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滞仏日記「死にたいと思ってもいいけど、死ぬな、ともう一度、父ちゃんは言う」 Posted on 2023/04/26 辻 仁成 作家 パリ

某月某日、このようなぼくであっても、時々、辛くなって消えてしまいたくなることも、過去、何度か、あった。
こういうことをお話しすると、嘘だ、と決めつけられるくらい、ぼくは世間的には図々しい人間だと思われている。
それは、一部認めないわけにはいかないが、しかし、問題はこのような図々しいぼくでさえも、辛くなるのだから、図々しくない皆さんはもしかすると、もっと苦しいのじゃないか、と想像したりする。
では、苦しいのはなぜか、というと、簡単で、それは私たちが人間だからだ。
人間だから、苦しい。ここを、おさえてほしい。人間だからである。
社会の中で生きないとならないから苦しいのである。
関わりのある世界の中で、その世の中が作った様々なルールとか、価値観とか、基準とか、社会性とか、意地とか欲望とか、或いは人間関係とか、自分をそこに適応させるために苦しむのである。
ぼくは今日、筋トレの最中、窓から差し込む太陽の光に瞼を押されながら、こう考えた。
いつか死ぬのに、この苦しみは必要ないよね、と・・・。

滞仏日記「死にたいと思ってもいいけど、死ぬな、ともう一度、父ちゃんは言う」



ついでに言えば、すべての人が、いつかこの世界からいなくなるわけで、じゃあ、いったいこの悶々とした苦悩というのは、なんなんだ、誰に対しての苦しみなんだ、ということになる。
自分も死んで、世の中のすべての人が死んでしまうのがわかっているのに、殺し合いをするようなものが、人間なのである。
なので、今にも死にそうな人にぼくが言いたいのは、それはまもなくやってくるから、焦らないでも、いいのだよ、ということだし、遅かれ早かれ、すべての人が、消えていなくなるのだから、今、そんな小さなことで苦しんで死のうとしないでもいいんだよ。
つまりだ、死にたいと思ってもいいから、死ぬな、ということである。
よく考えてみてほしい。苦しいのは、なぜだ。
バカにされたり、成功しなかったり、恥をかいたからか、嫌われたからだろうか?
でも、そんなことのせいで、楽しく生きることを奪われることくらいバカらしいことはない。
人に迷惑さえかけなければ、どう生きたっていいはずだ。人間なのだから。
ぞんざいに扱われたのなら、そこを離れたらいい。
あなたが暮らす場所が嫌なら、どこかよそに行けばいいだけのことだ。
そこも嫌になったら、もっと別の場所へ行けばいい。それでも、うまくいかないなら、それは自分に原因があるのかもしれない、と思って、ちょっと生き方、人との付き合い方を変えてみたらいい。
そうは言っても、ここにいないとならない、という人もいるだろう。
ぼくも10年間は、子供の傍から離れることが出来なかった。
やりたいことをかなり諦めたけれど、今振り返ると、苦しくても、ぼくには意味ある10年だった。意味があった。
ぼくは、自分に言い聞かせた。これは自分の使命なのだ、と。
神様は見ているから、(信仰もないくせに、こういう時に神様とかご先祖様を持ちだす)、その大変の中にも、探せばいくらでも、幸せがあるはずだ、と信じた。
今は子供が巣立ち、自由になったが、逆に寂しかったりする。そこに三四郎がやってきた。
どんな時にも、いい方に考える。少しでも楽しい方へと進む。
そして、苦難を乗り切っていく。

滞仏日記「死にたいと思ってもいいけど、死ぬな、ともう一度、父ちゃんは言う」



死ぬ時まで、実は、誰にもわからないものが人生だ。
今、苦しいのを自分のせいにするのはよくない。もちろん、人のせいにしてもいけないけれど、せめて自分のことを尊重してほしい。
いつかみんな死んじゃうのだ、だから、人間たちを恐れる必要はないのだ。
ぼくは、ご存じのように、メディアでよく叩かれてきた。芥川賞をとっても文壇から叩かれたし、何をやっても、批判ばっかりだった。
文壇から出た。だから、付き合いのある文学関係者はほぼいない。
他のジャンルでも、だいたい、ぼくは我が道を歩いている。
それは、単純に、奴隷になりたくないからだ。文学業界にも上限関係があって、先生がいっぱい牛耳ってるが、興味がないだろ? とぼくは自分に言い続けた。
よく、干される、という言葉を聞くけど、ぼくはいろんな世界で干されまくった。
でも、頭を切り替えた。じゃあ、さっさと別の世界で頑張ればいい、と思うのだ。
つまり、楽しいことを、自分がいきいきと生きられることを生きている間はやる、認めてくれる場所を探してそこに行く、ということが大事なんだ、とある時から、考えるようになった。
子育てをしなければならなかった十年は、弁当作りの才能を開花させたし、そこから料理の腕前もぐんと伸びた。辛かったことはもう、忘れた。あはは。
人と自分を比較しないようになった。
苦しい時はあるけど、卑下することはない。
誇りある人生なんだ。実は、すべての人間に与えたられたものだ。
それを抑制しちゃいけない、解き放って、思いっきり、精一杯、今日を生きてほしい。
父ちゃんはそう思う。
これは、父ちゃんがずっと息子に言い続けてきたことなのである。今もよく、言い聞かせている。最近は、素直に、聞いてくれる。
あなたが、人に迷惑をかけていないなら、苦しむ必要はない。
世界は広い、80億もの人間がいる。
チャンスしかない。

滞仏日記「死にたいと思ってもいいけど、死ぬな、ともう一度、父ちゃんは言う」



つづく。

今日も読んでくれてありがとうございます。
今日の父ちゃんのランチは、カレー焼き肉煮込みうどんにしました。ようは、昨日の牛肉の残りをキャベツの残りで炒めて、カレー味のうどんにぶっかけて食べたのです。パワーをつけるために卵の黄身もいれときました。美味しかったァ。それでいいんじゃないですか? ぼくは今日、とっても、普通に元気でしたよ。以上です。
さて、5月7日に、敷居のめっちゃ低い小説教室を開催いたします。小説とか、いつか書いてみたいなァ、と思っている方々を対象にした講座になります。ご興味ある皆さん、下の地球カレッジのバナーをクリックしてみてくださいね。グラッツェ。

地球カレッジ

滞仏日記「死にたいと思ってもいいけど、死ぬな、ともう一度、父ちゃんは言う」

5月29日、フランスは連休中ですけど、祭日の月曜日、オランピアのライブです。ぜひ、お時間のある皆さん、お越しください。
フランス国内、もしくは周辺国にお住まいの皆さん、ぜひ、遊びに来てください。日本からは遠いですから、来ていただきたいですが、時間がせまってきましたから、ご無理はさせられません・・・。無理のない範囲でお願いします。あ、席は絶対売り切れませんので、当日券山ほどあり、ご心配なく・・・。
席のご予約はオランピア劇場のサイトから、どうぞ。

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もしも、日本から行きたいけど、不安という皆さんには、JALパック・パリさんが協力いたしますので、こちらをクリックください。現在、日本から50名くらいの方が来るだろうという予測です。本当に、大変なところありがとう。必ず、いいステージにしますね。約束!!!

5月29日 辻仁成 パリ・オランピア劇場 ライブコンサ-ト!


ついでに、父ちゃんのニューアルバム「ジャパニーズソウルマン」、お好きな音楽プラットホームから選ぶことが出来ますので、聞いてみてくださいね。

https://linkco.re/2beHy0ru



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