JINSEI STORIES

滞仏日記「コンビニ食材で作る本格冷やしさぬきうどん」 Posted on 2019/07/20 辻 仁成 作家 パリ

 
某月某日、仕事疲れが押し寄せ、東京に戻ったが宿でずっとだらだらしていた。夕方、ちょっと飲みに出たけど調子がでず、ベッドにもぐりこんで寝たらへんな時間に起きて、しかもお腹がすいてしまった。そこで何か漁りにコンビニに出かけたのだけど、日本のコンビニのレベルは本当に高い。お弁当とかサンドイッチとか眺めているだけでも楽しくなる。僕はセブンイレブンで「冷凍さぬきうどん」(2食入り、400g、100円)というのを見つけたので、これで何か作ってみることにした。国産小麦100パーセントでこの値段、一つ50円? 安すぎる。パリで売っていたら毎日食べたい。なんと内袋ごと、電子レンジ3分で解凍できるすぐれもの。

解凍をして冷水で冷やし、千切りにしたミョウガ、しらネギを載せ、真ん中に卵の黄身を落とし、最後に天かすをかけた。美味しい醤油があったので、黄身を崩した上にさっと回し掛けし、さらにちょっと岩塩を振った。この50円のさぬきうどん、しっかりした歯ごたえがあり美味かった。ミョウガとネギがシャリシャリと音を上げる。天かすがサクッサクッと口の中で弾け、さらにはさぬきうどんの弾力の噛み応えったらない。パリでもさぬきうどんが大ブームだが、こんなに手軽に作ることが出来るのだから、やっぱり日本は素晴らしい。ひと工夫するだけで、コンビニで買った食材だってこれほどのご馳走になる。ひと手間、ひと工夫、ひと愛情で家庭も独り者も幸せだ。日本ならではの食環境と言える。

コンビニも進化しているので、日本に戻るたび、僕と息子はコンビニ探索を繰り返している。いやぁ、実に楽しい。でも、パリではやっぱり市場に行く。その日本との対比も面白い。dancyuではじまった新連載「キッチンとマルシェのあいだ」も好評らしく、植野編集長からお礼のメールが届いた。最低でも二年は連載させていただき、一冊のマルシェ本にして出版するのが僕の夢。マルシェとコンビニのあいだ、とは、フランスと日本のあいだ、ということであろう。僕としてはコンビニ帝国日本の皆さんにフランスのマルシェ文化をどんどんお伝えしたい。そしていつか、東京で誰かがマルシェをはじめてくれないか、と期待もする。コンビニとは正反対の食文化が日本に進出する日はいつだろう。そういう運動があるならばお手伝いがしたい。何せ、僕はマルシェ博士なのだから。えへん。
 

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