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退屈日記「父ちゃんの終活ノート」 Posted on 2023/04/29 辻 仁成 作家 パリ

某月某日、終活ノートというの、ご存じであろうか?
エンディングノートとも言われており、遺書とは違い、法的拘束力はなく、残った人たちに、ああだこうだ、とやっておいてもらいたいものを細かく書き残すものらしい。
ぼくの場合、誰に書いているかというと「息子」なのかなァ。
でも、正確には、生きている今、記しておこうと思う、生前メモみたいなことのために書いているのだ。
というのは、十年以上前に頭の手術もしたし、最近、ハードな練習をすると、ちょっと心臓がキーンとなるし、不整脈、不眠だし・・・。
パリにいる時はいいけど、ノルマンディは一人だし、菅間さんも諭も、不意に倒れてなくなり、周囲にそういう人がいるので、死んだら終わりじゃ思想の父ちゃんだけれど、人生の後半を整理する上でも、息子がいざという時に混乱しないように、いろいろと楽しく書いている。もう、かなり笑えるので、時々、読み返して、楽しんでいる。

退屈日記「父ちゃんの終活ノート」



1章は、葬儀についてで、戒名とかは必要ない。死んでも辻仁成は辻仁成しかない。密かに、密葬をし、ぼくの死はさりげなく、すべてが終わった後に、知人関係者に伝えていくこと。ぼくは生まれてからずっと信仰がないので、葬儀をやる必要もない。火葬後についてはここには記せないけれど、息子に託す、ことを書いている。ともかく、お墓は必要ないし、死んだら人間は無に戻るので、それぞれの心の中で思ってくれればいい。時間的な問題の順番で、いずれ、みんな消えてしまうものに、地球の貴重な土地を使う必要はない、とか、書かれてあって、これは時々、細かく修正も加えてるのだけど、要は、墓はいらない、と言い残している。
2章は、三四郎のこと。
3章は、残された大量の作品や創作資料のこと。ぼくが死んだら、創作資料はすぐに焼却するように書いてある。創作の過程だけは残してはならない、と・・・。
4章は、もしもの場合は、誰に相談をするのか、など、詳しく書いてある。鍵の場所とか、判子の場所とか、各書類の所在地について・・・
5章は、世話になって人たち、とくに親しい人間たちに、生きることの大切さを説いている。ここが一番長くて、友だちは少ないけれど、ぼくが苦しい時に支えてくれた人たちへの感謝の言葉がほとんどで、読み応えがある。
6章は、この終活ノートにはぼくの意志がこめられているので、法的拘束力はないが、出来る限り喧嘩はせず従ってほしい。欲にとらわれる人間をぼくは尊敬しない、書いてある。親戚、家族は結束をして、乗り切ってほしい。ただし、ぼくは未練のない人間だから、死んでまで皆さんの前に出現することは一切ないことを約束している。どういう死に方であろうと、死んだ後まで現生でうろちょろする気はないから、幽霊とかには死んでもならないので、なので、草葉の陰なんかから、見守ることもないし、さっさと消えていくので、自力でみんな頑張って生きろ、と書かれてある。
だいたい、こんなところだけど、
7章は、血がつながった者たち、家族への感謝の言葉だ。

退屈日記「父ちゃんの終活ノート」



この終活ノートは、夕飯のあと、することがない時に、キッチンに置いてあるので、たまにペラペラとめくって、加筆修正をしている。とはいいつつも、落書きがほとんどで、いい加減なものにしか見えないから、死後のドタバタの中で、捨てられる可能性もある。
最後に、8章があって、そこには、健康に生きるための父ちゃんの生前レシピが書かれてある。辻家秘伝の料理の心得などをメモしてあって、そこは、出版したくなるくらい、面白い。
たとえば、これは昨夜、食後にメモしてものである。
8章、112
「ぼくはウイキョウ(仏名、フヌイユ)が大好きなのだ。
フランスではウイキョウが野菜コーナーで手に入る。ソースや煮込みに使う人が多いのだけれど、ぼくはこれをおしんこ(和風マリネ)にする。ウイキョウはどういう味かというと、ハーブのアニスに似ているかな。なので、日本だとデパートのハーブコーナーなどにあると訊いた。その辺はよくわからないけど、これがとっても美味しいので、あまり食欲のない時は、ウイキョウサラダを、ヘルシーだし健康的なので作って食べなさい。
まず、ウイキョウは玉ねぎの千切りのようにカットし、塩を2%くらいかけ、塩昆布と一つまみ、とちょこっとオリーブオイルを回し掛け、一緒にジップロックにいれ、ようは塩もみして、冷蔵庫にいれておく。
おしんことほぼ同じ作り方(辻家のおしんこは、3%ではなく2%にすること)である。ぼくは塩昆布を必ず使うので、塩は2%くらいにしておく。2,3時間すると食べごろになる」

