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滞仏日記「下の人に激しく叱られ、家では歌えなくなった父ちゃんがとった苦肉の行動とは!!!」 Posted on 2023/04/19 辻 仁成 作家 パリ

某月某日、昨日は心地よく歌っていたら、下の人の息子さんに、ドアを激しくたたかれ、萎縮してしまった、父ちゃんなのであった。
いないと思っていたので、大声で歌っていたのだけど、いた。しかも、全く面識のない息子さんが・・・。この息子さんだが、・・・ちょっとどんな人か分からない。
ドアが壊れるくらい、バンバンバン、と叩くので、もしかしたら、恐ろしい人かもしれない、と思った父ちゃん、謝りに行くにも行けず、三四郎と、息を潜めて夜をやり過ごした。
だいたい、下の階の家主であるカイザーさんにはメッセージを送っておいたのに、返事がないのである。
「ライブが近いので練習にきたけど、ご迷惑みたいなので、パリに戻ることもできますが、いつまでご滞在されるか、息子さんに、聞いてもらえますか?」
些細なことでもすぐに返事が来る細やかなカイザー髭さんにしては珍しいので、或いは、難しい息子さんなのかもしれないな、と想像した。
朝、起きたら、カイザーから返事が届いていた。
「実は、息子だけじゃなく、妻もいるんだけれど、あなた、もしよければ直接、彼と話をしてもらえないか?」
という返事なのであーる。
カイザーさんらは70代後半、そうなると、息子さんといっても、すでに50歳前後ということになる。
お母さんと仲がいいのだろうとは思うが、2人でなぜこんな漁村に滞在しているのか、よくわからない。ぼくは自分の母さんと二人旅をしたことがない。そういう息子よりは、よっぽど、心優しい人かもしれない。
それにしても、カイザーさんも、これ以上のことを教えてくれない。
それ以上の詮索は意味がないので、どうしようか、悩んだ。
パリに戻るか、彼らがここから出ていくのを待つか・・・。
しかし、いつまでだ・・・。
その間、息を潜めてここで三四郎と時間を潰すのはもったいない。
5月29日、オランピア劇場ライブがだんだん近づいて来ている。
そこで、勇気を出して、ぼくは下の階の息子と向き合い、事情を説明し、パリに戻る時期を聞き出し、ここ2,3日で彼らが田舎を去るならぼくは残り、逆に長い滞在のようであれば、パリにぼくが戻るしかない、と決意したのであった。
ぼくはジャケットを着て、家の階段を下りた。
暗い階段の先に、ぼくの家のドアがあり、そこを出ると、正面にカイザーさんの家のドアがある。どきどき。

滞仏日記「下の人に激しく叱られ、家では歌えなくなった父ちゃんがとった苦肉の行動とは!!!」



ぼくは彼らの家の前で深呼吸をして、呼び鈴に手を伸ばした。
しかし、悩んだ。ゆ、指が攣った。
汗が眉間から滴り落ちた。めっちゃ、怖い息子さんだったら、どうしよう、と悩んだ。ぼくはうちの玄関を振り返った。ドアの中央に、なんとなく、靴のあとのようなものが見えた、気がした。
やめておこう。
それは賢明である。
話が通じない人だったら、最悪の場合、話がこじれて、ライブ前に大けがをしてしまうかもしれない。
ぼくは玄関前で嘆息をこぼした。
その時、落雷のようなものにぼくは頭を殴られたのであーる。あああ!
ギターを持って、三四郎と、海に行けばいいじゃん。
そこで歌の練習をすればいいじゃん。
海に向かって歌うのであればだれも文句は言わない。
そうだ、海があった。
三四郎はその辺を走っているだろう。1時間半くらい大声で歌って、お昼でも食べて帰ればいいのであーる。
なんだ、その手があったかァ。
それに、NHKBSの「パリごはん」のために、動画もとっちゃえばいい。
自撮り棒二代目は安定感もあるので、ギターケースにテープで固定しておけば、多少、風がふいても、撮影が出来る。
まさに、一石二鳥じゃないか。
義和ディレクターに、早く動画送ってください、と催促されていたが、実は、ライブに集中していて、まだほとんど撮影出来てないのであった。
海で歌っているところは面白いかもしれない。
自分の記念にも動画がほしいし、・・・。ぼくはカイザーさんの家のドアを睨んだ。
やめとこう。話し合いはいつでもできる・・・。
と、踵を返した父ちゃんなのであった。
あはは。

