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母さんの手を握る父ちゃんの巻 Posted on 2026/03/29 辻 仁成 作家 パリ

おつかれさまです。
今、母さんが入院をしている病院は、静かな時間の流れる大きな福岡市内の病院でして、先生も看護師さんも皆さん若くて、元気で、ああ、若い人たちが高齢者や病人の人たちを助けているんだな、と、こういう世界を覗くたびに、思わされますね。
若い看護師さんらが、溌剌としているのが、印象的でした。

担当医の先生もまだ30歳くらいじゃないのかな、というヤングマンで、歩く姿を後ろから見ておりましたが、エネルギーが余りまくっているに違いなく、スキップを踏んでいるような歩き方でして、地べたの上でまさに若さが弾けていらっしゃいました。それがぼくには逆にはとてもいい安心材料になったのです。
人間には順番があります。
その順番には逆らえないものがあります。そして、思い出されます。
90歳の母さんが、ぼくと弟を育てていた時のこと、電車が田舎に向かう途中、ちょうど、30歳ちょっとだった頃の母さんの足の左右の甲にぼくと弟のお尻がのってました。ぼくらは子供ですから、満員電車にうんざりしていて、母さんの足を椅子みたいにして座っていたんですよね。まだ、かなり若い母さんがそこにいました。
人間には順番がありますね。

母さんの手を握る父ちゃんの巻



病院は光のたくさん差し込む静かな場所にあり、個室からの眺めがとってもよくて、安心できました。

母さんの手を握る父ちゃんの巻

母さんの手を握る父ちゃんの巻

母さんの手を握る父ちゃんの巻

母さんはじっとぼくの顔を見ています。
病気でしたから、ぼんやりとしている感じですが、あの視線は親が子を見る目ですね。
ぼくは小さな頃から家を出て生きていましたからね、いつも実家には不在の長男でした。
だから、会うと、いつもじろじろと見られるんですが、それが子供の役目だからしょうがないですね。
そう、ぼくも、母さんの前ではずっと子供なのです。母さんの子供・・・。

だから、手を握ってあげました。冷たくなかったです。じんわりと温かいてのひらでした。記憶に焼き付きておきます。

母さんの手を握る父ちゃんの巻



母さんの手を握る父ちゃんの巻

ソーシャルワーカーさんと、転院先の病院はどこにするべきか、要介護の資格を取った方がいいかもしれませんね、とか、たくさん、お話をさせてもらいました。
こういう話しは無縁だろうと思っていましたが、やはり、順番が回って来たわけです。
ぼくが普段あまり知らない世界でしたが、やっぱり、病院って、若い人たちでまわっているんですよね。
その方も、30代半ばくらいのはきはきとされた明るい方でした。
さてと、そろそろ、行かなきゃ。面会時間はいちおう、30分程度なんです。
えいえいおー。

母さんの手を握る父ちゃんの巻



母さんの手を握る父ちゃんの巻

カレーうどんに卵をおとして、栄養をつけておくことにします。

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Posted by 辻 仁成

辻 仁成

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Hitonari Tsuji
作家、画家、旅人。パリ在住。パリで毎年個展開催中。1997年には「海峡の光」で芥川賞を受賞。1999年に「白仏」でフランスの代表的な文学賞「フェミナ賞・外国小説賞」を日本人として唯一受賞。愛犬の名前は、三四郎。