PANORAMA STORIES

「日仏の公園の違いを比較しながら、公園をとりまく景観を考察する」 Posted on 2021/10/05 水眞 洋子 ペイザジスト パリ

 
みなさまは、公園は好きですか?
よく行ったりしますか? 


日本にはたくさんの公園があります。
その数は10万カ所以上。
みなさまのお住まいの地域にも、公園は身近にあります。


実は、これらの公園、フランス由来のものがあるということを、みなさまはご存知でしょうか?
そもそも、『公園』という概念は、明治時代以降、欧米から日本に入ってきたものです。
フランスは、日本の公園に大きな影響を与えたとても重要な国の一つです。
本稿では、公園にスポットを当ててお話しさせていただきます。


・・・・・・・


私はフランスでペイザージュを学ぶと決心してから、欠かさずに続けていることがあります。
それは公園に行くこと。
天気がいい日は、近所の公園に行ったり、前から気になっている公園に足を伸ばすようにしています。
公園をお散歩するようになったのは、『いい公園』を創るための感覚を少しでも磨きたいと思ったからです。


Goole mapや地図に頼らず、気分や感覚にしたがって公園を歩きます。
このお散歩は渡仏する以前から続けていて、当時住んでいた東京や地元の大阪やお隣の京都、出張先など、あちこちの公園をちょこちょこ訪れていました。


パリでお気に入りの公園は、19区にあるビュット・ショーモン公園です。


この公園は、1867年にナポレオン3世の命によって建てられました。
当時の造園・園芸・建築技術の英知を駆使して作られたこの公園は、見所がたくさんあります。
大きな湖とその中心の崖の島
 

「日仏の公園の違いを比較しながら、公園をとりまく景観を考察する」



 
大きな洞窟とその滝。
 

「日仏の公園の違いを比較しながら、公園をとりまく景観を考察する」

 
伸び伸びと茂った木々たち。
 

「日仏の公園の違いを比較しながら、公園をとりまく景観を考察する」

 
これらを見ていると、パリにいることを忘れてしまうほどです。
 



 
今ではパリを代表する公園として、週末は多くの人で賑わいます。
 

「日仏の公園の違いを比較しながら、公園をとりまく景観を考察する」

 
何げなく公園めぐりをしていると、いつもいろんな発見があります。
特に日本とフランスの公園には、違いがたくさんあるなぁ、と気づきます。

例えば、利用のしかた。
フランスでは、みんな気楽に公園を利用しているように感じます。
ベンチに腰をかけて新聞を読んでいる人、池にヨットを浮かべて遊んだり釣りを楽しむ人、ジョギングをする人、太極拳をしているグループ、飼い犬を交えて交流する人たち、ランチをとる人たち、結婚式の写真を撮っているカップル、水着で日光浴をする人々、眺めのいい場所に座りぼーっとしている人、などなど、「自分空間の延長」的な感覚で公園を利用しています。


利用者層も多種多様で、老若男女いろんな人がいます。
この「いろんな人たちがミックスされて満喫している感」を見るのも、公園の楽しみの一つです。


日本の公園にも、素敵な公園がたくさんあります。
特にコロナ禍以降、公園が再注目され、利用する人が多くなっているように感じます。


ただフランスと比べると、気楽に公園を利用している人たちや、「いろんな人たちがミックスされて満喫している感」が、全体的に少し乏しい感じがしています。


例えば、親子連れや年配の方はよく見かけるのに、それ以外の人たちはあまり見なかったりとか、何か特別な目的がないと公園に足が赴かなかったりします。
また、どことなくよそよそしさあったり、地域になじまずあまり使われていない公園も、少なからず見かけます。
 

地球カレッジ

 
日本とフランスの公園の違い
この違いはどこからきているのか。
自分なりにずっと考えていました。
「文化の違いかな?それとも習慣の違いかな?それとも気候のせいかな?」


