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滞仏日記「敵を味方にしてこその勝利である、とぼくは肝に銘じて生きている」 Posted on 2023/01/30 辻 仁成 作家 パリ

某月某日、文章教室、終演後、知り合いの大学の先生や、出版関係、報道関係の人たちから、ジャンルは違うけれど、自分の仕事にも影響する授業でした、と連絡があった。
素直に、嬉しかった。
普段はあまり、こういうことを言われないから・・・。えへへ。
とある大学の先生からのメールにこうあった。
「想いが強すぎて、相手の気持ちを考えず自分からの発信ばかり考えがちだけれど、エッセイ教室の中で、辻さんが言った、敵を味方にしてこその勝利、というところ、なるほど、と思いましたよ」
結局、エッセイの書き方を講義していたのだけれど、中身は処世術というと言葉が不適切だが、社会で生き抜くための方法が、文章を書く上でも必要なんだ、ということをぼくは言いたかったのであーる。
独りよがりにならず、通りすがりの人にも立ち止まってもらえるような文章というのは、相手の懐に飛び込んでいくような誠実さと勇気と潔さが必要なのだ。
自分が訴えたいことを届けていくことの大切さは、つまり、生きていく上で重要なことなのである。
それは、論文であろうと、企画書であろうと、手紙であろうと、相手をその気にさせるのは書き手の熱血次第ということ。
自分に関係のない人たちを文章で巻き込んでいくということは、まさに社会と自分の向き合い方の基本なのである。つまり、そういう講義なのであった。
しかし、敵を味方にしてこその勝利、とは、まさに、ぼく自身が、敵を作りやすい性格だからこそ、出てきた言葉かもしれない。

滞仏日記「敵を味方にしてこその勝利である、とぼくは肝に銘じて生きている」



ぼくは、不徳の致すところ、実に、嫌われやすい人間なのである。
好かれたいと思わないのがいけないのかもしれないが、はっきりとものを言うから、嫌われてしまう。
相手にしなければいいものをいちいち相手にちゃうから、火に油を注いだりする。
いらぬ火の粉をよく浴びる。苦笑。
けれども、そういう火の粉は、一種のエネルギーになる。
20年、30年前に、文壇とか映画界とかロックの世界にも、あっちこっちで、まあ、酷いことを言われた。
それも、敵じゃなくて、仕事関係の人に、「辻さんはちゃらちゃらしているから」「だから、評価も出ないし、バカにされて、酷い扱いなのよ」と言われたり、・・・。あはは、酷いわ~。
でも、世の中の評価はそんなものだろうな、と分かってよかったな、とも思った。
批判をしている連中がごまんといることがわかったので、うぬぼれないで済んだ。
ぼくは、ひたすら、創作を続けた。
批判されても、その批判の数倍の力で作品を作り続けようと決意してやってきた。
批判をした人が今も生きているか、ぼくにはわからない。
ぼくのいる場所からはもう見えない。言いつけに来た人ももういなくなった。
どこに行ったのだろう・・・。

滞仏日記「敵を味方にしてこその勝利である、とぼくは肝に銘じて生きている」



渡仏して20年が経つので、批判者らが今、どんな批判を展開しているのか、わからないだけかもしれない。
海外は雑音が届かないから、気楽でいいね。
そもそも、ぼくは組織に入らないので、文壇とも遠いし、どこにも所属してないので、わからない。
ただ、自分の表現を続けてきた、必死で。
そんなある時、「敵を味方にしてこその勝利」という言葉が浮かんできたのだ。
おかしな話だけれど、これは、そいつらに「媚びろ」と言ってるわけではない。
その逆で、そういう連中が「ぐうの音も出ないくらいに頑張れ」ということなのであった。
黙々とやっていると、敵だった人たちが掌を返して来ることもあるよ、ということ。
別に、その人たちと握手をしなさい、ということではない。
いつも通り、自分の道をたんたんと進んでいきましょう、ということに尽きる。
批判はすべて、自分を燃やす燃料にすればよい。
敵を味方にしてこその勝利、というのは言葉で描くよりも深い意味があるのだ。

