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フランスの田舎で暮らす:ビオ(有機農法)のワインを支える頼もしい仲間たち Posted on 2024/03/31 水眞 洋子 ペイザジスト パリ

 
3月末日。ボジョレー地方では、村のあちこちでレンギョウ、林檎、桜桃などの花が満開に咲き乱れ、春の訪れを感じます。

今年は暖冬で、降雨に恵まれたことから、春の到来が例年よりも2週間ほど早まりそうで、たっぷり水を含んだ土と、暖かな陽気に誘われて、ブドウの木の新芽はどんどん膨らみ、新緑の葉っぱが顔を覗かせはじめました。
木の根本では、たんぽぽやスミレなどの野生植物たちが、花を咲かせ、ぐんぐん成長しています。
 

フランスの田舎で暮らす:ビオ(有機農法)のワインを支える頼もしい仲間たち

(写真1:満開の花をつけたリンゴの木。2024年3月)



 
駆け足でやってくる春を前に、ワイン醸造家たちは大忙し。
大詰めを迎えたブドウ木の剪定と、ブドウ畑に繁茂し始めた雑草の駆除作業に追われています。

除草作業は、普通のワイナリーでは除草剤を使います。
これは1960年代ごろから登場した化学農薬で、ひとふりで、緑色の草花がみるみる萎れ、数日後には茶色く枯死します。
効き目が強いので、1haの畑の除草も1〜2時間ほどで終えることができます。
またしばらく植物は生えてこないため、年間通して春と夏の2度だけで済む、比較的ラクな作業です。

一方、ビオのワイナリーでは事情は大きく異なります。
というのも、化学農薬は一切使わずに雑草対策をしなければならないからです。
対策の一つに、耕作があります。
土を耕すことで、雑草を根っこごと掘り起こします。
これがなかなか根気のいる作業で、1日で1haほどしか除草できません。
しかも時間が経つと、また新しい植物が生えてくるので、夏の間は1ヶ月に1度耕作せねばならず、除草剤よりも十数倍の時間を要します。

私が暮らしているランチニエ(Lantignié)村のショパン(Chopin)家のドメーヌ(ワイナリー)でも、
数年前にビオワインに切り替えたことから、雑草作業が倍増しました。
ブドウ栽培からワイン醸造までをすべて一人でこなす長男のラファエル(Raphaël)は、この時期は毎年大忙しで、休日返上で仕事をこなしています。
本人曰く、忙しくなったけど、得られる満足感は以前とは比べものにならないほど増えたと言います。

「除草剤を使っていた頃は、散布した後必ず下痢や頭痛で体調を壊していたんだ。農薬といっても毒だからね。
除草剤で枯れた植物や土壌が剥き出しになった茶色い畑を見るたびに、後ろめたい気持ちがずっとあったんだ。」
 

フランスの田舎で暮らす:ビオ(有機農法)のワインを支える頼もしい仲間たち

(写真2:除草剤が使われたブドウ畑。散布された部分は植物が枯死し土壌が露出して茶色く見える)



 
「でも、ビオに転換してから、僕の畑は植物が青々と生え、チョウやテントウムシなどの虫たちの宝庫になってる。
それがすごく嬉しいんだ。
地表に雑草があることはブドウの木にもとても良くて、根がしっかりと地中深くにまで伸びるようになるんだよ。
日照りや大雨に負けない強い木になるし、ブドウの味もより奥深さが増すんだよ。」とラファエル。
 

フランスの田舎で暮らす:ビオ(有機農法)のワインを支える頼もしい仲間たち

(写真3: 耕うん作業後に剪定作業を再開するラファエル)

 
耕うん作業でブドウの木の浅い根を切ることも、根の伸長を促す作用があると言います。

除草作業にやりがいを感じているラファエルですが、1ヶ所だけ苦戦している畑が一つあります。
それが、自宅周辺の、傾斜地にある畑です。
斜面が急で耕うん機が使えないことから、鍬を用いて手で耕さねばなりません。
一人での除草作業には数日要し、しかもブドウの木は樹齢50〜80年で年々徐々に収穫量を減らしています。
「いっそのこと果樹園に転用しようか。。。」とも考えたのですが、おじいさんから受け継いだブドウの木を大切にしたいという気持ちもあり、ずっと悩みの種でした。

