PANORAMA STORIES

ポテオリ ~古代ロマン息づく聖書の町~ Posted on 2017/03/09 八重樫 圭輔 シェフ イタリア・イスキア

ー シラクサに寄港して、三日間とどまり、 そこから回って、レギオンに着いた。一日たつと、南風が吹き始めたので、二日目にはポテオリに入港した。ー

聖書の中の一節、使徒パウロがローマに辿り着くまでの足取りを示した箇所です。
ここに登場するポテオリとは、現在ではポッツォーリと呼ばれる、ナポリ近郊の都市を指します。

古代ギリシアの植民都市として発展し、ローマ時代においても重要な港として栄えたポテオリ。
現代では人口8万人ほどの、活気ある港町です。
 

ポテオリ ~古代ロマン息づく聖書の町~

「Port scene」フレスコ画/ナポリ国立考古学博物館所蔵



ポッツォーリへはイスキア島からも頻繁に船が出ていて、40分~1時間ほどで着くことができます。
しかし、いつも通り抜けるだけで、なかなかゆっくりと見る機会がありませんでした。    

例年、冬のバカンスには家族旅行を計画しますが、今年は都合がつかず家でのんびり。
けれど、、、1年を通して島から殆ど出る機会のない僕としては、やっぱりどこかに行きたい!
ということで、バカンスの最終日、急遽ポッツォーリへ。

本当は、体操の大会に出場する長女の付き添いで、ナポリの郊外に行くついでなのだけれど。  
でもこのままでは、明日からまた始まる仕事の日々に、新たな気持ちで向かえない気がしていたのです。

僕と長女と次女、同じ大会に出る女の子と、その妹とおばあちゃん。
僕らは早めに出発し、ポッツォーリへ向かいました。6人でのミニツアー。
 

ポテオリ ~古代ロマン息づく聖書の町~

船に乗る度に、初めてイスキアに来た時のことを思い出します。

この辺りはムール貝で有名で、養殖場が波間に見えます。
奥に見えるのはイスキア島。
  



ポテオリ ~古代ロマン息づく聖書の町~

ポッツォーリの港が見えてきました。古代より幾千、幾万もの船を迎え入れてきた古の港。

最初の目的地は、港から歩いてすぐ傍にある古代の市場跡です。
町の中に突如として現れ、中央にはエジプトの神セラピスを祀ったとされる神殿跡が。 
    

ポテオリ ~古代ロマン息づく聖書の町~

ポッツォーリのある一帯はカンピ・フレグレイ(燃える平原)と呼ばれ、古代より火山活動が活発な地帯です。
そのため、土地の隆起も非常に激しく、この市場跡も海中に沈んだり、露出したりを繰り返してきました。

ですが皮肉なことに、海面下に沈下していた時期があったことで、この遺跡は比較的保存状態のよいまま現代に残ったそうです。、、、、と同行した、おばあちゃんのアンナマリアが説明してくれました。
彼女は昔、教師だったのです。 
     

ポテオリ ~古代ロマン息づく聖書の町~



ポテオリ ~古代ロマン息づく聖書の町~

それから次の目的地、世界で3番目の規模を誇ると言う、ローマ時代の円形闘技場へ向かいました。  
入口付近には、発掘物が山積みされています。

コロッセオと同じ建築家たちが携わっているとされていますが、驚くべきはその地下部分でした。
 

ポテオリ ~古代ロマン息づく聖書の町~

装飾のついた柱がそこここに転がり、控室などの様子がよく残されています。
当時の観衆の熱狂が、猛獣たちの荒い息や剣闘士の鼓動が、耳をすませば聞こえてくるかのようでした。
先ほどの市場跡といい、遺跡自体がまだ熱を帯びているような感じ。まだ過去になりきっていない、生の迫力がありました。

地上部分に出てみると、強い硫黄の匂いがしました。
すぐ近くに、激しく硫黄と蒸気を吹きだす硫気口があるのです。
市民階級ごとに分けられ、スムーズな入退場が行われていたという観客席。
       

ポテオリ ~古代ロマン息づく聖書の町~

舞台にはエレベーターのような装置までついていたと言います。
今は木立に囲まれ、訪れる人もまばらな古代の夢の跡。
見あげると、青空が楕円形の形に広がっていました。

冬とは思えない穏やかな陽気の中、隅々まで歩いていると、何とも清々しい気持ちになってきました。
” 私もずっと、ここに来てみたいと思っていたの。今日は良かったわ。” アンナマリアが言いました。
 

ポテオリ ~古代ロマン息づく聖書の町~

時計を見るともう午後1時。そろそろ電車に乗って、大会の会場に向かわなくてはなりません。
近くの公園でお昼を済ませてから行くことにしました。
子供たちも、遺跡巡りを思いのほか楽しんでくれたようです。
ポッツォーリには他にも見所があるのだけれど、僕たちのミニツアーはこれでおしまい。
またいつか、きっと来るよ。

その後、大会が終わった頃にはもうすっかり夜だったけど、心地よい疲れの中、明日へのやる気がみなぎり始めていました。

明日という日が、もしもため息と共にやってくるのならば、旅に出てみよう。
それがたとえ隣町でも、ほんの数時間でも、心に羽があるならば素敵な旅になるかもしれない。
思い込みもしがらみも、焦りも不安もみんな置いて知らない空を泳いでみよう。
いつもと違ういつもの毎日が、その先に見えてくるかもしれない。
 

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Posted by 八重樫 圭輔

八重樫 圭輔

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Keisuke Yaegashi
シェフ。函館市生まれ。大学在学中に料理人になることを決め、2000年に渡伊。現在は家族とともにイスキア島に在住。