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愛すべきフランス・デザイン「アンティークのトーションから感じる名家のキッチン」 Posted on 2021/11/29 ウエマツチヱ プロダクトデザイナー フランス・パリ

愛すべきフランス・デザイン「アンティークのトーションから感じる名家のキッチン」

 
フランス映画で料理を作るシーンに注目すると、必ずといっていいほど見かける布、トーション(torchon)。
台を拭くだけでなく、濾したり、蒸したりにも使われる、フランスの「おいしい」を陰ながら支える存在だ。
ひとことで、布巾ともいってしまえるけれど、フランスらしい、ちょっと素敵な背景を紹介したい。
これからのクリスマスシーズンに登場する、フォアグラ・オ・トーション(Foie gras au torchon)は、フォアグラをトーションで包んで茹でる調理法。
レストランで、円形の薄切りのフォワグラが出てきたら、それだ。
 

愛すべきフランス・デザイン「アンティークのトーションから感じる名家のキッチン」

 
スーパーなどで販売されている、自宅で楽しめるフォアグラのパッケージに、トーションを彷彿とさせる布が使われていることが多いのも、この調理法が所以だろう。
 

愛すべきフランス・デザイン「アンティークのトーションから感じる名家のキッチン」



 
パリで年に2回、世界中からアンティークバイヤーが集まるという、「リュー・ドゥ・ブルターニュ(rue de bretagne)」の大きな蚤の市で、昔ながらのトーションを販売するアンティークショップの人たち何人かに話を聞いた。
真っ白な生地に、赤いラインやチェックがアクセントの柄が定番。
緑や青も存在するが、やっぱり赤だという。
北フランスのノルマンディー地方では、かつて紡織業が栄えていて、多くはそこで作られた。
 

愛すべきフランス・デザイン「アンティークのトーションから感じる名家のキッチン」

 
2色使いのストライプのものは、バスク地方のもの。
アンティークショップの人たちは「海外の安い製品に押されてしまい、当時の製造会社は潰れてしまった。今ではフランス製のものは貴重で、アンティークでしか手に入らない」と口を揃える。
 

愛すべきフランス・デザイン「アンティークのトーションから感じる名家のキッチン」

 
そもそも、トーションという言葉の起源は12世紀、馬のお尻を掃除する干し草や藁を指すものだった。
14世紀に入り、家庭の掃除用具として使われる四角い帆布になり、今の洗練された形に落ち着いたのは1900年初頭。
当時のものは、ややベージュがかった白に赤いストライプが特徴的。
そこから、布の色はどんどん白く、柄も加わり、刺繍が施されるようになり、贈り物などにも選ばれるように。
蚤の市では、1900年代初めから1950年代頃のものの取り扱いが多い。
 

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イニシャル入りのものは、名家のもの。
かつては、嫁入り道具のひとつで、娘が結婚する際、イニシャルを施したトーションをオーダーメイドした。
アンティークバイヤーが、名家のものを引き取るとき、数枚は使用感があっても、大半のものは新品同様ということが多いそう。
例えば、12枚セットで作っていても、実際に使っていたのは2,3枚で、残りは戸棚に眠っていたということだ。
嫁入り道具を、大事に使っている様子が想像できて、微笑ましい。
 

愛すべきフランス・デザイン「アンティークのトーションから感じる名家のキッチン」

 
以前のアンティーク市場では、イニシャル入りのものは誰かが使っていたものという印象が強く、あまり好まれなかった。
だが、最近はモノの背景にあるストーリーを感じるという理由で、あえて選ぶ人も増えてきているという。
せっかくアンティークのものを買うのなら、ということなのかもしれない。
もし、自分と同じイニシャルをみつけることができたら、それこそ「買い」だ。
 

愛すべきフランス・デザイン「アンティークのトーションから感じる名家のキッチン」

 
主にアンティークの布製品を専門に販売しているマリアさんは、それぞれの製品の年代と素材を詳しく教えてくれた。
トーションの主な素材は、麻、綿、そして、2つの混紡があるが、彼女のオススメの素材は断然、麻。
「とにかく特別、上質感があって高貴よね」とのこと。
特に薄いものは食器を拭くのに向いていて、すぐに乾くので清潔感が保て、機能的でもある。
大きめのものを布地として買って、キッチンの小窓用のカーテンに作り変えるお客さんもいるという。
トーションとお揃いで、きっと素敵なキッチンになるのだろう。
 

愛すべきフランス・デザイン「アンティークのトーションから感じる名家のキッチン」



 
幾何学状のイニシャルがついた真っ白なトーションは、1930年代のアール・デコ様式で、お風呂場用。
バスタオルのように、身体を拭くために大きめだ。
麻素材は、洗った後にキチンとアイロンをかける丁寧な生活が思い浮かぶ。
 

愛すべきフランス・デザイン「アンティークのトーションから感じる名家のキッチン」

 
アンティークのトーションをキッチンに置いてみると、素敵な存在感を放つのは、背景のストーリーを感じるからかもしれない。
花嫁が嫁いだ先のキッチンで、最初の一枚をおろすときめきが垣間見える。
 

愛すべきフランス・デザイン「アンティークのトーションから感じる名家のキッチン」

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Posted by ウエマツチヱ

ウエマツチヱ

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tchie uematsu
フランスで企業デザイナーとして働きながら、パリ生まれだけど純日本人の娘を子育て中。 本当は日本にいるんじゃないかと疑われるぐらい、日本のワイドショーネタをつかむのが速い。