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リサイクル父ちゃんの料理教室「週末に超便利な、辻家の定番もうひとつの意外なポテサラ・レシピ付き」 Posted on 2023/04/22 辻 仁成 作家 パリ

某月某日、ずいぶんと前に、日本で話題になった言葉があった。
「ポテサラじじい」というのが日本のトレンドになったことがあったでしょ? あったんですよ。「ポテサラじじい」・・・。

ポテサラが好きなおじいさんの話しかな、と思ってネットを覗いてみたら、スーパーのお惣菜コーナーでポテサラのパックを手にした幼児連れの女性に対して、「母親ならポテトサラダくらい作ったらどうだ」と言い放ってどこかへ消えたおじいさんのことだと知った。
あはは・・・。
ありましたよね? 思い出しました? 
・・・そういう話しがあったでしょ・・・。
このおじいさんに対して主婦の皆さんが激怒しているということだった。
うんうん。
もっともなことで、ポテサラは実際作ってみればわかることだが、料理の中でも、手間暇かかる面倒くさい料理なのである。
じゃがいもの皮むきがそもそも超面倒な作業な上、茹でて丁寧に潰さないとならないのだから、見た目のシンプルさとは大違いの料理である。
なので、スーパーでパックに入って売っているのである。



ちょっと長い話になるのだけど、おじいさんの擁護が一切なかったので、ぼくなりに想像をしてみたのだった。
読んでみて・・・

料理は毎日のことだから、とにかく主食に全精力を注ぎ、サイドディッシュの一品くらいスーパーの5時からセールで買って済ませたいと思うのはごくごく普通の主婦感覚で、しかも、ポテサラって面倒くさいだけに、どうせ作るなら、ちょっとだけ作るわけにはいかないから、大量になってしまい、その日は頑張って食べるのだけど、味が一つなので、翌日には手が出なくて残念な感じになることも多く、材料費もかかるから捨てるのはもったいないので、買っちゃった方が経済的な理由でお得でもあるし、その余力でトマトサラダとかお浸しとか作ることも出来て家族的にはそっちの方が喜んでくれるわけで、それがポテサラの立ち位置だということを主婦は心得ているのだけれど、長いこと会社員を勤めあげて定年後15年とか20年が経ち、長い老後の渦中にいるおじいさんには、そんなことわかるわけもなく、しかも連れ添った奥さんに先立たれてからおじいさんはちょっと小言が多くなり、もともと亡くなられた奥さんはポテサラがとっても得意で、年齢的にも二人はポテサラがご馳走だった世代なのだけど、その上、おばあさんは料理がとっても得意で、おじいさんは昔、それがとっても自慢だったし、若い頃のおばあさんが子供たちのためにポテサラをせっせと日常的に作っていた姿をよく思い出すことがあって、週に2度3度おばあさんのポテサラがテーブルに飾られていたことがあって、手慣れているから素早く簡単そうに作っていたのだけど、実はおばあさんはおじいさんに苦労を見せない人で、なんでも、はいはい、と頷いていたちょっと古い世代の優しい女性でもあり、しかも昔はジャガイモが安くて大量に作るのに経済的だったし、その上、ハイカラな料理だったから、二人の息子も大好物で、つまりはポテサラで育ったようなもので、おじいさんも若い頃はマヨラーでおばあさんの作ったポテサラにさらにマヨネーズをかけて食べるのが大好きで、ポテサラとご飯を交互に食べながら、戦後日本を戦ってきたという自負もあるし、頑固なおじいさんだけどおばあさんのことはとっても愛していて、でもそのおばあさんが急死してからは、ちょっと小言も多くなり、鬱にもなって、記憶も錯綜気味で、子供たちが寄り付かなくなってからは、いいやその前に、嫁たちとそりが合わなくなったのがそもそもの孤独の原因で、おばあさんのと比較しちゃいけないとおじいさんは思うのだけど、残念なことに彼女らが作るポテサラはボソボソで、何度か小言を言っているうちに誰も寄り付かなくなって、おじいさんは一人で毎日スーパーにお弁当を買いに行かないとならなくなり、それがもう5年とか6年とか続いていて、経済的な理由で5時からセールの時間になると、20円引き、30円引きの一品を物色するのがなんでもない一日の唯一の楽しみになっていて、その日も、寂しいから、おばあさんのことばかり考えてしまい、そうだ、今夜はポテサラ食べたいと思いついて、行きつけの総菜コーナーに顔を出したら、たまたまそこに息子の嫁にちょっと似た、若い主婦がポテサラを掴んだ瞬間に出くわし、思わず、母親ならポテトサラダくらい作ったらどうだ、と言葉が飛び出したのだけど、それはその人に向かって言ったのじゃなく、息子の嫁がポテサラが食べたいと言って泣いていた孫に怒ったことがあって、少しぼけたおじいさんは記憶が思わずフラッシュして、記憶をなぞるように、母親ならポテトサラダくらい作ったらどうだ、と言ったに過ぎなかったのかもしれないなぁ、とぼくは想像してしまった、のであーる。
どう思います???



でも、ぼくが言いたかったことはそこじゃない。
この話題の一番の論点は、ポテサラじゃなくて、人が自分のお金でスーパーで何を買っても自由だよね、というところじゃないか、と思う。
さて、話しが長くなったが、実はうちの息子がポテサラ大好物なのだ。
今日は、辻家もポテサラを作ったので、最後に、嫌な思いをされた主婦の皆さんに、フランス風ポテサラのレシピを大公開するから、おじいさんを許してやってほしい。



皮を剥いたじゃがいも300g(メークインなど、身の詰まったじゃがいも)を分厚めに切り、茹でる。

リサイクル父ちゃんの料理教室「週末に超便利な、辻家の定番もうひとつの意外なポテサラ・レシピ付き」

インゲンは5分くらい茹でておく。(インゲン無しでも良い)
レモン汁大さじ1またはワインビネガー大さじ1、マスタード大さじ1、紫玉ねぎ4分の1個(みじん切り)、オリーブオイル大さじ2をよく混ぜ、塩胡椒で味を整える。

リサイクル父ちゃんの料理教室「週末に超便利な、辻家の定番もうひとつの意外なポテサラ・レシピ付き」

じゃがいもは竹串がすっと通るくらいになったら水を切ってボールに移し、熱いうちにインゲンとドレッシングを加えて和え、完成。とっても簡単だけど、シンプルだからこそ、これが美味しいのである。

リサイクル父ちゃんの料理教室「週末に超便利な、辻家の定番もうひとつの意外なポテサラ・レシピ付き」



リサイクル父ちゃんの料理教室「週末に超便利な、辻家の定番もうひとつの意外なポテサラ・レシピ付き」

この生温かいポテサラをソーセージなどの付け合わせにして頂くのがフランス流だ。今夜、ぜひ、やってみて頂きたい。個人的には日本の肉屋さんのポテサラが世界で一番好きだけど、気分を変えてみるのもいいでしょう。

リサイクル父ちゃんの料理教室「週末に超便利な、辻家の定番もうひとつの意外なポテサラ・レシピ付き」

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