滞仏日記「下の人に激しく叱られ、家では歌えなくなった父ちゃんがとった苦肉の行動とは!!!」

滞仏日記「下の人に激しく叱られ、家では歌えなくなった父ちゃんがとった苦肉の行動とは!!!」

※ 英仏海峡に向かって歌った父ちゃん。



ということで、ぼくは英仏海峡を前に「故郷」を歌った。
この歌は大震災のあと、日本のことを思って書いた詩である。
♪水平線にかすんで見える
遠ざかる船の別れの汽笛
思えば遠くへ、辿りついたァ~
故郷を思うと、涙
明日へ、明日へ、歌え
明日へ、明日へ、届け~。
メロディはいくつかのスコットランド民謡をくっつけたもので、そこに歌詞を載せた、故郷日本を思う歌なのだけど、この風景にとっても似合っているではないか。
三四郎が、ギターケースのたもと、カメラの真下に座って、ぼくを見ていた。
この子はいつも、ぼくを見ている。
まるで日本語を理解しているようじゃないか。
明日もここで歌えばいい。
明後日も、明々後日も・・・。
明日へ、明日へ、歌え~♪
そのうち、彼らもパリに戻らなければならなくなる。それまでは海がぼくの練習場である。
ぼくは海風を受け止めながら、体調を最高潮に調整するのであった。

滞仏日記「下の人に激しく叱られ、家では歌えなくなった父ちゃんがとった苦肉の行動とは!!!」

※ 録画ボタンを押し、音声が録音されているかチェックした。あとは、歌うだけ・・・。風が強くて、途中で自撮り棒が倒れそうになった。あはは。しかし、一寸風に力があるね・・・。

滞仏日記「下の人に激しく叱られ、家では歌えなくなった父ちゃんがとった苦肉の行動とは!!!」



つづく。

今日も読んでくれてありがとうございます。
パリ市内で展開中の父ちゃんの300枚のポスターですが、今日はご近所だったマノンちゃんが、発見したみたいで、送ってきてくれました。マクロン大統領への批判メッセージがポスターケースのガラスに書かれていますね。そんな、時代なのです。
さて、そんなめげない父ちゃんの熱血小説教室が5月7日に開催されます。敷居のめっちゃ低い小説教室になりますので、一度は小説を書いてみたいと思われている皆さんは、ぜひ、下の地球カレッジのバナーをクリックしてみてください。めるしー。

地球カレッジ

滞仏日記「下の人に激しく叱られ、家では歌えなくなった父ちゃんがとった苦肉の行動とは!!!」

※ マノンちゃんから届いた写真、これはオペラ地区、京子食品さんの近くに貼られていたようです。ふらふら、歩いている子たちの目には届くみたいだけれど、・・・果たして、ライブに来てくれるのか、それはわかりません。

5月29日、オランピア劇場、近づいてまいりました。フランス国内、もしくは周辺国にお住まいの皆さん、ぜひ、遊びに来てください。日本からは遠いですから、来ていただきたいですが、時間がせまってきましたから、ご無理はさせられません・・・。無理のない範囲でお願いします。あ、席は絶対売り切れませんので、当日券山ほどあり、ご心配なく・・・。
席のご予約はオランピア劇場のサイトから、どうぞ。

https://www.olympiahall.com/evenements/tsuji/

もしも、日本から行きたいけど、不安という皆さんには、JALパック・パリさんが協力いたしますので、こちらをクリックください。現在、日本から50名くらいの方が来るだろうという予測です。本当に、大変なところありがとう。必ず、いいステージにしますね。約束!!!

https://www.jalpak.fr/optionaltour/tsujiconcert/
ついでに、父ちゃんのニューアルバム「ジャパニーズソウルマン」、お好きな音楽プラットホームから選ぶことが出来ますので、聞いてみてくださいね。

https://linkco.re/2beHy0ru



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