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滞仏日記「日仏のマッチョの違いが面白すぎる件」 Posted on 2019/06/14 辻 仁成 作家 パリ

某月某日、今日、パリのママ友たち(息子の学校のお母さんたち)と高校進学への勉強会兼飲み会に出席したところ、面白い話になった。たまたま、僕らがお茶をしているカフェの前の交差点で小さな男の子が泣き出した。横にいたおじいちゃんが「男は泣いちゃだめだ」と言った。するとその隣にいたおばあちゃんが「あら、女だって泣いちゃだめなのよ。それは差別だわ」と訴えた。するとママ友たちが一斉に僕に意見を求めてきた。こういう発言をどう思うのか、というのである。突然日本の男代表になった僕は、おじいちゃんが言った意見は結構日本でよく耳にするもので、おばあちゃんが言った意見はあまり日本ではなじみのないものです、と答えた。そこから僕らは日仏のマッチョ像の違いについて興味深い議論を展開することになる。

ブリュノ君のお母さんのソフィとティボ君のお母さんのシルヴィと僕の三人は日仏のマッチョの違いについて激論を戦わすことになるが、結局、僕らは物凄い違いを発見するに至った。18年もパリで暮らしていてはじめて気が付いた新事実でもあった。
ソフィが言った。
「ね~、日本のマッチョってどんな? こと女性に対してのイメージを知りたい。体躯的なマッチョじゃなくて、精神論的なマッチョ感みたいなのを」
僕はこう答えた。
「そうだね、一概には言えないけど、日本のマッチョって、女は口出しするな、とかいう感じかな。たとえば日本は昔から、女性が酒を注ぐ役目を担わされていて、いや、もう最近はあまり見かけないけど、でも、今でも、たまに、飲みの席で女性が男性にお酒を注いでたりしている。伝統的な感じで、それが普通みたいな。亭主関白とかいう言葉もある。もっともこれはちょっと前時代的なイメージかもしれないね。僕の父親の時代とか、それよりももっと前の時代とか。日本は長年、男性を立てる文化だったってことかな」
二人のマダムは同時に、へ~、さすが日本ね、と面白がった。
「じゃあ、フランスのマッチョってどんな?」
するとシルヴィが、正反対、と断言した。

「フランスはね、女性を立てる文化ってことかしら。フランスのマッチョってね、たとえばお酒を注ぐのは男性の役目であり、つまり、率先して女性にお酒を注ぐのがマッチョってことになるのよ」
その瞬間、僕は大きな声で、なるほど~、と唸ってしまった。
「手紙を書く時、必ず、Madam et Monsieur(マダムとムッシュ)が書き出しになるじゃない。女性が先でしょ?日本って、お父さん、お母さんの順だって昔誰かに聞いたことがある」
「確かに、男性が先になるな」
「フランスは男性を先に書くと、なんだこいつってことになるのよ。フランス男のマッチョ感って、女性をどれだけ盛り上げられるかが重要だったりするの。お酒注ぐのもまず男性がボトルを持ったら、女性から注ぐのが礼儀だし、それがフランスの男性に求められるマッチョ像なんだよね。日本は多分、逆なんでしょ?」
「あの、僕は違うよ。僕は女性にまずお酒を注ぎます」
「ムッシュ辻、あなたはマッチョとしてフランスでやっていけるということよね」
シルヴィとソフィは笑いながら、空のグラスをそっと僕の前に差し出した。僕はマッチョなんかになりたくなかった。自分のグラスには自分でワインを注ぐのがいいと思っている。

滞仏日記「日仏のマッチョの違いが面白すぎる件」