ヴェルサイユ国立ペイザージュ学校に通っている時も、自問自答していました。


いろんな公園を巡り、いろんな設計者たちと交流するようになってから、ペイザジストたちは、何を思い、何を目指して、公園を設計しているのかもっと知りたくなって、気がついたら研究者の道を歩むようになりました。

数年ほど前から、ようやくそれらしい答えが見えてくるようになりました。

結論から言うと、「公園の魅力」をどう創造するかという点が、日本とフランスでは根本的に違うということです。


フランスでは「景観(ペイザージュ)」で公園の魅力を創造しようとするのに対し、日本では「設備」や「機能性」で、公園の魅力を引き出そうとしている傾向があるのです。
これが、日本とフランスの公園の違いに起因していると、私は考えています。


つまり、「この土地の特徴を生かした、美観の映える空間をつくろう」というアプローチで公園を設計するのがフランスであるのに対して、「この土地をこういう風に利用してもらおう」という考えで設計するのが日本、という感じです。


その結果、前者は利用者がより多様になり、後者はそれぞれ目的に沿った利用者が来るようになります。


例えば、ブランコや滑り台、鉄棒、砂場などを整備した公園だと、子供連れが多く集まる場所となります。それ以外の人たちは対象外の場所となります。
 



 
「公園」とは?
これは優劣の問題ではありません。
決して、フランスの公園はよくて、日本の公園はダメ、ということではありません。
単に、「公園」という空間が発展してきた歴史が違う、というだけの話です。
なによりも、長い歴史の中で培われてきた庭園文化が違うのです。

そもそも『公園』とは、日本で生まれたものではありません。
明治時代に、欧米から導入された外来の概念です。


近代的行政制度として、西洋の制度を規範に導入されました。
この時にお手本となった国がイギリス、ドイツ、オーストリア、そしてフランスです。
当時の日本の役人たちは、ロンドン、ベルリン、ウィーン、パリの4都市の人口や市域面積に対する公園の数・面積を調べ、日本の大都市で建設すべき公園数を統計的に割り出して、画一的に設計し、施設も統一化して整備していきました。

一方、フランスでは、街全体の景観を引き立たせる重要な空間として公園は構想されてきました。
公園ありきの街づくりをしている、と言っても過言ではありません。


なぜここまで街づくりに公園が取り入れられるかというと、庭園の歴史に深く関係しています。
実は、町全体が庭を起点に構想されているケースが歴史的にたくさんあるのです。
その最たるものが、ヴェルサイユの庭園です。
ヴェルサイユの街は、実はヴェルサイユ宮殿の庭園が起点となって構成されています。
 

「日仏の公園の違いを比較しながら、公園をとりまく景観を考察する」

 
つまり、庭から発展した街であると言えるのです。


このため、街全体に庭&公園がしっくりと収まって、いい感じに調和の取れた景観ができ上がります。


この潮流が根底に流れているため、フランスの公園はどことなく距離感が近く、誰でも気軽にふらっといけるものが多いのだと、私は考えています。
 

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Posted by 水眞 洋子

水眞 洋子

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水眞 洋子(みずま ようこ) 
大阪府生まれ。琉球大学農学部卒業後、JICA青年海外協力隊の植林隊員及びNGO《緑のサヘル》の職員として約4年間アフリカのブルキナ・ファソで緑化活動に従事。2009年よりフランスの名門校・国立ヴェルサイユ高等ペイザージュ学校にて景観学・造園学を学ぶ。「日本の公園 におけるフランス造園学の影響 」をテーマに博士論文を執筆。現在は研究のかたわら、日仏間の造園交流事業や文化・芸術・技能交流事業、執筆・講演などの活動を幅広く展開中。
ヴェルサイユ国立高等ペイザージュ学校付属研究室(LAREP)、パリ・東アジア文明研究センター所属研究所(CRCAO)、ギュスターヴ・エッフェル大学に所属。シエル・ペイザージュ代表。博士(ペイザージュ・造園)。