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滞仏日記「地震、雷、火事、バッタ!? 再び忍び寄るコロナの不気味」 Posted on 2020/06/25 辻 仁成 作家 パリ

某月某日、昼過ぎ、立ち寄った小さな街のカフェ・レストランのギャルソンさんに「日本は感染者が少ないからいいね」と言われた。「それにアジア人は重症化しないしね」と羨ましがられた。たしかに、と思った。でも、東京では今日(24日)、55人の感染者が出ている。そのことを伝えると、それは結構多いね、と驚いていた。ぼくが旅をしているノルマンディ地方はほとんど感染者が出ていない。だから、パリからやって来る人に対して異常に気を付けている。このカフェはぼくの前の人が席を立った途端、テーブル全体を完全消毒していた。マスクをしないとカフェに入店出来ない。何人かが入れず引き返していった。子供連れのお母さんが必死に懇願している。「もし、入るなら、これを口にあてて、席に座るまで口を塞いでください」とギャルソンに言われ、なんと、テーブルを消毒するスプレーをふりかけたキッチンペーパーが手渡されていた。ぼくだったら断って退店するところだが、そのお母さんはキッチンペーパーを口に押し付けて席まで行った。小学生くらいの子供たちはしないでもいいようだった。とにかく徹底している。ノルマンディの人たちはパリジャンが来るのを真剣に怖がっているのだ。しかし、そういう徹底した対応がノルマンディ地方での感染を押さえこむ力にもなっている。パリとは大違いである。パリはまじ、やばいと思う。

滞仏日記「地震、雷、火事、バッタ!? 再び忍び寄るコロナの不気味」



ぼくはこの春、スタッフと話し合い、5月24日のオーチャードホールでのライブ延期を相当に早い段階で決めた。ぼくはどこよりも早く延期を発表すべき、と訴えた。(スタッフと半ば喧嘩腰で話し合いをやったのだ)理由はぼくがフランス在住であり、ぼくが日本入りすると、神経質な批判が寄せられるだけじゃなく、不安に思われる人が出るかもしれないという配慮、そして何よりファンの方々に感染が拡大することを恐れてであった。結果として、その判断は正しかったと思っている。でも、同時期に海外在住の方々が大挙日本に戻っていて、確かにその中から感染者が出た。どうしても日本に帰らないとならない人もいるとは思う。しかし、同時に人々の不安を煽る可能性もあると判断をして、ぼくは個人的に今日現在まで帰国を自粛している。たぶん、次回の帰日は両国のコロナ状況を鑑みて、秋以降になるかな、と思っている。

昨日、ブラジルから戻られた70歳の方が成田で検査をして陽性となり、その後亡くなられたことが発表になった。水際対策がどのくらい出来ているのかわからないけど、戻る方も受け入れる側もしっかりと対策をとり、検査をする必要があると思う。経済を回すためには企業の人たちが多国間を行き来しなければどうにもならない。ならば、そのための徹底した対策を各国の検疫は考えるべきであろう。PCR検査の精度も速度もあがっているので、ある程度の防御は出来るはずだ。しかし、その一方で、どうも今の日本は外からというよりも、中から感染が再び拡大しているように思えてならない。

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調べたら昨日、日本全国で96人の感染者が出ている。フランスは積極的にPCR検査や抗体検査をやっているのだけど、それでも117人の感染者だった。日本がどのくらい積極的に検査をやっているのか分からないけど、この96人よりももっと多くの感染者がいるのは間違いなさそうだ。「体調が悪く、検査を受けたいけど、まだできない」という知人の知人がいた。フランスの場合は割と簡単にテストが出来るので、まだまだ検査に対する積極性がちょっと違う気がした。じわじわと感染者が増えているのは気になるし、しかも、会社内クラスターが増えているという不気味なニュースまである。(会社名は出さないまでも、その会社がどのような状況で業務をしているのかなどを公表してもいいのにと思う。そういうデータが少なすぎることも不安を煽っている)欧州が封じ込めに成功してきているのは、やはりロックダウンのなせる業であった。様子見が続くのだとは思うけど、フランスの3月、4月の凄まじい感染拡大の様子を見てきたぼくからすると、日本はもしかしたらまだ第一波さえ来てないのじゃないか、と思う時すらある。もちろん、このまま収束するかもしれないし、ここら拡大するかもしれない。どんな専門家でも、このウイルス、まだ未知なる部分が多すぎて追い切れてないのが現状じゃないか、と思う。警戒は必要。感染者数が増えないことを願うばかりだ。



と、ここでツイッターに「地震!」「ゆれてる!」というツイートが流れたので、調べたら、千葉県で大きな地震があった。昨日、メキシコでマグニチュード7、5の大地震が起きたばかりなので、嫌な感じだった。ここから夏になり台風もやって来る。最近、台風の規模もどんどん大きくなっている。震災や台風や感染症などこういう様々な事態にしっかりと対応できる緊急事態に強い政府になってもらいたい。緊急事態省というような強い専門部署が必要な時代じゃないか、と思っている。アフリカでは数十億匹のバッタが発生し大変なことになっていたが今日、アルゼンチンで4千万匹のバッタが作物を喰いつ尽くそうとしている。対岸の家事のような出来事だが、思い出してほしい、コロナウイルスも武漢で始まった時はまだ対岸の家事であった。バッタが地球を滅ぼす可能性も出てきた今、日本は独自に緊急事態に強い国に進化を遂げるべき時であろう。緊急事態に強い国家宣言をお願いしたい。

地震雷火事親父、という言葉があるが、地震雷火事親父コロナバッタの時代になった。地震が世界中で起こり、雷は気候温暖化のことであり、火事はオーストラリアなどの山火事のことで、親父は台風のことを指すという説もあり、ここに、コロナパンデミックと数十億匹のバッタの発生が加わる時代になった。いやはや、大変な時代である。まさに今は「地震雷火事親父コロナバッタ」の時代と言える。ノルマンディ上陸作戦で多くの犠牲者を出した浜辺でたくさんの若い兵士が亡くなった76年も前の6月6日のことを思いながら、ぼくは夕陽に手を合わせていた。思うのは常に故郷のことである。

滞仏日記「地震、雷、火事、バッタ!? 再び忍び寄るコロナの不気味」

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