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滞仏日記「うちの息子がコロナに罹っていた可能性についての報告」 Posted on 2020/05/07 辻 仁成 作家 パリ

某月某日、フランスではじめて感染者が報告されたのはこれまで1月23日とされてきたが、一昨日のニュースで、それよりもひと月早く12月27日に肺炎で入院していた患者の保存血液を調べたところすでに感染していたことが判明、と報じられ大騒ぎとなった。しかし、今日、新たにフランス・アンフォが報じたところによると、去年10月18日に武漢で開催された世界中の軍関係者によるスポーツ大会『武漢軍人体育大会』に参加していたフランス人が帰国後、発熱や咳など現在のコロナと同じ症状を起こしていたことが分かった、というのだ。こちらはまだ抗体検査が行われていないけれど、フランスから出場した400人は帰仏後、多くの選手が体調不良を訴え、中には家族にうつした選手もいた。(ただし、死者はいない) 興味深いことに、中国政府は、のちに、この時のアメリカの軍関係者が中国にコロナウイルスを持ちこんだと主張している。米中舌戦の中国側の根拠とされているのが、実は、この大会なのである。(他、参加国は、ロシア、イタリア、ドイツ、イギリス、ブラジル、など現在感染が深刻な国を含め、百ヶ国以上に及び、全世界から約一万人が参加)もしかすると、世界中に拡大した新型コロナはこの武漢軍人体育大会をきっかけにして広がった可能性がある、とフランス・アンフォは疑問符を投げかけている。

滞仏日記「うちの息子がコロナに罹っていた可能性についての報告」



とすると、一つの仮説が出てくる。うちの息子は、この日記でも過去に書いたが、1月の末に咳が止まらくなったことがあった。ぼくは日本だったので、知り合いのご夫婦がお医者さんの対応してくれた。抗生物質を処方されたけど、すぐにはおさまらず、完治までに2~3週間かかっている。医者は扁桃腺炎と診断をしたが、ぼくはなぜかずっと違うのじゃないか、と疑っていた。空咳と熱だったからだ。。
ぼくがパリに戻ってすぐ、もしかして、お前コロナだったんじゃないかな、と言ったことがあった。
「パパ、フランスで最初にコロナの患者が発見されたのが1月23日で、しかも武漢からの帰国者だよ。どこでぼくはその人からうつされるわけ?」
と笑われたことがあった。
でも、武漢軍人体育大会が感染拡大のきっかけだったとするなら、パリ市のバレーボール部に在籍し、市のスポーツジムで練習をしている息子が感染する可能性も排除できない。軍人体育大会に出た若い選手たちも、そういう施設を使っているのだから。そのことを息子に今日再度伝えると、
「ありえない、ありえない。妄想酷すぎ。パパ、コロナ疲れ酷いね」
と笑われてしまったが、12月の時点で罹っていた人がいるならば、その0号感染者はそれよりずっと前に遡るはずで、10月であってもなんらおかしくない。

新型コロナの死者数がアジアで少ない理由をここのところずっと考えているが、一つ言われているのがアジアで拡大しているのが新型コロナウイルス武漢株のA型で、欧州で多くの死者を出しているのが武漢株から変異した欧州株を持つB型と言われている。アメリカで広まっているのはC型で、CはBから変異したと言われている。ともかく、A型より数倍強いのがB型のようだ。アジアと比較すると欧州の死者数は二百倍くらい多い。この欧州株のコロナウイルスがまだ本格的にアジアで広まっていないので死者数が少ない、とは考えられまいか。すでに欧州株が広まり始めているという説も…。



そして、1月の息子の扁桃腺炎がコロナだった場合、一緒に暮らしているぼくはどうなったのだろう? 
「じゃあ、なんでパパは罹らないのさ。年齢的に重症化してるでしょ、2月半ばには」
息子は笑い出した。
けれども、症状が全く出ない人が20%以上はいると言われている。症状も人ぞれぞれなので重症化しない人はインフルエンザや風邪や咽喉炎と区別がつかないかもしれない。神戸市立医療センター中央市民病院の研究チームが外来患者千人の血液検査で3,3%がすでに抗体を持っていたと明らかにしたが、それは、市民4万1千人が過去に感染していた計算になるらしい。神戸でこれだけの数字が出るならパリでもっと出ていてもおかしくないだろう。息子とぼくがすでに抗体を持っている可能性について、思わず考えてしまうのは、コロナ疲れのせいだろうか。

抗体検査キットが発売になったら、ぼくは真っ先に買って、チェックしてみたい。ま、ぼくも息子も罹ってる可能性はないとは思うけど、きちんと検査をしてみると、世界中ですでに物凄い数の人たちが罹って抗体を保持している可能性もあったりして…。

自分流×帝京大学