PANORAMA STORIES

q.b.レシピのないレシピ帳~ナポリの味パスタ エ パターテ~ Posted on 2021/02/27 八重樫 圭輔 シェフ イタリア・イスキア

新型コロナウイルスによる感染が拡大し、イタリアが混乱を極めてから約1年。
コンテ元首相は暗中模索しつつ舵をとってきましたが、連立与党内での対立などから1月26日に辞意を表明しました。そして暫定首相として留まった後、2月13日、マリオ ドラーギ氏が新たな首相に就任しました。

イタリアでは感染状況により各州を規制内容の異なるレッド、オレンジ、イエローの3つのゾーンに色分けするという政策がとられていますが、色分けの発表がある度に一喜一憂するという、あまり落ち着くことのできない生活が続いています

q.b.レシピのないレシピ帳~ナポリの味パスタ エ パターテ~



規制はレッドゾーンが一番厳しく、オレンジ、イエローの順に続きますが、イスキア島のあるカンパーニア州は2月21日から再びオレンジゾーンに指定されてしまいました。
※イスキア島はナポリの南、カプリ島の横に位置する南国のリゾート地です。

更に、週3日の半日登校を続けていた学校も、3月1日より再び閉鎖されることが2月26日に発表されました。

これによりレストラン内での飲食は禁止され、持ち帰りと宅配のみが可能となります。
約ひと月前にイエローゾーンになってからというもの、許可された半日のみの営業を細々と続けていましたが、今回は週末に向けて色々と仕入れをした矢先の発表でした。
土曜のランチの後、余ったものは従業員で分け、冷凍できるものは冷凍し、大掃除をして店じまいです。
今回の措置はとりあえず15日間ですが、過去の例から更なる延長も予想されます。
観光客は皆無なうえにピザ以外の宅配や持ち帰りの需要はあまりないイスキア島なので、自宅待機の日々になりそうです。

q.b.レシピのないレシピ帳~ナポリの味パスタ エ パターテ~

地球カレッジ

発表の後、血圧が上がって病院に運ばれた人や、泣き出す人などもいて、人々の精神的な負担が大きいことが伺われます。
僕はというと、経済的な影響は避けられないものの、もともと社交性が低く、友人との外出はおろか、バールでコーヒーを飲む事すら無いのでその点のストレスは普通の人より軽いのが不幸中の幸いかもしれません。
ワクチンの接種も始まっていますが、一刻も早くこのパンデミックが収束する事を願って静かに日々を送っています。

q.b.レシピのないレシピ帳~ナポリの味パスタ エ パターテ~



さて、つい運動不足になりがちなこの期間、散歩がてらスーパーに買い物に行く機会が増えます。
途中で知り合いに出会うと軽く世間話をしますが、その時の無難かつ楽しい話題に食事の献立というのがあります。

「ところで今日は何を食べるの?」

に始まり、大抵は「ああ、それはうちじゃこうするのよ」とか「作りたいんだけど、うちの子が苦手でね」というやり取りに。
そんな中、今までほぼ100パーセントの確率で「ああ、いいねえ」と返ってくるメニューがあります。
そして決まり文句のように「azzeccata アッツェッカータに限るよね。プローヴォラチーズは入れる派かい?」と続くのです。

それは“pasta e patate パスタ エ パターテ”(パスタとジャガイモ)というナポリ地方の伝統的な家庭料理で、とても簡単に作ることができます。
聞きなれないアッツェッカータという言葉と共にレシピをご紹介しますので、ぜひ皆さんも挑戦してスーパーで知人に会った時の話のたねにして下さいね。

q.b.レシピのないレシピ帳~ナポリの味パスタ エ パターテ~

パスタ エ パターテ ~ナポリ風ジャガイモのパスタ~  

★材料(4~5人分)
○ミックスパスタ 320g ○じゃがいも(皮をむいた状態で) 約600g
○玉ねぎ 小1個 ○人参 小1本 ○セロリ 1本 
○パンチェッタか背脂の部分、又は厚めのベーコン 80g ○ミニトマト 4~5個
○パルミジャーノチーズ(できれば皮付き)q.b.(適量)
○燻製プローヴォラチーズ(無くても可)100g ○塩 胡椒 オリーブ油 q.b.