退屈日記「父ちゃんの終活ノート」



退屈日記「父ちゃんの終活ノート」

退屈日記「父ちゃんの終活ノート」



「一応、ウイキョウとミントの健康サラダの作り方を載せておく。この通りにやる必要はないが、参考にしなさい。ボウルに、ウイキョウのおしんこ、豆腐の小さな角切り、小口切りされた葱、適当にカットしたサーモンの燻製(サーモンがない場合はハムでもいいし、鳥のささ身を塩とお酒で漬けたものを焼いてむしったものとか、工夫すればよい)、大事なのはミントなどを多めに入れて、あ、ピクルス一つを小さくカットし茹でて冷やした蕎麦とあえる。めんつゆを少々、ごま油を少々、(お好みでマヨネーズを少々、ダイエットの人は避ける)、一緒にあえ、葉っぱを敷き詰めたお皿の上にそれらをどさっと盛り付ける。ウイキョウに味があるので、薄目の味付けにしておくこと。ズッキーニ田楽を今日は添えた。輪切りのズッキーニをフライパンで焼いて、ある程度焼けたら、田楽味噌(味噌、砂糖、みりんなどを混ぜて作っておく)を載せオーブンで焼く。出来たらトッピングとして、サラダに添える。ウイキョウとミントと蕎麦の相性はとってもいい。一口、頬張ってみるとよくわかるが、健康の味が、するのである。父ちゃんの若さを作るダイエット健康食サラダなのである。お腹いっぱい食べてもカロリーは低いのだ。こういうものをたまに食べて、人生を優雅に乗り切れ。以上」

退屈日記「父ちゃんの終活ノート」



つづく。

今日も読んでくれてありがとうございます。
とまァ、こういうノートがいったい、何に役立つのか、分からないけれど、書いているのは楽しい。ぼくは「死ぬために生きている」変わり者なので、終活ノートでちょっと人生が楽しくなっていたりする。おすすめはしないけれど、ご参考にされたし・・・
さて、5月7日は、作家の父ちゃんが講師をつとめる「敷居のめっちゃ低い小説教室」が開催されます。ご興味ある皆さんは、下の地球カレッジのバナーをクリックしてみてください。あ、それから、再放送のお知らせ。
NHKBSプレミアム 「チョイ住み in ロンドン」 (2015年6月27日初回放送)
◆再放送日時:2023年4月30日(土) 10:30~12:00

地球カレッジ

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5月29日、フランスは連休中ですけど、祭日の月曜日、オランピアのライブです。ぜひ、お時間のある皆さん、お越しください。
フランス国内、もしくは周辺国にお住まいの皆さん、ぜひ、遊びに来てください。日本からは遠いですから、来ていただきたいですが、時間がせまってきましたから、ご無理はさせられません・・・。無理のない範囲でお願いします。あ、席は絶対売り切れませんので、当日券山ほどあり、ご心配なく・・・。
席のご予約はオランピア劇場のサイトから、どうぞ。

https://www.olympiahall.com/evenements/tsuji/

もしも、日本から行きたいけど、不安という皆さんには、JALパック・パリさんが協力いたしますので、こちらをクリックください。現在、日本から50名くらいの方が来るだろうという予測です。本当に、大変なところありがとう。必ず、いいステージにしますね。約束!!!

5月29日 辻仁成 パリ・オランピア劇場 ライブコンサ-ト!


ついでに、父ちゃんのニューアルバム「ジャパニーズソウルマン」、お好きな音楽プラットホームから選ぶことが出来ますので、聞いてみてくださいね。

https://linkco.re/2beHy0ru



自分流×帝京大学