JINSEI STORIES

滞仏日記「第二波に備えろ、2。東京は第二波の入り口にいる」 Posted on 2020/06/28 辻 仁成 作家 パリ

某月某日、ここのところ、東京の感染者数の動きがちょっと変だ。皆さん、誰もがおかしいと思っているのに、小池さんが「これは第二波ではない」とおっしゃっり、政府のトップが「検査を徹底しているから出る数字」とおっしゃったり、その言葉とは対照的に、東京都の感染者数が6月24日55人、25日48人、27日57人、そして28日遂に60人になり、東京アラート解除後、減らずにじわじわ増えつつあるのが怖い。アメリカは昨日、一日の感染者が4万5千人を超えたので、それとくらべると比較にならないくらいの数字と言える。(しかし、アメリカと比較してはダメ) このような状況でペンス副大統領が国民に向けて「大流行の一番苦しい時は乗り越えた、二ヶ月前よりもはるかに良いところにいる」とまるで収束宣言と思える発言をしているのを読む度、視界が黒くなる。正直、アメリカはこの程度の認識しかないトップが君臨している限り、非常に恐ろしいことだが、このパンデミックから脱出することは難しいだろう。もっと大勢のアメリカ人が死んでいくことになるかもしれない。コロナ禍から脱出しつつある欧州の政治家たちの取り組みを見てきたので、アメリカやブラジルの政治家たちが命よりもお金に走っていることはよくわかる。バランスを無視しての経済優先が怖いし、これは取り返しのつかない状態を生むのは目に見て明らかである。あれだけ酷い状態だったフランスも感染者数は一日平均100から200人程度で落ち着いていたが、この記事を書いた直後、昨日の感染者数が1600人近くに跳ね上がっていることが判明。それがたまたまなのか、第二波によるものか、様子を見る必要がある。一日の感染者が100~200人程度だったのに、1600人まで不意にあがる、こういう状況を踏まえると依然、フランスも不安定の中にあるようのかもしれない。(調査をします)。一方で、東京の感染者数がじわじわ増えたりさがったりしている状況をどう見るべきか。この奇妙な動きをどうとらえるべきか。いずれにしても第二波に備え、もう一度警戒し直さなければならないことは間違いなさそうである。もちろん、フランスも…。
※ 記事を発表後、なぜ26日だけ1600人に跳ね上がったのか、その謎を調べたところ、前日の感染者数が0とあり、この時期のPCR検査が休みだった可能性が出ている。その後再び100人台に戻っているのだ。



しかし、始まりも、今現在も、日本だけは感染者の推移などが他とは異なり、増えそうで増えない減りそうで減らないなぜか独特の曲線を描いているように思えてならない。だけど、政府は不意に専門家会議を「廃止」とし、あらたに「新型コロナウイルス感染症対策分科会」なる中身の分からない組織を「新設」するというのだけど、(なぜ、そうしないとならないのか?)、その上、専門家会議の人たちには廃止が知らされていなかったことで、政府に都合が悪いことを言う人たちの排除か、という意見も出ている。西村経済再生担当相は否定しているけど、政権に都合のいいことを都合のいいタイミングで語る新しい部門を設置し、ウイルスをコントロールしている印象を国民に伝えたいのか、国民側からすると、たとえ不安を煽ることになっても言うべきことが言える従来の専門家会議の役割は評価出来た。危険を煽ってくれる方が危険には近づかない。危険ではないよとなれば人々は危険に近づき感染者が増える。



アメリカはもはや、CDCでさえ、あのファウチ博士だってなんとなく声が小さくなって(脅迫もあり)、トランプ政権の独走をひたすら許しており、その結果の一日、4万5千人の感染者、12万人を超える死者だということを理解しておく必要がある。国民性が異なるので、日本がアメリカの道を歩くとは思わないけれど、予測がつかないので不安な部分もある。はっきり誰も言わないけれど、どう考えても、アメリカはすでに第二波に足元を掴まれている。ペンス氏やトランプ氏が想像もできないパンデミックの再進軍がアメリカに攻め入ってる。ペンスの言った。「50州、全てが安全で、責任感を持って開放している」はちょっと尋常じゃない。責任感がどこにある? その責任感のせいで50州が開放されて、いったい何人がさらに犠牲になるというのだ。日本はアメリカのこのやり方を踏襲してはいけない。アメリカは今、二つの考え方の全く異なる勢力によって引き裂かれているところで、ここまで団結の出来ない弱い国だったことが露呈しており、板挟みにある国民が悲劇過ぎて、悲しい。

滞仏日記「第二波に備えろ、2。東京は第二波の入り口にいる」



滞仏日記「第二波に備えろ、2。東京は第二波の入り口にいる」

日本人は、政府の方針を守る真面目な性質をしているので、ロックダウンをしないでも緊急事態宣言程度でロックダウン並みの意識の高さを打ち出すことが出来た。けれども、現在、都知事選挙を控え、オリンピックを控えた政府の中心的方々が、国民に寄り添った意見を言える状況にない不幸が、この奇妙な曲線をいっそう奇妙に変える可能性があることを意識のどこかで警戒しておくべきであろう。世界中、どこの国も経済を取り戻すために今までぎゅっと閉めていたコロナ口を緩めた。それが緩まったことで再拡大を許している。60人を超えた東京の感染者数が日本的第二波の始まりであるなら、危険な夜遊びは避けて、国民は今まで以上に自分自身で身を守っていくしかない。

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