PANORAMA STORIES

q.b.レシピのないレシピ帳 ~憧れの? ポリバケツライフ~ Posted on 2017/12/07 八重樫 圭輔 シェフ イタリア・イスキア

やりたい事は色々あるのになんだか気忙しく、何かを始めても集中力がない。
そしてしまいには言い訳のように呟いてしまう事がある「時間がない」と。
そういう時、僕は自分の生活スタイルを見直してみる。
少し複雑になりすぎてはいないかどうか。

イスキア島に来てまだ間もない独身時代、とても質素な家に住んでいたことがあった。
イタリアの貸家は生活に必要な家具類が大抵揃っているのだが、その家にあった唯一の電化製品と言えば古い冷蔵庫だけで、家具もまるで時代から取り残されたような代物。
パソコンはもちろんテレビさえなく、持っていたCD ウォークマンのイヤホンを
古い瓶や鍋に入れて反響させ、スピーカー代わりにしていた。

でもこの家の極めつけは、あるものの欠如だった。
世界中から観光客が押し寄せるイスキア島はシーズン中、慢性的な水不足になり、断水が日常的に行われる。
それを補うために各家庭には貯水タンクがあるのだけれど、この家にはそれが無かったのだ!
 



q.b.レシピのないレシピ帳 ~憧れの? ポリバケツライフ~

そんな事情を知らなかった僕は、ある朝いつものように蛇口をひねって愕然とした。
コホォォーッ……ん!? 慌てて別の蛇口もひねってみたがやはり、コホォォーッ……
乾いた空気の音だけが、地下からむなしく立ち上ってくるだけではないか。
その後レストランで話を聞き、自分が置かれている状況をようやく理解すると、すぐに大きなポリバケツを買いに行った。
そして翌朝から、断水前の水溜め作業と節水生活が始まったのだった。

毎晩、仕事から帰るとポリバケツから水を汲んでシャワー、というか行水をした。
それに加え、当時は今よりも頻繁にあった停電。
キャンドルを灯してワインでも飲もうものなら ”ここはいったい何時代ですか” という気分になったものだ。
でも、それほど不便だとは感じていなかったし、何より今とは違うもっと静かな時間の流れがあった気がする。
そしてこの頃の記憶というのは色がはっきりしていて、まるで手元にあるスナップ写真を
見るよう。ボタン一つで消えてしまいそうな危うい記憶ばかりの最近とは対照的に。
 



q.b.レシピのないレシピ帳 ~憧れの? ポリバケツライフ~

たまにうっかりして蛇口をひねってしまった時の、コホォォーッ……の小馬鹿にしたような音(笑)!
そのまま蛇口を閉め忘れて、翌朝には家じゅうが水浸しになっていたという事件も、今となっては懐かしい。

あれから十数年、環境も変わったし生活も少しは豊かになったし、インターネットの普及で情報量も増えた。
でもやっぱり心のゆとりというのは、そういうものとは関係ないんだなあと思う。
物事が過剰にあふれる世の中、自分に本当に必要な物、やりたい事を判断して選択する力を持たないと、いつの間にか流されて余分なものに囲まれてしまう。

イタリアで僕なりに経験を積みながら掴んだ、生活を複雑化させないためのちょっとしたヒント、それはとっても簡単。

“シンプルな生活をしていると考え方もシンプルになる”

忙しい時ほどたまには立ち止まって、自分の心の声に耳を傾けてあげよう。

さて、毎日の食生活だって考え方に影響を及ぼすのかもしれません。
素朴でヘルシーなイタリア料理を食べて、身も心もすっきりさせましょう!
 

q.b.レシピのないレシピ帳 ~憧れの? ポリバケツライフ~


 ~茄子の肉なしハンバーグ~


★材料★

(小さめのハンバーグ約20個分)

●茄子 約1キロ  ●卵1~2個

●硬くなったパン、またはパン粉 q.b.(適量)

●パルミジャーノチーズ q.b.

●バジルの葉少々  ●塩 q.b.

※パンは1~2日ほど前の少し硬くなったものを切り、水で軽く濡らしてからギュッと絞っておきます。

★作り方★

オーブン、またはトースターなどで焼き茄子を作る。
焼き茄子の皮をむき1cmくらいの角切りにする(適当でOK)。
ボールに茄子、卵、チーズ、バジル、パン、塩を加えよく練ります。
茄子から水分が出るので5分ほどおきます。パンとなじんで程よい硬さになったら(普通のハンバーグと同じ位の硬さです)形を整えます(気持ち小さめに)。
オリーブオイルをひいた、十分に熱したフライパンでじっくり焼いて出来上がり!
 

q.b.レシピのないレシピ帳 ~憧れの? ポリバケツライフ~

q.b.レシピのないレシピ帳 ~憧れの? ポリバケツライフ~

この料理は家庭によってレシピが本当に様々です。茄子を焼かずに茹でるやり方もあります。ハンバーグを焼かずにパン粉をまぶして揚げる人、フライパンではなくオーブンで焼く人、焼いた後にトマトソースで煮込む人、、要するに好みとアイデア次第で、これといった決まりはありません。今回は我が家の子供たちも大好きな、シンプルなレシピで作りました。あっさりしているのでぱくぱく食べられます。因みに自家製のケチャップをかけて食べています。                   

          
正直言って初めて食べた時は“ふーん”といった印象でしたが、後を引く美味しさがあり今ではすっかり好物になりました。冷めてもおいしいので、お弁当に入れてもよいかもしれません。
今回はワンプレートランチ風にしてみましたが、皆さんも色々なアイデアで楽しんでみてくださいね。
それではまた、普段着の食卓で!
 

q.b.レシピのないレシピ帳 ~憧れの? ポリバケツライフ~

※タイトルのq.b.とは適量を意味するイタリア語 quanto basta(クアント バスタ) の略です。細かいことは気にせず臨機応変に、あなた次第のレシピにして頂けたら、という思いを込めて。
 
                 

自分流×帝京大学
地球カレッジ



Posted by 八重樫 圭輔

八重樫 圭輔

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Keisuke Yaegashi
シェフ。函館市生まれ。大学在学中に料理人になることを決め、2000年に渡伊。現在は家族とともにイスキア島に在住。