長い間考え抜いた末、ラファエルはこのブドウ畑をもっと良く手入れするために、アシスタントを迎え入れることにしました。
そして昨年の初夏ごろから、除草と耕うん作業を手伝ってもらっています。
こちらがそのアシスタントさんの « お二人 » 。
 

フランスの田舎で暮らす:ビオ(有機農法)のワインを支える頼もしい仲間たち

(写真4:左がプンバ(オス)、右がキキ(メス))



 
プンバ君とキキちゃんです。

これは「クネクネ」と呼ばれるニュージーランド原産のブタで、フランスの在来品種よりも小さく草食です。

フランスでは、クネクネ をブドウ畑の除草に使う試みが、数年前からジワジワ広がりを見せ、
アルザスやシャンパーニュ地方で実践されていました。
ボジョレーでは、ヤギや羊の事例はあったものの、ブタはまだなく、ラファエルが最初のチャレンジャーの一人となりました。
 

フランスの田舎で暮らす:ビオ(有機農法)のワインを支える頼もしい仲間たち

(写真5:2023年5月のようす)

 
「プンバとキキ」という名前は、「ライオン・キング」に登場するイノシシと、「魔女の宅急便」の主人公から拝借。
当初は怯えてなかなか小屋から出てこなかった《二人》も、今ではすっかりラファエルの畑が気に入ったようで、元気に駆け回りながら、素晴らしい働きっぷりを見せてくれています。
 

フランスの田舎で暮らす:ビオ(有機農法)のワインを支える頼もしい仲間たち

(写真6:自宅前のブドウ畑で雑草を食べるプンバとキキのようす。2024年1月)



 
なかなか抜けない頑固な草やチクチクとトゲのある植物も、彼らにかかれば朝飯前。
もりもりたいらげてくれます。
しかも、土を掘り返して根っこも食べてくれるため、彼らが通った後は、土壌が耕されてふかふかに。
残していったフンは、貴重な有機肥料になります。
 

フランスの田舎で暮らす:ビオ(有機農法)のワインを支える頼もしい仲間たち

(写真7:プンバとキキの作業後のブドウ畑の様子。2024年3月)

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(写真8:自宅周辺の畑。プンバとキキが入って約2ヶ月後のようす。2024年3月)



 
何よりも《二人》の人懐っこい性格が「とてもかわいい!!」と、御近所さんに大人気。
プリプリと走る愛らしい姿を見に、連日子供たちがラファエルの畑に来るようになりました。
 

フランスの田舎で暮らす:ビオ(有機農法)のワインを支える頼もしい仲間たち

(写真9:馬のキャリンとも仲良くなったプンバ&キキ)

 
プンバとキキのおかげで、作業が減り働きやすくなったばかりか、村のちょっとしたパイオニアになったラファエル。

あれだけ悩みの種だった畑は、今ではお気に入りの畑の一つです。
「《二人》のおかげでワインの味がどう変わるのか、今からとても楽しみだよ。」と、今年の秋が待ち遠しいようすです。
 

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(写真10:仮住まいの小屋の前で昼寝をするプンバ&キキ)

 
ボジョレーのビオ・ワイン醸造家を支えるプンバとキキ。
かわいくも頼もしい、大切な仲間たちです。

ご高覧いただきありがとうございました。
 

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Posted by 水眞 洋子

水眞 洋子

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水眞 洋子(みずま ようこ) 
大阪府生まれ。琉球大学農学部卒業後、JICA青年海外協力隊の植林隊員及びNGO《緑のサヘル》の職員として約4年間アフリカのブルキナ・ファソで緑化活動に従事。2009年よりフランスの名門校・国立ヴェルサイユ高等ペイザージュ学校にて景観学・造園学を学ぶ。「日本の公園 におけるフランス造園学の影響 」をテーマに博士論文を執筆。現在は研究のかたわら、日仏間の造園交流事業や文化・芸術・技能交流事業、執筆・講演などの活動を幅広く展開中。
ヴェルサイユ国立高等ペイザージュ学校付属研究室(LAREP)、パリ・東アジア文明研究センター所属研究所(CRCAO)、ギュスターヴ・エッフェル大学に所属。シエル・ペイザージュ代表。博士(ペイザージュ・造園)。