q.b.レシピのないレシピ帳~ナポリの味パスタ エ パターテ~

(補足)ミックスパスタは中途半端に余っているパスタの寄せ集めで大丈夫です。
スパゲティもポキポキと小さく折って入れることができます。燻製プローヴォラのかわりにスカモルツァ、あるいはモッツァレラでも可。ミニトマトの代用にトマトペーストでも。

★準備 
じゃがいもは1~2センチ角ほどに切り水にさらしておきます。玉ねぎ、人参、セロリはみじん切り、パンチェッタ(ベーコン)は小さな角切りにします。パルミジャーノの皮がある時は、表面を削ってきれいにし小さくカット。

q.b.レシピのないレシピ帳~ナポリの味パスタ エ パターテ~

q.b.レシピのないレシピ帳~ナポリの味パスタ エ パターテ~

★作り方
①鍋にオリーブ油をふたまわし入れ、パンチェッタ(ベーコン)を加えて表面が少しカリっとするまで弱火で炒めます。玉ねぎ、人参、セロリを加え、しんなりするまでじっくりと炒めます。

②4つ切りにしたミニトマトを入れ軽く火が通ったら、じゃがいもを加えてさっと全体を混ぜ合わせ、材料全体がひたひたになる位の量の水を加え中火で沸騰させます。

q.b.レシピのないレシピ帳~ナポリの味パスタ エ パターテ~



③沸騰したら弱火にして塩をふりますが、後ほどチーズもかけるので、入れすぎないようにしましょう。全体がトロっとしてきたら、パルミジャーノチーズの皮を加えます。30分程かけて木べらでたまに混ぜながら煮込みます。

④次にミックスパスタを入れます。別茹でではないのがポイントです。ここからは焦げ付きやすいので、木べらで頻繁になべ底から混ぜながらパスタを煮ていきましょう。パスタが水分を吸って混ぜにくくなったら、その都度お玉1杯分くらいのお湯を足します。煮込んだじゃがいもとパスタから滲出した澱粉、チーズの皮で、固めのシチューのようなとろみが出てきます。パスタが大体ゆであがったら火を止めて2分ほど休ませます。燻製プローヴォラがある時はこの時点で角切りにしたものを加え、全体に溶け込むまで混ぜ込みます。好みでバジルを加える人もいます。お皿に盛って黒胡椒、パルミジャーノチーズをかけて出来上がりです!

q.b.レシピのないレシピ帳~ナポリの味パスタ エ パターテ~

この料理は決して水っぽく仕上げないことが肝心です。先ほど出てきたazzeccataアッツェッカータという言葉はナポリ地方では‘くっついた“という意味を持っていて、ここでは料理に十分な濃度がある事を指します。理想的な仕上がりはお皿を傾けても中身が動かないこと(まさにくっついた状態)、鍋の中に木べらをさしても倒れないこと、とよく言われますが、お好みで調整してください。

q.b.レシピのないレシピ帳~ナポリの味パスタ エ パターテ~

いずれにせよ、十分な濃度があるように仕上げてくださいね。この料理は17世紀にナポリの貧しい庶民の間で生まれたと言われており、じゃがいもがイタリアで食用になった、ごく初期に考案された事になります。当初はパンチェッタやプローヴォラといったぜいたく品は使われず、非常にシンプルだったようです。1773年に出版されたレシピ本にも載っていることから、その当時にはすでにポピュラーな存在であったと考えられます。じゃがいもと寄せ集めのパスタという2つの炭水化物を使ったこの1品は、低コストで栄養があり、おなかも満たせるので当時の貧しい庶民にとってはありがたいご馳走だったに違いありません。

白状しますと、僕は更にここへパンをちぎって入れるという、まさに炭水化物の三種の神器勢ぞろいにして食べますが、自制心のある読者の皆さんはあまり真似をしないでくださいね(笑)
それではまた次回、普段着の食卓でお会いしましょう。

q.b.レシピのないレシピ帳~ナポリの味パスタ エ パターテ~



※タイトルのq.b.とは適量を意味するイタリア語quanto basta(クワント バスタ)の略です。細かいことは気にせず臨機応変に、あなたなりのレシピにして頂けたらという思いを込めて。

自分流×帝京大学



Posted by 八重樫 圭輔

八重樫 圭輔

▷記事一覧

Keisuke Yaegashi
シェフ。函館市生まれ。大学在学中に料理人になることを決め、2000年に渡伊。現在は家族とともにイスキア島に在住。