JINSEI STORIES

滞仏日記「第一回辻家コロナ安全対策家族会議、報告書」 Posted on 2020/03/14 辻 仁成 作家 パリ

某月某日、欧州はいつの間にか、パンデミックの中心地となった。同時に、辻家、成員二名による、5週間、家にこもる生活がはじまった。出来るだけ、外出は控え、外出する場合は、晴れた日に公園を走るとか、人の少ない時間を狙って買い物に行く程度、と決めた。残念だけど、バーやカフェには暫く行かないことにした。若くないぼくがコロナにかかったら重症化する可能性もぬぐえないので、そうなると息子の面倒を見る人間がいなくなる。神経質なくらい神経質にやるぞ、と息子に宣言をした。お前も協力してくれ。分かった。

ということで、ぼくと息子は「第一回コロナ安全対策家族会議」を開催した。主要議題はどうやってコロナから家族の身を守るか、というテーマである。
まず、息子研究員がFBで見つけてきた「正しい手洗い動画」を一緒に見た。実はぼくらがやっている手洗いではウイルスを完全に除去しきれてないという衝撃の事実が判明。この動画を見てもらいたいが、青色が完全に洗剤が回っている箇所、白く残っているのが洗い残し部分である。爪の部分、手首の部分が白くなっている。動画では、最後に爪部分を掌に押し付けて、除去していた。家族会議メンバーはトイレに行き、実際に手洗いの訓練をやった。

Comment bien se laver les mains. Pédagogique.

Sylvie Chevallierさんの投稿 2020年3月13日金曜日

滞仏日記「第一回辻家コロナ安全対策家族会議、報告書」



それから、ぼくが苦労して見つけてきた大型容器に入っている消毒ジェルが、息子が調べた結果、バクテリアは除去できるが、ウイルスに関しては活動を押さえる程度の効果しかないことを突き止めた。パパは大衝撃を受けた。小瓶もあるが(このジェルはウイルス対応だった)、これっぽっちじゃ、何か月も持ちこたえることが出来ない、とぼくが言うと、息子研究員が、大丈夫、と言って、次の報告をした。
「パパ、消毒アルコールジェルと石鹸での手洗いであればどちらかと言えば手洗いの方が効果があるという調査結果が出ているんだよ。たとえば、コロナウイルスのもっとも大事な部分であるRNAはね。それを保護するエンベロープ(保護膜のようなもの)で保護されている。洗剤にはこのウイルスのエンベロープをぶち壊して、保護されている大事なRNAをむき出しにさせてしまう力があるらしいんだ。結果として、ウイルスは守るものがなくなるので、やられちゃうらしい。だから手洗いがとっても有効なんだ。30秒やればウイルスは除去できる。でも、消毒ジェルの場合、濃度が70パーセント以上ないとウイルスの完全死滅は難しい。パパが必死で探してきたこの大瓶の消毒ジェルでは残念ながらコロナウイルスは殺せない。だから、辻家は石鹸を持ち歩こうよ」
この家族会議の利点は、こうやって家族でいろいろと対策を考えることで強い結束力とポジティブなマインドを手にいれることができるという点である。子供がこうやって、必死で生きぬく方法を調べようとしていることは悪くない。
「パパ、やっぱり、マスクは大事だね。日本の感染者の増加が抑えられてるのは、ぼくはあながち嘘じゃないと思う。パパが言うように死者の数がよその国よりも少ない。もちろん、何かの理由で意図的に出てない死者数、発見できない肺炎患者の死亡者もいるとは思うけど、それでも、イタリアなどのように、千人もの死者数やその増加率から比べると、日本はずっと少ないものね。理由は、日本人が清潔好きで、秩序を守り、一丸となって除菌をやり、全員でマスクをしているからだと思うよ」
「オリビエ・ヴェラン健康相も言ってたけど、国全体で60パーセント以上の人がマスクをつけないと、マスクでの防疫は有効じゃないんだって。日本人は昔からマスクを着ける習慣があったからね」
「あとは、パパも普段言ってるし、英国のジョンソン首相も今日言ってたけど、コロナと生きるという道を人類は選ぶしかない。みんないずれかかることになりそうだから」
「問題は高齢者と疾患のある患者さんたちを守ることだ」
「パパもそろそろ前期高齢者だから、気を付けなきゃ。パパ、気持ちは若くても体は正直だからね」
「ぎゃふん」

滞仏日記「第一回辻家コロナ安全対策家族会議、報告書」



自分流×帝京大学