PANORAMA STORIES

新連載|『チーズの声』 第一話 タレッジオ Posted on 2020/03/14 久田 恵理 チーズ熟成士 パリ

皆様、初めまして、チーズ熟成士の久田惠理です。
これから不定期になりますが、『チーズの声』と題して、パリよりチーズのお話を書かせていただきます。

まずは、自己紹介をさせていただきますね。
短期大学を卒業した後、両親が経営するチーズ専門店「チーズ王国」の新卒社員として入社。それまであまり知らなかった「チーズ」という商品と出会ったのです。入社して半年後、忘れもしない20歳の誕生日の前日、チーズ王国新宿店の店長を任されました。それからというもの、お客様に叱咤激励の如くしごいていただき、チーズの理解を深めていきました。その後、輸入社の社長も兼務することになり、食品輸入の仕組みや、難しさを学びました。そして、30歳になる時、母がフランス、パリにチーズ専門店を開店。OPENスタッフとして、パリ店勤務となりました。

これまで世界中のチーズを探し廻り、各国のチーズを食べて食べて食べ尽くし、現在に至ります。本から得る知識はどうも頭に入らない性分のようで、自分が五感を通して得たことのみ脳裏に刻まれていきます。実際に作り手に会いに行き、原料となる貴重なミルクを与えてくれる動物と触れ合い、その土壌環境を肌で感じ、製造と熟成の奥深さやテクニックを見学。そんなことを続けているうちに「チーズの声」が聞こえてくるようになったのです。残念ながら、チーズの声をマニュアルのように、まとめられる自信はありませんが(笑)。



ということで、本日のチーズの声は「タレッジオ」です。

イタリア ロンバルディア州の出身。
サイズ(体重)は1枚が、2.5kg前後。
乳種はホルシュタインを主体とする牛乳製。
分類分けのタイプはウオッシュタイプに分類されています。
身体の大きさは、まるで、厚揚げを10倍に大きくしたような四角い形をしています。
イタリア原産地呼称(DOP)にも認定されている、歴史と伝統に守られたチーズの一つでもあります。

実は、タレッジオはとても呑んべえなんです(笑)。
イタリアから遥々、パリまで旅をした彼は、乾燥していてお疲れの様子。包まれていたパッケージを脱ぎ捨てると中から青カビが覆い始めていました。その青いカビを消失させるように、日本酒で拭いとるように、外側を何度も何度も優しく撫でます。
「旅の疲れを癒してもらえるように」という気持ちを込めて、日本酒を何度も継ぎ足しながら、外皮から中へ入れ込むようにします。すると、彼は遠慮することもなく、お酒をどんどん飲んでしまうのです。そして外皮がほのかにオレンジ色に近づきます。酔っぱらった証拠でしょうか(笑)? この工程を、1週間に2回。3週間以上、続けます。

すると、どうなるのでしょう?

その違い、ビフォーアフターについては、ぜひ画像で見比べてみてください。

新連載|『チーズの声』 第一話 タレッジオ

新連載|『チーズの声』 第一話 タレッジオ

どちらが酔っ払いのタレッジオなのか一目瞭然ですよね。手間と時間と愛情をかけた分だけ、チーズは必ず美味しくなり、恩返しをしてくれるんです。なんとこのタレッジオチーズ、初めてフランスの国際チーズコンクールに応募した時、ウォッシュ部門にて、見事、金賞受賞に輝いたチーズでもあります。

3週間経過して申し分無く(充分に酔っぱらいに)なったら、今日も美味しく仕上がってくれてありがとう。と、タレッジオにお礼を言います。すると、今日も店頭で彼は「どういたしまして!」と誇らしげに自分が選ばれるのを待ち望んでいるのです。

新連載|『チーズの声』 第一話 タレッジオ



Posted by 久田 恵理

久田 恵理

▷記事一覧

短大卒業後、(株)久田に新卒で入社。2004年、Fromagerie HISADAのOPEN準備スタッフとしてフランス店勤務となり、その後 約2年間フランスにて、製造、販売、熟成、輸出業務に携わる。2006年、輸入会社 KEN INTERNATIONAL JP 設立。代表に就任し、現在は、輸入者の代表として各国(フランス・イタリア・オランダ・スイス・オーストリア・スペインなどのヨーロッパ、オーストラリアなどの南半球)への出張、食材探し、及び、(株)久田 副社長代理を務める。またチーズを広めるための普及活動として、各地チーズのイベント業務、チーズ講師として活躍中。