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滞仏日記「若き父ちゃんがやった数々のバイト人生について、抱腹絶倒、大いに語る」 Posted on 2024/02/19 辻 仁成 作家 パリ

某月某日、辻家は餃子の日だったが、餃子だけだと足りないと思い、息子くんに、
「来る時、タン・グルメで、カリカリ豚、買ってきて」
と頼んだのであーる。(中華街にある北京ダック屋さんのことだす)
そこに、豚の北京ダックというと語弊があるが、衣を使わないトンカツ?、とにかく、サクサク、カリカリ、めっちゃうまい揚げ物があるのだ。
ということで、カリカリ豚を抱えて、息子がやってきたのであーるぱちーの。
父ちゃんはいつもの、息子君の大好物、ハーヴ餃子(ハーブがいろいろと入っている)をこしらえてやった。つまり、父子の合作ディナーなのであーる。
ということで世界一小さな家族は、餃子とカリカリ豚を食べながら、今日は、父ちゃんの昔のアルバイト人生について、大いに語り合ったのだった。(ラジオ・ツジビルでもバイトの話がたまたま出たので、今日はアルバイトがテーマの一日でしたね)
息子の計画によると、大学院に進んでマスターを取得し、大学時代から意中の会社で少しずつバイトしはじめ、最終的に、ディプロムを貰ったらそのまま採用してもらえるような会社を探しているところなのだとか・・・、ほー、ほけきょ、
「パパも、アルバイトやってたの?」
というような話になった。
「当たり前じゃん、たくさんやったよ」
ぼくはできるだけ楽をして短い時間働き、残った時間を全部、創作にあてていたのであった。
「大学やめたから、仕送り止められて、お金いつもなくて、ゼロの月もあったけれど、でも、貧乏時代とか思ったことなくて、いつも、お腹すかせていたけれど、夢に向かって、自分を信じていたし、めっちゃ頑張っていたから、楽しくてしょうがなかった。曲作りして、バンドの練習して、小説書いて、映画製作にも参加し、詩人の会にも顔出し、すでに油絵も描いてたし、で、残りの時間で、寝て、バイト」
「時間足りないね、で、どんなアパートに住んでたの?」
「ECHOES、デビューした頃は、風呂無し、トイレ共同のアパートに住んでて、なんとかバイトで家賃だけは叩き出していた。2万8千円」
「やす。風呂ないの?」

滞仏日記「若き父ちゃんがやった数々のバイト人生について、抱腹絶倒、大いに語る」

※ 息子君が買ってきてくれた中華街の名物、カリカリ豚!



「お前の家はトイレも風呂もあって、贅沢過ぎるんだよ」
「じゃあ、大衆浴場に行ってたの?」
「いや、銭湯は苦手だから、流しに衝立して、湯沸かし器があったから、シャワーノズル作って、シンクに入って、窓の向こうから見られたけれど、ま、失うものなかったから、そこでシャワーしてた。あはは」
驚く、息子君であった。
「食べ物は?」
「バイト先でまかないが出たので、まかないの出るバイトを必ず選んだ。まかない、うまかったんだよ、どこも」
最初のアルバイトは新宿・歌舞伎町一帯で展開していた三平ストア系のジーンズ・サンパークであった。
三平社長はかわいいおじいさんだった。
でも、学生バイトたちを空腹にさせてはいけない、と、ビルの上に、三平グループのバイト君専用食堂を作っていて、カツカレーとか、好きなだけ食べることができたのだ。みんな、助かっていた。そこでバイトの日にまとめ食いをして、あとは創作~。
「へー、昔から熱血だったね」
「だろ。でも、世界はまだ俺を発見してねーって、パパ・オリジナルの流行語を編み出してね、いつも、傾いたアパートで、叫んでいた。早く、俺を発見しろよー、ぐずぐずすんなー、みたいに」
あはは。
「昔から、そうとう熱血過ぎたね。あぶなかったね」
「うん。でも、パパの若い頃、わくわくしかなかった。若い頃って、それで十分生きていけるんだ。バイト先で、まかない、食べたら次のバイトまで食べない日もあった」
「だから、パパはいつもスタッフさんにまかないだすんだね」
「その通り、うまいもの食わせたいと思う親心のようなもんだね」
あはは。

