PANORAMA STORIES

マダム・アコのパリジェンヌ通信『私が一番好きなバゲット』 Posted on 2023/05/04 Ako アーティスト/フリージャーナリスト パリ

 
皆さんもきっとご存知の通り、パリは20区に分かれています。
パリがここから生まれたと言われるノートルダム大聖堂のあるシテ島が1区、と思いきや、元宮殿だったルーブル美術館界隈が1区で、そこを中心に外に向かって渦巻きを描きながら20の区が展開しています。
各区にはそれぞれに個性あって、区の境を越えるやいなやまるで新しい、違った物語が始まるかのよう。
区ごとにその昔から紡がれ続けているストーリーがあります。
 



マダム・アコのパリジェンヌ通信『私が一番好きなバゲット』

 
パリジャンたちとパーティなどで出会うと、最初に「何区に住んでいるの?」としばしば聞き合います。
その答えで、その人の生活風景をちらりと頭に浮かべてみたりします。   
「akoは何区にすんでいるの?」と言われると、私は特別に区だけでなく界隈名も添えて答えます。
なぜなら私の住んでいる区は、その一部でしかないのに中華街があまりにも有名。
区だけを伝えると、まるで北京ダックや豚足の吊るされた店が並び、赤い提灯がぶら下がる、ドリアンの香漂う通りに住んでいるとイメージされがち…。
実際この区には、世界が愛する美しいゴブラン織工房&国立家具美術館があったり、ドミニクペロー建築の国立大図書館があったり、白の女王の城やビュットーカイユ(うずらの丘)という昔ながらのヴィラージュ(カフェの集まる村)があったり、パリの飾らぬ表情がいっぱいなのです。
我が家からは17世紀以来続く宮廷公園のような植物公園や動物進化大博物館、セーヌ沿いの屋外彫刻美術館も散歩コース。
高台なので普通のアパルトマンですがエッフェル塔やパンテオンが望めます。
素敵なところでしょう?
しかし、私がここから離れられない理由は、他にあります。
 

地球カレッジ



マダム・アコのパリジェンヌ通信『私が一番好きなバゲット』

マダム・アコのパリジェンヌ通信『私が一番好きなバゲット』

 
 それは、偶然に運命の導きでここに住むことになりましたが、運命とは時に望む方向に進んでいくのかも、と思わせること。
私は生まれて以来今日まで、ご飯がなくともパンがあれば生きていける大のパン好きなですが、美味しいブランジュリー(パン屋さん)が、ここにはパリのどこより集中して多いようなのです。
単に‘美味しいと思える’のではありません。
何年も前から市や県や国が主催する、バゲットやクロワッサン等々のコンクールで賞をとっているブランジュリーが、犬も歩けば棒にあたるように点在しています。
毎日最上級のバゲットが食卓にあり、休日のブランチには最上級のクロワッサンがあり、おやつには最上級のタルトがある日常の幸せったら!
 



マダム・アコのパリジェンヌ通信『私が一番好きなバゲット』

 
そんな逸品を作る彼らは、パン職人として若い頃より朝一番小麦をこね続け、先代のアドバイスをしっかり取り入れながら自分の味を追求してきたブランジェール。
どんなに素晴らしい賞をとっても、地域に根付いた、地域の胃袋を任されたブランジェールであることは代わりなく、値段は普通の市場価格。
我が家の窓辺に朝夕、パンが焼ける芳ばしい香りを運んでくれる、中庭を挟んだ通りの小さなブランジュリーも、数年前にバケット・トラディションでいくつかの賞をとりました。
ご近所さんたちと「最近、ここのトラディション、すごく美味しくなったわね」と噂をしていたすぐ後のこと。
だからと言って客層は変わらず、地域のおばあちゃん、学校帰りの子供たち、仕事帰りのビジネスマンが、相変わらず小銭を握ってやってきます。
ソンチーム(1円代)のやりとりがあって、かつての日本の駄菓子屋さんのような趣と時間が息づいています。
夕方や休日などは、このバケット・トラディション目当てに人々は長い列を作りますが、誰も文句を言わず、並びながら見知らぬ者同士のお喋りが始まり、焼きたてで熱々のちょっと焦げたそれ(どこかお餅みたいな)をやっと手にすると、ちぎって口に放り込みながら、誰もが揚々と歩いて家に向かうのです。
 

マダム・アコのパリジェンヌ通信『私が一番好きなバゲット』

 
パンは主食なので、毎日必要。
我が家はこの店が休日だと、東へ2分ほど歩いたところにある、21年に有機パンで国内1位、 リンゴタルトでパリ1位 、昨年はガレットでパリ1位受賞のパン屋さんへ足を伸ばします。
時には南へ徒歩2分ほどのクロワッサンで賞を取ったパン屋さんへ。
パン好きの皆さんが羨ましそうにしている目が浮かびます。
ごめんなさいね!
さて、記事も書き終わったし、美味しいバゲット買いに行って来ますー!
 

マダム・アコのパリジェンヌ通信『私が一番好きなバゲット』

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Posted by Ako

東京生まれ。1996年よりパリ在住。セツモードセミナー在学中にフリーライターとして活動を始める。パリ左岸に住みアートシーン、ライフスタイルなど、生のフランスを取材執筆。光のオブジェ作家、ダンスパフォーマーとしても日々活動。