JINSEI STORIES

滞仏日記「それってあなたの感想ですよね? いいえ、ぼくの意見です」 Posted on 2023/02/11 辻 仁成 作家 パリ

某月某日、時々、事務所のスタッフさんらが、やむを得ず、お子さんを連れて事務所にやって来ることがある。(ニコラが来るようになってから、中高生の在仏日本人のお子さんも変なおじさんに会いに来るようになった。いいね。笑)
その中に、ひとりませた男の子(F君)がいて、彼の口癖が、
「それって、あなたの感想ですよね?」
というもので、言われるたびに面白いなぁ、とふきだしている。
日本語間違いじゃないけれど、年上の人に、この言い方はあまり使わない方がいいよ、と言ったら、お母さんが、Youtubeの影響だ、というのである。ほー。
で、けっこう、学校でも流行っているようで、この言い方に、先生がやりこめられて困っているような状況なのだとか・・・。あはは、笑っちゃいけない・・・。
F君は中学生で、日仏ハーフの少年だけど、日本語がペラペラなのだ。
お母さんがやって来る時によくくっついて来る。
事務所に来ても、ソファでずっとゲームをやっているような、おとなしい少年なのだ。
ところがある時、お母さんと揉めだした。
パリに日本語を教える学校があって彼はそこに行きたくない、のである。でも、お母さんはちゃんとした日本語を学ばせたい・・・。
それで、お母さんがぼくに、「先生、日本語、大事ですよね。良ければこの子に、日本語の大切さを教えてあげて貰えないでしょうか」と助けを求めてきた。
こういうの、ちょっと苦手なんだけど、お母さんはかなり困っているようだったから、ぼくはF君の横に座って、ええと、日本語の素晴らしさとか面白さを伝えたのだった。
その流れで、日本語、知っとくと漫画をオリジナル言語で楽しめるようになるからお得だよ~、とお説教にならない程度に言ったら、
「それってあなたの感想ですよね」
と返されてしまった。うまい! ☜ 感動している場合か・・・。
ううう、なんだろう、この虚無感。

滞仏日記「それってあなたの感想ですよね? いいえ、ぼくの意見です」



確かに、ムッとする言い方ではある。それに、確かに、感想かもしれない。しかし、ここで狼狽えてはいけないので、ぼくは即座に、
「いいや、ぼくの意見だよ」
と返したのだった。何か? みたいな顔で・・・。
すると、少年は、「はー」と同意ではないけれど、「疑問」でもないが、そう言った。お母さんがその後、あれなんですよ、と教えてくださったのであーる。
なるほど、言われた親や先生は困るだろうな、と思った。あはは。

でも、面白い言い方なので、ぼくもその後、「それってあなたの感想ですよね?」と長谷っちを問い詰める時などに使わせてもらっている。☜長谷っちいじめではないので、ぼくを批判しないでね、二人はめっちゃ仲良しですから。これは感想です・・・。
ちょうど、彼が自分の作品の良さをながながと説明しはじめた時に、感想砲をぶっぱなしてみたのであった。
在仏歴30年の長谷川さんは、それがYoutubeから来た流行り文句だとはわからないようで、言葉を失っていた。ごめんなさい。
ともかく、ぼくは、在仏歴20年でYoutubeもみないし、日本のテレビもこっちでは見ることが出来ないし、2022年の4月から欧州ではヤフーニュースさえも閲覧できなくなったので、日本で何が流行っているのか、さっぱり、なのである。
ぼくが情報を得ているのはAFPの日本版とか、たまに、MSNニュースを眺める程度、確かに、芸能界のこととか、一切、わかりゃあしない。
陸の孤島状態にあるので、「それってあなたの感想ですよね?」は初耳であった。
流行語大賞のフレーズなのかもしれない。
ぼくが知っている流行語大賞は、ダメよダメダメ、まで・・・。

滞仏日記「それってあなたの感想ですよね? いいえ、ぼくの意見です」



長谷っちもぼくも、日本を出て長い在仏日本人は、知らないことが多すぎてついていけない。
Youtubeはフィッシャーズくらいしかしらない。
がーしー議員という方のニュースもたまたまSNSで読んだけれど、ぜんぜん、いったい何がおこって騒ぎになっているのか、マジで、わからないのである。
一番驚いたのは、スシロー事件・・・、「先生、知ってますか」と長谷っちに言われた時のことであった。
「スシローがどうした?」

滞仏日記「それってあなたの感想ですよね? いいえ、ぼくの意見です」



「そんなことが日本のトップニュースなのか?」
「はい、先生、これはぼくでも知っているくらい大変な事態のようです」
それでTwitterで検索をしてみたら、若者たちが、吉野家の紅ショウガをむさぼり食べている動画が最初に出てきた。青年が、紅ショウガを直箸で口に入れてはテーブルに吐き出しているのであーる。はぁ??? 意味が分からないが、閲覧数が凄かった。
これを喜んでいる人がこんなにいる、ということなのか?
回転すしのターンテーブル上のパフェのクッキーをつまんで半分食べ、再び、パフェの生クリームの中に戻す青年の動画とか・・・、恐ろしい・・・。
とにかく理解を超えた異常な動画が氾濫していたのである。
「長谷っち、これは日本でのことかね?」
「ええ、そうみたいですね。ぼくも、知りませんでした」
「日本はどうなっているんだ!!!」
「先生、大変なことが起こっているに違いありません。もしかすると、これは国際的な陰謀団が裏であやつって日本を滅ぼそうとしている日本壊滅作戦なのかもしれないです。日本をつぶしたいと思っている組織が手を組んで若者を洗脳してノ~タリンの国にして先進国から一気に脱落させようとしているに違いないです。間違いないっ!!!」
「それってあなたの感想ですよね?」
「えええ? おお、そうきたか!!!! 恐れ入りました」

滞仏日記「それってあなたの感想ですよね? いいえ、ぼくの意見です」



つづく。

今日も読んでくれてありがとうございます。
凄いことになっていますね、日本。ここで、何かまともなことを言うと、それってあなたの感想ですよね、とか言われちゃうんでしょうかねぇ。くわばらくわばら。

地球カレッジ



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2023/2/17(金)後10:00~10:59【BSプレミアム・4K同時】
2023/2/21(火)後5:00~5:59【BS4K】※再放送
2023/2/21(火)後11:00~11:59【BSプレミアム】※再放送
さらに、
●「ボンジュール!辻仁成のパリごはん2022夏」の再放送が決まりました。
【NHK BSプレミアム】 2月12日(日)12:30〜13:29
(初回放送 2022年9月23日)
お知らせ多すぎますね・・・。メモしておいてねぇ。えへへ。

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