滞仏日記「敵を味方にしてこその勝利である、とぼくは肝に銘じて生きている」



地球カレッジが終わって、ぼくはピエールやスタッフさんらとケビンのカフェに行った。
そして、みんなでビールで乾杯した。
ケビンがやって来て、
「久しぶりですね、お元気ですか?」
と言ったので、ぼくはオランピア劇場のフライヤーをコートから百枚取り出し、差し出した。
ピエールが、自分で配ってるのか、と言って、笑った。イエース。君も配れ、ともう百枚、手渡した。
「ムッシュ、ツジー、もちろん、宣伝しますよ。マジっすか。ついにオランピアかぁ」とケビン。
ピエールが、自分のことのように、喜んでいた。
ケビンはカウンターの一番目立つ場所に、ぼくのフライヤーを並べてくれた。
すると、ご年配のマダム(90歳くらい?)が立ち上がり、その一枚を掴んでじっと見つめたのだった。
ぼくらは固唾をのんだ。
しかし、残念なことに、フライヤーは元の場所に戻されたのである。
あはは。
ぼくらはもう一度、カンパイをした。
敵は自分の心の中にいるものである。
自分に負けなければ、他人に負けることなんかないのだ。
がんばれ。

滞仏日記「敵を味方にしてこその勝利である、とぼくは肝に銘じて生きている」



つづく。

今日も読んでくれてありがとうございます。
そういえば、今日、教科書を作ってる出版元さんから更新の通知が届きました。もう、20年くらい、ずっとそこの教科書に採用していただいています。(中学生の国語の教科書です。作品は「そこにぼくがいた」)だんだん、ぼくは老いていますが、こうやって、ぼくの言葉が新しい人たちに役立っているのだな、と思うと恥ずかしいけれど、嬉しいですね。合言葉は、そうです、熱血~。熱血でいきましょう。
さて、地球カレッジは終わったばかりですけど、来月は、文章教室はお休みして、お父さんのための料理教室(お母さんも可)というちょっと遊び心のあるカレッジを開催したいと思っています。まだ、日程、まだ、フィックスされていませんが、2月の最終日曜、26日を第一候補に・・・。17日にNHKの「パリごはん、秋冬編」新作が放送されるので、その勢いで、翌週、やったるでーと。準備に時間がかかるので、どうなることやら・・・。
今、考えているのは、あまり料理をされない人に、料理の愉しみをお届けできる、そういうオンラインツアーにしたいなぁと思っています。珍しく「時短」あり、笑、「手抜き」あり、「見た目でごまかすの」もあり、という感じ。お父さんもたまにはキッチンに立ちませんか? 奥さんとご一緒に、はい、父ちゃんからは以上です・・・。

滞仏日記「敵を味方にしてこその勝利である、とぼくは肝に銘じて生きている」

※ 期待してもいいんですが、ただ、期待し過ぎないでください。好きになってもいいけど、ただ、愛に溺れ過ぎない方がいい。頑張ってもいいが、ただ、頑張り過ぎないで。怠けてもいいし、我慢してもいいけど、どうか、自分を犠牲にし過ぎないでください。孤独になってもいいけど、孤立し過ぎないでください。

滞仏日記「敵を味方にしてこその勝利である、とぼくは肝に銘じて生きている」

ということで、フランスの歴史的音楽ホール、パリ・オランピア劇場での父ちゃんの単独公演、チケットは絶賛、発売中でーす。
直接チケットを劇場で予約する場合はこちらから。フナックでも買えます。

https://www.olympiahall.com/evenements/tsuji/

フランス以外からお越しの、ちょっとチケットとるのが不安な皆さんは、ぜひ、ジャルパック・サイトをご利用ください。こちらです、

https://www.jalpak.fr/optionaltour/tsujiconcert/

そして、新作「辻仁成のパリごはん 2022年秋冬」(59分) 放送時間のお知らせです。
2023/2/17(金)後10:00~10:59【BSプレミアム・4K同時】
2023/2/21(火)後5:00~5:59【BS4K】※再放送
2023/2/21(火)後11:00~11:59【BSプレミアム】※再放送
さらに、
●「ボンジュール!辻仁成のパリごはん2022夏」の再放送が決まりました。
【NHK BSプレミアム】 2月12日(日)12:30〜13:29
(初回放送 2022年9月23日)
お知らせ多すぎますね・・・。メモしておいてねぇ。えへへ。



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