーメンにすることにした。
大阪出身のスタッフさんがくれた「けやき」というインスタントラーメンを食する時がきたのだ。
スタッフさんのお母さんが美味しいからと取り寄せてくれていたものが、ぼくにも一つ回って来たのである。この方々がかなりの食通なので、期待感があがる。
何か載せたいので、ホタテをキャベツと一緒にバターソテーにしてみた。
「けやき」は味噌ラーメンのようだ。キャベツとホタテとの相性は抜群であろう。
そこに父ちゃん特製の半熟煮卵も添えてみた。完璧である。
試食タイム~。
「ううう、うめーーーー」
ああ、これは実に美味い。

退屈日記「この味噌ラーメンが美味いのだ。フランスの田舎ですする日本の味」

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退屈日記「この味噌ラーメンが美味いのだ。フランスの田舎ですする日本の味」

寒くなってきたので、ぼくは暖炉の点灯式を行った。
三四郎を抱っこし、その燃える炎を見せた。
2人でじっと揺れる炎を見つめ続けたのだった。
家が温まってきた。
やはり、人が住んでいないと、建物が寒さで縮こまってしまう。
ようやく、生きた心地がしてきた。
寝る準備をしていると、アドリアンと奥さんのカリンヌから、
「ひとなりさん、忘年会をやりましょう」
と連絡があった。
「いつですか?」
「クリスマス前がいいの。あとは、あなたの都合にみんな合わせるわ。オランピア劇場のライブが決まったから、みんなでお祝いをしたいのよ」
「それは嬉しいなぁ。今、田舎だから、来週でもよければ、ぜひ」
ということで、ぼくはやはりパリに呼び戻されたのである。
今週は田舎で過ごし、週明け、忘年会に合わせてパリに戻ることにしよう。
「三四郎、それでいいかい?」
三四郎がぼくを見上げた。
これこそ、真実の、二拠点生活ではないか、と思った。

退屈日記「この味噌ラーメンが美味いのだ。フランスの田舎ですする日本の味」

つづく。

今日も読んでくれてありがとうございます。
毎日、必ず、美味しいを目指す父ちゃん式の幸福人生計画、いい形で実行中なのである。インスタントラーメンでも、ちょっと工夫をすると美味しいですね。明日は何を食べようかな、と今から楽しみなのです。えへへ。
さて、12月22日はいよいよ、今年最後の地球カレッジ。今回はスペシャル版で、パリ市内中心部からぼくが暮らすカルチエ(地区)まで、ブラタモリならぬブラツジ散歩をさせてもらいます。とくに仕掛けもなにもない、冬の散歩道です。行きつけのカフェに立ち寄ったり、マーシャルの八百屋で野菜を買ったり、ケーキ屋さんでクリスマスケーキをピックアップしたり、何も起こらないかもしれませんが、ぶらぶらしたいみなさん、生配信での散歩、おつきあいださい。詳しくはこちらの地球カレッジのバナーをクリックくださいませ。

地球カレッジ

父ちゃんのニューアルバム「ジャパニーズソウルマン(11曲)」を聞き齧りしたい皆さん、こちらの再生ボタンをどうぞ~。※アルバムの予約も同時にはじまっています。「ZOO」はいきなりラテンのリズムで踊れます、聞いてみて・・・あはは。

退屈日記「この味噌ラーメンが美味いのだ。フランスの田舎ですする日本の味」

※ VIP席は残り数席になりましたよ。
オランピア劇場ライブ、チケット発売中でーす。
直接チケットを劇場で予約する場合はこちらから。

https://www.olympiahall.com/evenements/tsuji/
フランス以外からお越しの、ちょっとチケットとるのが不安な皆さんは、ぜひ、ジャルパック・サイトをご利用ください。こちらです、

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