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q.b.レシピのないレシピ帳~パスタのフリッタータ~ Posted on 2022/11/08 八重樫 圭輔 シェフ イタリア・イスキア

q.b.レシピのないレシピ帳~パスタのフリッタータ~

Aprile,dolce dormire「アプリーレ ドルチェ ドルミーレ、、、」
もう起きなければならない時間なのに、往生際悪く枕に顔をうずめながらぼんやりと呟く朝。直訳すると「四月の甘美な眠り」で、差し詰めイタリア語版の「春眠暁を覚えず」といったところでしょうか。今年もサマータイムが始まって日が急に長くなり、気の早い観光客はもう半袖を着ていたりします。季節の移ろいを感じる間もなく、なんだか突然布団をはぎ取られたかのように春はやってきました。虫も動物も植物も、柔らかな日差しを求めて手を伸ばすこの時期、どちらかというとインドア派の僕でさえピクニックにでも出かけたい気分になります。自然の中で食べるごはんというのは、どうしてあんなに美味しく感じるものなのでしょう。子供にも食事中のマナーについて小言を言わなくてすむので、お互い気も楽です。
 



q.b.レシピのないレシピ帳~パスタのフリッタータ~

日本にはお弁当という素晴らしい文化がありますが、イタリア人もパニーノ(パンにプロシュートやチーズなどの具を挟んだもの)をはじめ、ライスサラダやコロッケなど色々な食べ物をピクニックに用意します。イスキア島では、食料や食器類を布で包み、それを手編みのかごに入れて持っていくのが伝統的なスタイルだったようです。
今でも手編みの籠は日常でよく使われていますが、ピクニックにはリュックサックが一般的ですし、食べ物を包むのはアルミホイルだったり、タッパーだったり、食器もプラスチックのものだったりと現代的に変化しています。しかし、そう言ったわずかな便利さと引き換えに風情を失うのはあまりに惜しいので、次回はぜひ昔ながらのスタイルで出かけてみたいと思います。
 

q.b.レシピのないレシピ帳~パスタのフリッタータ~

さて、ナポリ地方の人々にとって、ピクニックには欠かすことのできない素朴な一品があります。
フリッタータ(野菜や肉、チーズなどの具を入れた卵焼き)の一種なのですが、これはパスタがメインという少し変わり種です。“昔おばあちゃんがよく作ってくれた”などという話を耳にすることも多く、世代から世代へ、思い出と共に受け継がれている料理です。海水浴場で、午後のおやつとして、そして普段の食事のおかずとしてもよく見かけるこのフリッタータ、では早速レシピをのぞいてみましょう。
 



q.b.レシピのないレシピ帳~パスタのフリッタータ~

『パスタのフリッタータ』

~材料~

◎スパゲティ 200g(かなり特殊なものでなければどんな種類のパスタでも結構です)
◎卵 3個
◎プロシュートなどのハム類 50g(今回はスペックという燻製生ハムを使用) 
◎お好みのチーズ 50g (今回は燻製のカーチョカヴァッロというチーズを使用)
◎パルミジャーノチーズ 塩 胡椒 q.b.(適量)
◎オリーブオイル バター  q.b.
◎牛乳 q.b.  ◎好みでタイムなどのハーブ
 

q.b.レシピのないレシピ帳~パスタのフリッタータ~

~作り方~

パスタをアルデンテに茹でます。ざるにとったら、くっつかないようにオイルを少し絡ませて冷まします。後述しますが、この料理は余ったパスタでも作ることが出来ます。
ボールに卵を割り入れ、塩コショウ、パルミジャーノチーズ適量、お好みでハーブ類を加えて混ぜます。そこに角切りにしたチーズ、適当な大きさに切ったハム類を加えます。
パスタの粗熱が取れたら卵のボールに入れてよく混ぜ合わせます。緩めのカルボナーラのような感じになりますが、卵が小さめだったりパスタが水分を吸いすぎてしまった時は牛乳を少々加えて調節します。
フライパンにオリーブオイル少々とバターひとかけを入れて熱し、上記の材料を流し入れます。この分量だと直径20センチくらいのフライパンが丁度よいでしょう(焦げ付きにくい加工が施されているもの)。適度な厚みのあるフリッタータが理想です。
弱火~中火で5分ほど焼きます。下の部分がカリカリに焼けたら蓋やお皿を利用してひっくり返し、さらに5分ほど焼きます。中によく火が通っていること、両面が香ばしくカリカリに焼けていることが出来上がりの目安です。すぐに食べない場合はアルミなどで包んでおきましょう。
 

q.b.レシピのないレシピ帳~パスタのフリッタータ~

q.b.レシピのないレシピ帳~パスタのフリッタータ~

さて、余ったパスタでもできると書きましたが、もともとは余ってしまったパスタを無駄にしないために考え出された料理だったようです。イタリアではみんなが集まって食事をする時、均等に分配するとか、食べきるといった概念があまりないので、料理に余りが出る事がよくあります。ですからこのフリッタータも決まったレシピなどはなく、簡単に言ってしまうと、余ったパスタに卵を入れて焼けばよいのです。トマトソースでもミートソースでも、ペンネでも、そこにひとさじ自分なりのアイデアを加えて。
素朴な料理ですが、それ故に様々なところでわき役として利用することができます。例えばカフェプレートにひと切れ添えればなんとなくお洒落に見えるかもしれませんし、肉料理に付け合わせてソースを絡めて食べてもおいしいかも知れません。今回は小さく切り分けて生ハムやチーズなどと盛り合わせ、ワインやビール、食前酒のおつまみ風にしてみました。皆さんも機会がありましたら是非挑戦してみてくださいね。
それではまた、普段着の食卓でお会いいたしましょう。

※タイトルのq.b.とは適量を意味するイタリア語 quanto basta(クアント バスタ) の略です。細かいことは気にせず臨機応変に、あなた次第のレシピにして頂けたら、という思いを込めて。
 

q.b.レシピのないレシピ帳~パスタのフリッタータ~

 

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Posted by 八重樫 圭輔

八重樫 圭輔

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Keisuke Yaegashi
シェフ。函館市生まれ。大学在学中に料理人になることを決め、2000年に渡伊。現在は家族とともにイスキア島に在住。