PANORAMA STORIES

q.b.レシピのないレシピ帳~名脇役!茄子のオイル漬け~ Posted on 2021/11/10 八重樫 圭輔 シェフ イタリア・イスキア

10月末、毎年サマータイムが終わって時計の針を1時間戻すと、何時もどこかで張っていた気持ちも魔法のように解ける気がします。それはこれから続く長いシーズンオフの始まりです。たった1時間の差なのに、日常の光の色が一気に変わったようで最初のうちは少し戸惑うこともあります。例えば、夕暮れを眺めながら出勤していた時刻には街灯が煌々と輝いていて、何だか遅刻したような気分になったり。

q.b.レシピのないレシピ帳~名脇役!茄子のオイル漬け~



次第に生活のリズムにも余裕が出てきて、心に潤いが戻ってきます。久々にピアノの鍵盤に触れたり、冬用の花の植え替えを考えたり、テレビは面白くないので見なくなりましたが、ソファーに腰をおろしてリモコンの代わりに携帯電話を手にする時間も増えました。おもむろにSNSを開いてスクロールすると、豪華な料理の写真や芸術的なお菓子、話題のレシピなどがいくつも出てきて眩しく映ります。暫く見とれたり感心したりしていると、時には自分の作っている料理が何だかつまらないもののように思えてしまうことも。

q.b.レシピのないレシピ帳~名脇役!茄子のオイル漬け~

普段から何かとスランプに陥ることの多い僕は、先日、このもがくような感じが何かに似ているなと、ふと考えました。

ああ、そうだ、小学校の時の水泳のテストだ。そう気づくのに時間はかかりませんでした。泳ぎはあまり好きではなかったけど、3級とか4級あたりで何とか人並みには出来ていたはず。あいまいに覚えたへたくそな息継ぎで、懸命にもがくように泳いだっけ。周りにはどう映っていたか知らないけれど。時折顔を上げた時に見える潤んだプールサイドやクラスメートたちの声。必死にゴールを目指したあの感覚。そうだ、あの頃と何も変わってないな、そう思ったら自然と口元が緩みました。
でも、もしかしたら今の世の中はその位でいいのかもしれません。あふれる情報は息継ぎの時にでも耳にして、あとは平泳ぎでもクロールでも犬かきでも、自分の決めたスタイルで進んで行けば。器用に生きている人なんてそうそういないはず。本当は皆、もがきながら必死に毎日を泳いでいるのかもしれませんね。

q.b.レシピのないレシピ帳~名脇役!茄子のオイル漬け~

地球カレッジ

僕も新しい料理やお菓子を食べてもみたいし、試すこともありますが、やはりいつも作っていたいのは昔ながらのやり方の素朴な料理たちです。
このレシピ記事を始めたきっかけも、有名ではない、普段の食卓に上るような素朴なイタリアンを知ってもらいたいからでした。伝統が少しずつ失われていく中で、一人の日本人がそれを継承して自分なりのスタイルを確立出来たら、それはそれで面白いのかもしれない。
そう考えるとずいぶん気が楽になる近頃なのでした。

q.b.レシピのないレシピ帳~名脇役!茄子のオイル漬け~



さて、そういうわけで今回もとっても素朴で、いつも以上に地味な一品をご紹介しますよ!堂々と(笑)決して主役にはなれませんが、とっても重宝する名脇役、茄子のオイル漬けです。それでは早速レシピを見てみましょう。

※タイトルのq.b.とは適量を意味するイタリア語quanto basta(クワント バスタ)の略です。細かいことは気にせず臨機応変に、あなたなりのレシピにして頂けたらという思いを込めて。

q.b.レシピのないレシピ帳~名脇役!茄子のオイル漬け~



材料(約250㎖の瓶2つ分)

○皮をむいた茄子 1㎏ ○あら塩 80g ワインビネガー 500㎖
○オレガノ q.b.(適量) ○唐辛子、ニンニク q.b. 
○サラダオイル、オリーブオイルq.b.
※瓶は事前に煮沸消毒をしておきます。実のしまった秋茄子で作るのが一般的です。
目安として1.2㎏ほどの茄子の皮をむくと大体1㎏になると思います。

<作り方>

1、茄子はヘタを取り皮をむきます。(皮をむくのは栄養価の面などからしても、勿体無いかもしれませんが、食感や見た目が劣るのでむきます。皮はきんぴらをはじめ、様々な利用法があるようですよ)

2、長さ5㎝、厚さ4~5㎜ほどの棒状に切っていきます。塩をまぶしつつボールに入れていきます。切り終わったら全体をざっくりと混ぜ合わせます。丁度よいお皿などをかぶせ、水を入れた鍋などの重しを乗せて12時間おきます。途中で1、2度全体を混ぜると良いでしょう。時間は大体で大丈夫です。

q.b.レシピのないレシピ帳~名脇役!茄子のオイル漬け~

3、ザルにすくい上げます。茄子から出た水分の底に種がたまるので、手でそっとすくいましょう。再びボールに入れてワインビネガーを加え、同じように重しをして12時間おきます。

4、ここからの作業は清潔な食品用の手袋を使うのがおすすめです。手でぎゅっと絞りながらザルにあげます。また底に種が残っていると思うので、できるだけ入れないようにしましょう。清潔な布の上に広げて一時間ほどおいてしっかりと水けを取ります。

5、ボールに入れてオレガノ、スライスしたニンニク、唐辛子を加えます。オイルを全体にまわしかけてよく混ぜ合わせ1時間おきます。続いて、瓶にギュッと押し込めながら詰めていきます。詰め終わったら茄子が完全に浸るまでオイルを入れます。まずはボールに残ったオイルを入れ、足りない分は加えます。軽く蓋をしておきます※ヒマワリ油などのサラダオイルを使うのが一般的ですが、僕はここに少しオリーブ油も混ぜます。お好みで。

6、半日くらいしたら蓋を開けてみましょう。茄子がオイルを吸って表面に出ている場合があるのでその分のオイルを足し、今度はしっかりと蓋を閉めて完成です!

q.b.レシピのないレシピ帳~名脇役!茄子のオイル漬け~

冷暗所で保管し、最低でも1週間、できれば1か月くらい待ってから食べましょう。
しばらく経った方が味がなじんで美味しくなります。
開封後は冷蔵庫で保管し、その都度オイルを足して常に茄子が浸かっている状態を保ちましょう。また、夏場は未開封でも冷蔵庫に入れるのが良いでしょう。きちんと保存すれば1年間は美味しく楽しむことができます。
少し根気がいるかもしれませんが、1度作ってしまえば便利な保存食として重宝します。

この作り方は家庭ごと地方ごとに沢山のバリエーションがあり、今回ご紹介したのはほんの1例です。切り方も様々、酢と水を割ってつける方法、さっと湯がく方法など色々です。以前、ミント入りのものをもらったことがありますが、それも美味しかったです。

さて、次回はこれを使った簡単な料理をいくつかご紹介したいと思いますので、どうぞお楽しみに!それではまた普段着の食卓でお会いしましょう。

q.b.レシピのないレシピ帳~名脇役!茄子のオイル漬け~

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Posted by 八重樫 圭輔

八重樫 圭輔

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Keisuke Yaegashi
シェフ。函館市生まれ。大学在学中に料理人になることを決め、2000年に渡伊。現在は家族とともにイスキア島に在住。