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いつも傍にある、身近なパリのアール・ヌーヴォー Posted on 2023/02/27 ルイヤール 聖子 ライター パリ

 
「アール・ヌーヴォー」と聞くと、建築や美術の世界だけ、といった、どこか遠いイメージがあります。
日本でも、東京駅や明治時代の洋館など、取り入れられている建物には少し高貴な雰囲気がありますね。
フランス・パリにはそうしたアール・ヌーヴォー建築がたくさんあるわけですが、こちらでも銀行やデパートなど、やはり格式の高い建物によく見られます。
ただ日常生活に溶け込んでいるアール・ヌーヴォーも、実は結構あります。
ということで、今回は敷居の高すぎない、パリの身近なアール・ヌーヴォーを4つご紹介したいと思います!
 



いつも傍にある、身近なパリのアール・ヌーヴォー

 
まずは毎日使う、パリのメトロです。
アール・ヌーヴォー様式のメトロは有名なので、ご存じの方も多いかもしれません。
奇怪な入口と緑のツタが絡まったような、この不思議な外観はパリの一つのシンボルにもなっています。
ところが19世紀当初はパリ市民に酷評されてしまい、着手からわずか2年で、建築家エクトール・ギマールはチーフの座を降りてしまったといいます。
 

いつも傍にある、身近なパリのアール・ヌーヴォー

※鋳鉄を緑に彩色し、植物のインスピレーションをうけた囲いや、電灯を新たに配置しました。

 
しかし今から30年ほど前にギマールの作品が再評価され、それが復元されて今日に至っています。
フランスの人々はこのように、新しいものや異質なものに厳しい意見をぶつけることがあります。
あのエッフェル塔やルーブル美術館でさえ当初は大不評だったということなので、認められるには長い時間と忍耐力が必要なのですね。
 

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いつも傍にある、身近なパリのアール・ヌーヴォー

 
パリでアール・ヌーヴォー様式の建物が多いのは、7区から16区にかけてです。
てくてくと歩いていると、急に華やかなアパルトマンが登場し、思わず立ち止まってしまうこともあります。
写真のアパルトマンは、ギマールに次いでフランスのアール・ヌーヴォー建築家として活躍した、ジュール・ラヴィロットによる建築です。
曲線的なデザインが印象的で、無機質と対極にある有機質な柔らかさがあるのが特徴です。
 

いつも傍にある、身近なパリのアール・ヌーヴォー

 
さて、みんなのパン屋さんもアール・ヌーヴォー様式です。
今、パリには1940もの歴史的建造物があり、そのうちの約200は店舗になっているそうです。
そしてすごいことに、そのうちの32軒はアール・ヌーヴォー様式のパン屋さんなのだとか。
パリ7区にある「メゾン・ベルジュロン(Maison Bergeron)」もその一つで、創業は1900年、食品店の装飾を専門とするブノワ・エ・フィスという工房によって装飾が施されました。
 

いつも傍にある、身近なパリのアール・ヌーヴォー

※内装も豪華で、モザイクによる壁画は「収穫」をイメージしたそうです。また天井にはオルセー美術館にあるような、牧歌的な風景の天井画もありました。



いつも傍にある、身近なパリのアール・ヌーヴォー

 
そして最近では、アール・ヌーヴォー様式の「公衆トイレ」もパリにオープンしています。
正確にはリニューアルオープンなのですが、誕生は1905年、2011年から12年間の工事を挟んで、先週の2月20日(月)に再開しました。
場所はパリ右岸の、マドレーヌ広場の地下です。(マドレーヌ寺院右手にあります)
 

いつも傍にある、身近なパリのアール・ヌーヴォー

※靴磨き用の椅子も昔のまま。

 
こちらも歴史的建造物に指定されていて、当時の内装のままでの再開ということです。
使用料は2ユーロ(約280円)かかってしまいますが、管理人さんが常駐しており使用後すぐに清掃に入るため、(パリでは貴重な)清潔トイレとなっています。
またどの個室にも洗面台と鏡がセットされているので、旅行中の女性にとっては嬉しい場所になりますね。

アール・ヌーヴォーデザインはお花や植物、蝶々など、生き生きとしたものをモチーフにしています。
よく見ていると、パリにある階段の手すりや街灯の柱部分などにも採用されていて、本当によく溶け込んでいるなといった印象を持ちます。
地元パリジャンの意見としては、「いつもは気にかけないけど、無くなったら絶対に悲しい。アール・ヌーヴォーはフランスが守るべき伝統だよ」、ということでした。
 

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Posted by ルイヤール 聖子

ルイヤール 聖子

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2018年渡仏。パリのディープな情報を発信。
猫と香りとアルザスの白ワインが好き。