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「イタリアのカツレツとインドのカレーが日本のご飯に乗るとカツカレーになる」 Posted on 2017/06/27 千住 博 画家 ニューヨーク

美術関係者の中で大いに注目された国際絵画コンペ「第2回アートオリンピア」の審査員長を担当した。
この特徴は世界のトップクラスの美術関係者が82ヶ国からの応募作3834点を採点して、この得点のみで順位をつけるというところにあった。これは全く人情の通じないドライなものといえる。
実際審査を担当してみると、良いと思っていた作品が、賞の候補になるどころか、危うく落選してしまいそうになる場面もあった。

例えば私が90点の高い評価をしても、別の審査員が20点しかつけなかったら、平均点は55点となる。これはまあまあ凡庸だけど落選という感じでもない、と思って供に60点を配点した作品に負けることになる。
しかし、このようなことを私たちは自ら散々経験して来ている。これが世界の現実ともいえる。

国際的に活躍する芸術家たちは、このような中で生き残り、賛否両論の中を悠々と活動を続けているのだ。
 

「イタリアのカツレツとインドのカレーが日本のご飯に乗るとカツカレーになる」

審査員たちは多様な価値観、異なる出自によって成り立っていた。つまりこれは国際社会の縮図でもあったから、評価が分かれる事は当然とも思えた。
しかし、レオナルド、ルノワール、ピカソ等々あまたの歴史上の芸術家はあらゆる境界を越えて評価されてきたものだ。すぐれた芸術とは、多様な立脚点から出発するが、すべてを越えて、私たちが共通項としての“人間”という同じ側に立っていることを気付かせる。その上で改めてお互いの多様な価値観、歴史、風土を認識し、リスペクトしてそれをともに理解し合う。

例えば日本料理は日本の風土が生むユニークなものだが、全世界の人々はそれを同じ“人間”として楽しむことができる。日本人にしかわからないというものではない。
さらにいえばイタリア生まれのカツとインド生まれのカレーが日本のご飯の上に乗り、カツカレーライスとなる。

この時、新しい芸術が生まれる。芸術とはそうやって相互のユニークな文化を理解し、境界を越え、 化学変化を起こし、新しい世界を作り出してきた。
 

「イタリアのカツレツとインドのカレーが日本のご飯に乗るとカツカレーになる」

全応募部門1位 Alpha MASON
Neglect Inc.(フランス)

 
賞にとらわれることなく、自分の道を進めということもできる。
しかし満遍なく得点を得て賞に輝いた作品に対しての評価は必要だ。少なくともここに多様な社会が認め、相互理解の端緒が存在した事は事実だからだ。
同時に、異なる他者の存在、多様な個性を認めるからこそ、また私たちも個性を認められるということもある。このことの重要性も忘れてはならない。

審査後、関係者でレセプションが開かれた。先程まで様々な価値観を示していたすべての審査員が、一堂に会し、笑顔で手に取ったのはあるフランスのワインであった。そのワインは、私たちの溝を埋め、心を一つにした。
これが芸術の役割だと改めて感じた。私たちは、作品の中にそれを求めていたのだ。しかし今回私たちの目の前に並んだ作品の中に、はたしてどのくらいこれがあったのか。

世界からの高い評価を得ることがいかに難しく、タフなことなのか、改めて感じさせられた今回の審査会だった。
 

「イタリアのカツレツとインドのカレーが日本のご飯に乗るとカツカレーになる」

全応募部門2位 Petra Nimtz
I Heard A Rumor From Your Girlfriends Sister(アメリカ)

 
 

Posted by 千住 博

千住 博

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Hiroshi Senju
画家。京都造形芸術大学教授。1958年、東京都生まれ。1982年、東京藝術大学美術学部絵画科日本画専攻卒業。1987年、同大学院後期博士課程単位取得満期退学。1993年、拠点をニューヨークに移す。1995年、ヴェネツィア・ビエンナーレ絵画部門名誉賞を受賞(東洋人初)。2007~2012年、京都造形芸術大学学長。2011年、軽井沢千住博美術館開館。2013年、大徳寺聚光院襖絵を完成。2016年、薬師寺「平成の至宝」に選出され、収蔵。平成28年度外務大臣表彰受賞。2017年、イサム・ノグチ賞受賞。日本画の制作以外にも、舞台美術から駅や空港のアートディレクションまで幅広く活躍。