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愛すべきフランス・デザイン「100年前のメリーゴーランドに乗れる、パリのノスタルジックな博物館」 Posted on 2022/04/09 ウエマツチヱ プロダクトデザイナー フランス・パリ

愛すべきフランス・デザイン「100年前のメリーゴーランドに乗れる、パリのノスタルジックな博物館」

アラブの富豪が子どもの誕生会のために貸し切り、インドのお金持ちが数千人単位のパーティーを開催、そして、Netflixの大人気ドラマ「エミリー、パリへ行く」のパーティーシーンの撮影に使われた場所。大々的な宣伝はせずに、口コミで広がっているという。そのテーマは「100年前の移動遊園地」だ。

地球カレッジ

愛すべきフランス・デザイン「100年前のメリーゴーランドに乗れる、パリのノスタルジックな博物館」

※1900年のメリーゴーランド

愛すべきフランス・デザイン「100年前のメリーゴーランドに乗れる、パリのノスタルジックな博物館」

※ベネチアのゴンドラ風



パリ12区にある「ミュゼ・デ・アール・フォラン(Musée des Arts forains)」は、日本語で縁日博物館とも訳される、メリーゴーランドを主体とした博物館。フランスのフォラン(縁日)とは、移動遊園地や露天の集まりを想像してもらえたら良いかもしれない。中に入ると、高い塀に囲まれた外からは想像つかないファンタジーな空間が広がっている。1896年に建てられた、かつてのワイン倉庫を改装したもので、所々に当時の名残を感じる。

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※ワインを運ぶ台車が通った線路が残っている

コロナ禍以前より完全予約制、ガイド付きツアー(90分)でのみ見学可という制限されたものだが、100年以上前に作られた骨董品級のメリーゴーランドに3台も乗ることができる。修復を経て現代に息を吹き返した木馬の、少し軋んだ乗り心地はノスタルジックだ。ジャン・ポール・ファバン氏のコレクションで、メリーゴーランド以外にも、移動遊園地の露天に並んでいた遊び道具もある。1時間半のツアーの中では、それらのゲームも体験できる。その数は11000点にも及ぶというが、展示されているのはそのうちのたった15%だそう。

愛すべきフランス・デザイン「100年前のメリーゴーランドに乗れる、パリのノスタルジックな博物館」

※馬のお尻が飛び出す壁

館内は大きく4つの空間に分かれており、象徴的なメリーゴーランドが3台設置されている。メリーゴーランドといえば、子どものためのものだが、当時は大人も楽しんでいたそう。こちらの博物館では、大人が乗ってもややスリリングなものもあり、遊園地の定番である絶叫マシーンの原点を感じた。一番の目玉は、1897年製の「自転車メリーゴーランド(Manège de Vélocipèdes)」。かつては、蒸気機関で動いていたが、今は乗っている人たちの漕ぐ力で動くよう作り変えられた。人力なのに思いのほかスピードが出て、ちょっとしたジェットスター並のスピード感とドキドキを体験できる。

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※自転車メリーゴーランドは絶叫系



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※1897年製の重厚感


メリーゴーランドの主役、回転木馬は、どこの国のものかを見分けるコツがあるそうだ。ドイツのものは、とてもリアルな作りで馬具の位置も正確、本物の馬毛が使われている。それに対してフランスのものは、部品とは関係ない部分にも花柄などの彩色がされていて、ファンタジー度が高い。また、顔の向きも、左に傾いたものはイギリス、右に傾いたものは、それ以外の欧州諸国のもの。メリーゴーランドの回る方向も、それぞれ時計回りと反時計回りと異なっている。そういえば自動車も、欧州内で右ハンドルなのはイギリスだけだが、イギリス流のこだわりがあるのかもしれない。

愛すべきフランス・デザイン「100年前のメリーゴーランドに乗れる、パリのノスタルジックな博物館」

※リアルなドイツ製の木馬



メリーゴーランドに加え、縁日博物館の名に相応しい、ゲームの露天も所々に展示されている。ビヤード(Billards)というゲームは、板に空いた穴に玉を転がして入れる。ひとつ50点になる玉を5つ使い、全て入って満点の250点になれば景品が貰えるという遊びだ。ここには、フランス、オランダ、そして日本をテーマにしたビヤードが置かれていた。

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※ビヤードの露天


ガイドの方から「では、日本人のあなたに質問です。どれが日本のビヤードでしょうか?」と聞かれた。迷わず、赤い地に花柄がついたオリエンタル調のものを選ぶと、彼は「日本人にもわからない日本のビヤードは、これでした!」と一番シンプルなものを指差した。実際は日本とは全く関係なく、日本をテーマにしたというだけのものだが、海外旅行が珍しかった当時、旅行に行った気分になれる、エキゾチックなイメージを持たせたかったのだろう。更に興味深いのは、この日本風ビヤードで満点を獲得した人は、「Satsuma(薩摩焼)」を景品に貰えたという。

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※日本かと思いきや、オランダ

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※こちらが日本をテーマにしたビヤード


フランスのフォランが最盛期であった100年前、そこにはオシャレをして出かけるものだったそう。旅行が簡単ではなかった時代に、フォランで非日常を楽しんでいたのだ。その後、映画館ができ、テレビが普及し、旅行も気軽なものになり、人々の日常からフォランの存在は薄くなっていった。昔の人が海外旅行を疑似体験していた空間に、今は時を越えたノスタルジックな旅を求めて、海外からも駆けつける人がいる。

愛すべきフランス・デザイン「100年前のメリーゴーランドに乗れる、パリのノスタルジックな博物館」

自分流×帝京大学



Posted by ウエマツチヱ

ウエマツチヱ

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tchie uematsu
フランスで企業デザイナーとして働きながら、パリ生まれだけど純日本人の娘を子育て中。 本当は日本にいるんじゃないかと疑われるぐらい、日本のワイドショーネタをつかむのが速い。