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滞仏日記「人手不足、父ちゃん自らオランピア記念Tシャツをビニール袋に詰めた」 Posted on 2023/05/25 辻 仁成 作家 パリ

某月某日、長谷っちの風邪が悪化して、どうにもならないのと、スタッフさんにもうつしていたことが判明、風邪の疑いがある人が出たので、急に人手不足になり、息子の音楽仲間のユゴー君など数人がライブ当日、手伝ってくれることになった。
楽器担当のマコちゃんは風邪ひいてないのだけれど、昨日、ジョルジュがリハーサル中に大きな怪我をして、病院へ。
ま、レントゲンを撮影したら骨に問題がないことが判明したが、一時は騒然となった。
フロアドラムの支え棒が緩んでいて、腕に激突したのだ。
皮膚は破れてないが内出血していた。練習はそこで中断となった。こういうことがきっと、本番までにまだまだいろいろとある。気を引き締めている。
ということで、めっちゃ人手不足なので、父ちゃんはオランピア劇場販売用のTシャツを誰もいない事務所で、Amazonで買ったビニール袋に詰めたのだったぁ。
えへへ。

滞仏日記「人手不足、父ちゃん自らオランピア記念Tシャツをビニール袋に詰めた」

※ Tシャツをビニール袋に詰めた経験あります? これ、結構、楽しめますよ。はい、なんでもやったらいいんですよ。人生なんて、一度しかないんやから。



「せんせー、すいません。せんせーにそんなことさせるだなんて、悲し過ぎます。ごほごほご・・・」
咳き込んでいる。ひどいわ・・・。
「何風邪? 喉痛から咳になってるやん。君ね、それ、もう一度、病院行った方がよくない?」
ということで、ビニール袋にTシャツをそのまま突っ込むと、ヨレヨレになることがわかった。あはは。
まず、ビニールに入れるサイズに綺麗に折りたたまないとならないのだ。
それを一度縦に折り曲げ、首の方からゆっくりといれて、中で開き、皺をのばし、裏返してから、最後に、ビール袋の下のシールをはがして、折り曲げ、貼ったら完成。
こんなこと、この年齢で、経験していることが、すごい。いやあ、ある意味、すごい。
ここにたどり着くまでに、数回、失敗をした父ちゃんなのであった。
地道過ぎる。地道過ぎて、泣かないでください、みなさん・・・。フランス生活なんて、現実はそんなものでーす。あはは。
誰にも見せられない、鶴の恩返しのような姿なのであった。しくしく。

滞仏日記「人手不足、父ちゃん自らオランピア記念Tシャツをビニール袋に詰めた」

※ これ、見てよ、詰めたんですよ。さすがに、すごいと思いません? 自分、褒めたっていいですか?

滞仏日記「人手不足、父ちゃん自らオランピア記念Tシャツをビニール袋に詰めた」



明日くらいからNHKの「パリごはん」の西山義和ディレクターがパリ入りする。いろんな関係者がやってくるし、その交通整理もあるのだけれど、人が足りなさすぎ、オランピア側ともやりとりがうまくいってなーい。
なぜなら、ベルトラン(プロモーター)は日本で別の仕事をしているのだ。
なんで? なにやってんだ、お前そこで。
「ツジは日本では意外と有名なんだな。日本で知り合った人が君のこと知っていたから、嬉しかった」
と明け方、とぼけたメールが入った。時差で眠れないらしい。あいつめ。
昼夜のスタッフ40人分の弁当の手配とか、ライブの後のメンバーとかの打ち上げ会場の手配とか、ここにきて、大変が押し寄せてきたのだ。ひゃああ。
すると、さっき、オペラのうどん屋国虎の野本から電話が!
「あー、あのー、げ、げんき? ど、どうなん?」
てんてこ舞いしていることを告げた。
「あ、あ、あの、あれ、ほれ、ぼくね、その日、朝の、ほら、9時からスタンバイしているから。手伝いに行くよ」
は? 猫の手も借りたいとは言うが、おった、虎がおった。

滞仏日記「人手不足、父ちゃん自らオランピア記念Tシャツをビニール袋に詰めた」

「あ、じゃあ、頼むは、日本から来た方々が路頭に迷うといけないから、玄関に立って、誘導とか頼もうかな。あと、Youtube用の撮影スタッフが4人いるんだけど、彼らに昼食を食べさせてやってくれんかな? ぼくはリハの時間から、ほら、一応、歌手だから、さすがに出てはいけない。その日はゆっくりと入りたい。本番、20時過ぎだから」
「あ、あ、あー、うん、まかしとけ」
ま、もつべきものは友だちである。マジ、家族と友だちしか、いない。息子に言い続けてきた。友だちは財産だぞって。

滞仏日記「人手不足、父ちゃん自らオランピア記念Tシャツをビニール袋に詰めた」



昼に、東スポの取材を受けた。田才さんという馴染みの記者さんがいるのだ。
「辻さん、いよいよですね。すごいなぁ、オランピア劇場。今の気分を教えてください」
「はい。ええと、あ、ほら、ええと、あー」
野本の喋り方がうつっちゃった。やばい・・・。
直前までTシャツを袋に詰めていたので、心が慌ただしいのである。
なんとか、かっこつけて、インタビューを終わらせた父ちゃんなのであった。
ちゃんちゃん。

つづく。

今日も読んでくれてありがとうございます。
オランピアでブティックを開催する交渉もなんとか終わり、CDと記念Tシャツを限定で販売いたしますが、おつりがないので、来場される方は、10ユーロ札とか20ユーロ札をお持ちください。あはは。たぶん、そこはベルトランの会社の子が立つので、ぼくは、本番前でさすがに売り子はできませんが、ぼくが袋詰めしたTシャツですからね、貴重品です。日本語通じない場合は、指さしでご購入、お願いします。
さて、そんな熱血ヨレヨレ父ちゃんですが、6月18日に、パリ、左岸を歩くサンジェルマン・デ・プレ界隈を散策するオンラインツアーも開催いたします。ご興味ある皆さん、下の地球カレッジのバナーをクリックしてみてください。

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