滞仏日記「若き父ちゃんがやった数々のバイト人生について、抱腹絶倒、大いに語る」

※ 辻家名物、ハーブ餃子。片面、カリカリ~焼き、羽根付き。

滞仏日記「若き父ちゃんがやった数々のバイト人生について、抱腹絶倒、大いに語る」



「ほかに、どんなバイトしたの?」
「下北沢の木曜館という喫茶店で、コーヒー淹れてた。そこのまかないはカレーだった。代々木八幡のボンボンバーガーでハンバーガー作って売っていた。そこのまかないは、ハンバーガーだった。あ、そういえば、ECHOESの最初のホール、日本青年館という大きな会場でライブやった翌日もそこでハンバーガー焼いていたら、お客さんに、じんせいさんですよね? と言われ、違う、と思わず、ウソついた。でも、横にギタリストとベーシストがいて、みんな髪の毛つんつんにしてグリドルでパテ焼いていたから、バレバレで超かっこ悪かった。バイト終わりで、事務所に給料あげるように、抗議に行って、月5万円の給料がね、ちょっとあがったんだ」
「へー、いい話だね」
「まあね。そういう経験、いっぱいある。お前に言いたいのは、若い頃は、目標に照準あわせて、とことん熱血で生きていけ、力強く生きていけば、空腹なんか気にならないし、道は開ける、ということだよ」
と、父ちゃんは偉そうに昔話を息子に語ったのであったーまん。
あはは。

滞仏日記「若き父ちゃんがやった数々のバイト人生について、抱腹絶倒、大いに語る」



つづく。

今日も読んでくれてありがとうございます。
いやぁ、今日、朝、熱血で走っていたら、でかいグレイハウンドに、わんわん、吠えられて、腕を噛まれました。幸い、犬の扱いがわかっていたので、「よしよし、どーどー」となだめたところ、むこうも、甘噛み程度で、引き下がってくれました。でも、ジャージを鼻水で汚され、洗濯中。もしも、噛まれたのが指だったら、ライブ中止か、と恐ろしい瞬間でもありました。で、飼い主が驚いて駆け寄ってきたんですが、マダム、大丈夫ですか、とかほざくので、マダムじゃないわ~!、と珍しく否定しておきました。あぶない大型犬、ツナを外さないでくださいませ・・・。お願いします。
はい、お知らせでーす。
伊勢丹アートギャラリーの個展ですが、気を付けてほしいのは、初日の28日は抽選で決まった方しか入れないので、正式には、29日の朝10時から、3月5日の午後6時まで、ご自由にご来場いただけます。「辻個展、29日から、3月5日まで」とメモをよろしくお願いいたします。混乱を避けるため、との画廊の判断ですので、ご理解ください。

●小説「十年後の恋」集英社文庫版が1月19日全国発売。
●小説「東京デシベル」がイタリア、Rizzoli社から刊行されました。
●3月3日、両国国技館、ギタージャンボリー出演。(検索ください)
●3月6日、ツジビル・ライブ(SOLD OUT)
●4月19日、ロンドン、ライブ。詳細はこちらから☟

https://www.eventbrite.co.uk/e/2gz-tsuji-and-hide-live-japanese-music-in-london-tickets-790578039197?aff=oddtdtcreator

●6月30日、パリ・ライブ決定(詳細、待って)
●7月3日、リヨンでライブ!!!
・ジャパンストーリーズのインスタ、はじまりました。
https://www.instagram.com/japan.stories?igsh=MTA2dWFjODdsZnNrZA%3D%3D&utm_source=qr
新しいデザインストーリーズのインスタも再始動しています!
https://www.instagram.com/designstories_paris?igsh=cHlpdGFvdWkyYmdj&utm_source=qr
・それから、ぼくのなりすましが、ファイスブックで暗躍していて、問題が起きている、というので、皆さん、フェイスブック、ぼくのなりすましには、近づかないように、友だち申請とかしないでくださいね。要注意です。
以上です。

滞仏日記「若き父ちゃんがやった数々のバイト人生について、抱腹絶倒、大いに語る」

自分流×帝京大学

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