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愛すべきフランス・デザイン「パリのインテリアの定番、メトロタイルの里」 Posted on 2022/06/18 ウエマツチヱ プロダクトデザイナー フランス・パリ

愛すべきフランス・デザイン「パリのインテリアの定番、メトロタイルの里」

 
パリのメトロの駅は、どこも雰囲気が似ている。
その秘密は、1900年の地下鉄創業時から使われている、統一された真っ白なタイル。
かつては白い煉瓦と呼ばれており、衛生状況に難があったパリで、表面がツルツルで掃除しやすいものが開発された。
駅のドーム状の天井から壁までを一続きにタイルが覆う設計で、少しの光量でも、反射で駅構内が明るくなるという意図もあった。
 

愛すべきフランス・デザイン「パリのインテリアの定番、メトロタイルの里」

※ドーム状の天井から壁まで覆うタイル



 
今では、地下鉄に留まらず、カフェやビストロ、一般家庭のキッチンや台所にも使用されるようになった。
普遍的でクセがないけれど、知っている人にはメトロのタイルとわかる個性、というデザインのバランスが良いようだ。
常々、フランスの公共物デザインに注目してるものとしては、ぜひ、自宅にも取り入れたいと思うようになり、数年前、キッチンの改修でメトロタイルに取り替えた。
 

愛すべきフランス・デザイン「パリのインテリアの定番、メトロタイルの里」

※ホームセンターのタイル売り場

愛すべきフランス・デザイン「パリのインテリアの定番、メトロタイルの里」

※ホームセンターで販売されているメトロタイル

 
当時の私がこだわっていたのは、本物のメトロのタイルかどうか、ということだった。
本物とは、メトロのタイルを作っている陶器メーカーのもの、という意味。
ネット上の口コミによると「業務用なので、一般には販売されていない」そうなので、最終的には諦めて、ホームセンターのものを購入した。

だが、ホームセンターで売られているものにも差があり、エッジが立ってるもの、丸みを帯びたもの、土台が赤土のもの、白いもの。
3、4社分、サンプルを取り寄せ比較、駅まで持っていき並べてみて、本物に近いものを選び抜いた。
実は、駅によって微妙にサイズが違うことも判明。
四角くて、角が落ちたデザインということであれば、大体OKというのも、フランスらしさを感じた。
でも、どこで作られているのかは長らくわからないまま気になっていた。
 

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愛すべきフランス・デザイン「パリのインテリアの定番、メトロタイルの里」

※駅によって微妙に仕様が違う

 
数年が経過し、友人に勧められて向かったのは、パリの南に160kmほど下った、ブリアールというエナメルモザイクの里。
ここにある、1837年創業のエモー・ド・ブリアール(Émaux de Briare)は、モザイクを専門とする陶器メーカーだ。
エモー(Émaux)は、釉薬という意味のエマイユ(Émail)の複数形。
陶器で有名なジアンからも遠くなく、同じロワール川沿いで、運河を利用した物流を強みとし発展した。
 

愛すべきフランス・デザイン「パリのインテリアの定番、メトロタイルの里」

※ロワール川に繋がる、運河だった小川

 
かつては、ブリアールもジアン同様、陶器を作っていたが、その後ボタン、ビーズとつくるものを変え、1882年からタイルをつくり始めた。
小さいものをつくってきただけあり、特にモザイクに使う細かなタイルの製造が得意だ。
ブリアールの町も、至るところにモザイクタイルが使われていて、とても可愛らしい。
中心地にある教会の外壁や内装もモザイク。
以前はタイルを運んでいたという運河の水辺もあり、いい雰囲気だ。
 

愛すべきフランス・デザイン「パリのインテリアの定番、メトロタイルの里」

※モザイク仕上げのブリアールの教会

 
そんな運河沿いに、エモー・ド・ブリアールのタイル美術館がある。
モザイクタイルは、主に地中海周辺の国々で発展を遂げた。
中東は石、イタリアはガラスと、国で使用する素材が異なるそう。

今一番、発注が多い国はアラブ首長国連邦。
この地域は文化的に石でモザイクを作ってきたが、近年の急成長で、ホテルの建築も急増。
石は加工が難しく高級品で、タイルでコストダウンを図ることが増えているそう。
そしてフランス製というブランド力も相まって、こちらのモザイクタイルが人気になった。
 

愛すべきフランス・デザイン「パリのインテリアの定番、メトロタイルの里」

※エモー・ド・ブリアールのタイル美術館



 
工場の裏手には、蔦が生い茂る趣あるファクトリーショップが立ち、販売されている製品も製造元価格と嬉しい。
施工例をみれるショールームもあるのだが、ここで、メトロのタイルの製造会社のひとつであるということが判明! 長らく探していたメトロのタイルの故郷はここだったのだ!
 

愛すべきフランス・デザイン「パリのインテリアの定番、メトロタイルの里」

※ファクトリーショップ

 
こちらの会社の一番の大口顧客様は、パリのメトロだという。
いつもどこかしら改修しているので需要が続き、発注は常にあるという。
ずっと変わらないように見えるパリの街も、実は新陳代謝していることに気づかされた。
 

愛すべきフランス・デザイン「パリのインテリアの定番、メトロタイルの里」

※メトロタイルはここで作られていた



 
更に、美術館の裏手に行くと工場があり、そこから廃棄されたタイルの山がある。
30年ほど前から、不法投棄とみなされるようになり、廃棄はされなくなったが、今でもタイルの山はうず高い。
自然の丘かと思うほどの大きさで、人が上に登って歩き回れるほどだ。
ここにあるタイルはタダで拾い放題ということで、たくさんの人が自宅のちょっとした改修用にタイルを拾いに来ていた。

割れたタイルが森の中一面に広がる光景は、さながらモダンアートのよう。
陶器の白が反射して、その空間だけポッと明るい。歩くたびにシャランシャランと、足元でタイルが割れる音も心地良い。
 

愛すべきフランス・デザイン「パリのインテリアの定番、メトロタイルの里」

※かつて廃棄されたタイルの山

愛すべきフランス・デザイン「パリのインテリアの定番、メトロタイルの里」

※モザイク用タイルは小さな正方形

愛すべきフランス・デザイン「パリのインテリアの定番、メトロタイルの里」

※我が家の収穫物

 
さて、パリの街中のモザイクタイル。
オペラ座近くのオベール駅とリヨン駅では、通常の白いタイルに加え、ここでつくられた美しいモザイクタイルを見ることができる。
メトロ以外にも、歴史的建造物に指定されている、1876年創業のブラッセリー・モラール、モンマルトルの丘にあるサクレ・クール寺院内部のモザイクタイルが有名だ。
アール・デコの時代には、プールの内装にもよく使われていたという。

ただ、この素敵なモザイクタイル、汚れが付きやすい目地の比率が高くなるため、一般家庭の水回りの使用には、手入れの手間がかかる。
実は、我が家のキッチンも、細かいモザイクタイルも一瞬考えたが、ズボラな私には管理できない、と諦めたのだ。タイルは大きく目地が少ないほど、掃除はラク。
どの分野においても、オシャレには忍耐と手間が必要なのだと痛感した。
 

愛すべきフランス・デザイン「パリのインテリアの定番、メトロタイルの里」

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Posted by ウエマツチヱ

ウエマツチヱ

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tchie uematsu
フランスで企業デザイナーとして働きながら、パリ生まれだけど純日本人の娘を子育て中。 本当は日本にいるんじゃないかと疑われるぐらい、日本のワイドショーネタをつかむのが速い。