PANORAMA STORIES

横断歩道で見つけたクリスマス Posted on 2021/12/23 HARCO 食べて癒やすアルキミスタ スペイン・バレンシア

クリスマスが嫌いだ。



忙しい合間を縫ってツリーを飾り、贈り物や料理を用意する。温暖なこの辺りにはサンタクロースは煙突から入っては来ない。クリスマスイブの夜、ツリーの根元にそっと贈り物を置いて去っていく。
おばあちゃんちのツリーの根元に置いて行ったこともあれば、サンタクロースへの手紙を全く無視した贈り物で子どもたちに泣かれたこともある。クローゼットの中に隠しておいたら、その時に限って開けられ、見つかってしまったこともあった。
そんな出来事も、今となっては懐かしい思い出ではあるけれど、子ども達が大人になるにつれて贈り物は気に入ってもらえなくなり、一緒に過ごす時間も次第に減っていった。

役目を失ったサンタクロースは解雇。クリスマスイブの寸前に急いでクリスマスツリーだけ飾り付け、誰にも喜ばれることなくまた翌年までそっと仕舞い込む。
嫌いだ。クリスマスなんて誰のためにあるんだろう……。




昨日、英語学校でバイトをしている次男を車でピックし、その足で郵便局にいる娘をピックするはずだった予定が狂い、ポッコリと時間が空いてしまった。お腹も空いていたので、久しぶりに次男とカフェのテラスに腰を下ろし、時間をつぶすことになった。
息子は22歳。彼の父曰く、私が気にかけ過ぎらしいのだけど、私からすれば、いつまでたっても危なっかしい三人兄弟の末っ子。
「テスト、どうだった?」
確かに、大学生にこういう事を聞くこと自体がお節介なのだと思いつつ、口が滑ってしまう。いつの間にか、以前のように甘えてくることもなくなり、家での会話も少なくなった彼の口が開く。

「落ち込み過ぎないことにしたよ」
「去年、落とした学科、追試を受けなかったからなんだ」
自分の失敗を受け入れられなくて、追試の日までに立ち直れなかったらしい。息子は本番になると極度に緊張してしまう。それがずっと彼のコンプレックスにもなっている。
「そっか。で、今年は?」
「マシ」
失敗することよりも、失敗をちゃんと受け入れて越えていくのが大事。そんな事を何度か話したことがあるけれど、彼は自分で体験しながら学んでいくタイプ。
 
注文したコカ(COCA)を、息子が食べやすいように切り分けてくれる。コカというのは腸詰や三枚肉がゴロリと乗った平たく焼いたパンのこと。一切れだけ私が食べ、残りを全部食べていいと言うのに「俺の方が多く食べたから」と、最後の一切れをさらに二つに切り分け、大きい方を私にくれる。
彼は彼のスピードでちゃんと成長している。



娘からメッセージが入る。用事が済んだようだ。
「行こうか」
店の前の信号が緑から赤に変わる。
(ほら、危ないよ)思わず息子の手を引くと、息子が、ちょっと驚いたような顔をしている。
信号が再び赤から緑に変わる。
今度は、昔と同じ笑顔を向けて私に手を差し出す息子。しっかりと手を繋いで横断歩道を渡る。
懐かしい息子の体温が手から伝わってくる。何も変わってはいない。変わったのは、私ではなく息子の方が手を引いてくれていること。

「クリスマスのお菓子さ、作ろかなぁ。好きでしょ」
「いいんじゃない」

私の方を振り向きもしないで答えた。

横断歩道で見つけたクリスマス

地球カレッジ

横断歩道で見つけたクリスマス

バレンシアの風物詩『パステリート・デ・ボニアト』。サツマ芋を茹で潰し、砂糖と煮詰めてペーストにする。アニス酒を加えた生地に包んで半月型にしてオーブンで焼き上げると、家中がクリスマスの匂いに包まれる。シナモンも嫌がる子どもは、もういない。焼き立てのお菓子をテーブルに置いておくと、いつの間にか、一つ一つと消えていく。
(クリスマスツリー、飾ろうかな……)

横断歩道で見つけたクリスマス

クリスマスは子どもたちのためだけのイベントではない。それぞれが自分の役割の中で受け取ることのできる贈り物を見つける時なのだと思う。

自分流×帝京大学



Posted by HARCO

スペインの地中海側都市バレンシア北西部の小さな田舎に暮らし27年。24歳で単身留学し、スペイン17州全土の郷土料理を食べ歩く。その後、スペイン人の夫と結婚、村一人の日本人としての3人の子育てはショッキングなことの連続だったが、ライター、料理研究家、通訳・ワイン・オリーブオイル輸出、オリジナル体験型ツアープロデュースといった仕事と両立することにより、「食べて生きる」について、真剣に考える機会を得ることができた。現在は『食べて癒やすアルキミスタ』として、スペインのライフスタイル、食文化、ハーブをツールに、そのまんまの自分を生きる大切さを発信する活動をしている。