PANORAMA STORIES

いま Posted on 2020/06/05 Summer Shimizu 現代美術家、写真家 ニュージーランド・オークランド

こちらアオテアロア(ニュージーランド)。パンデミック以前の生活に戻ったような、空気感がプンプンである。5月14日から警戒レベル3から2へと緩和され、学校は子供たちの元気な声で溢れ、案外楽しんだ在宅勤務が終わり出社する人もあり、交通渋滞はほぼ元どおり。目に見えるように綺麗になった空気も、活発に動いていた生き物たちも、だんだんと排気ガスで覆われて、またひっそり隠れて暮らすようになった。
 

いま

相変わらず国境は、ほとんど閉まった状態。海外ターゲットの観光・ビジネス業へ打撃は大きなく、そちら側のオーブンの温まりはまだ少し時間を要するも、国内の経済はグルグル巻である。ホームセンターやスーパーでの買い出し、カフェレストランでも制限や決まり事はあるが、おおかた普段通りな再開。こと新しいことは、ポンプサイズの消毒液が、レジカウンターのあちこちに登場。全体的にレベル2の制限にはそれほど圧迫感はなく、冠婚葬祭などの特別なことがない限り、比較的日常生活が戻っている。

今回のことで、公衆衛生が改善されたように思える。一人一人の心がけに、変化が現れていることに気が付く。発展途上国の衛生レベルではないが、日本ほど綺麗好きが多いとは言えないアオテアロア。全てに「No worries! (あ〜、そんなの大丈夫〜!)」みたいな大らかな点は気楽だが、衛生面に関してもNo worriesだった。そういった点で考えると、パンデミックのおかげで衛生面が見直され、政府からの一方的な強制ではなく、みんなも学び習慣づいたことは良い面だろう。

警戒レベル2は一ヶ月以上続く予定だったが、二週間以上繰り上げて、来週からさらに緩和し、レベル1を開始する方向で検討中。ただし、特に大きな問題が起こらないことが前提である。ロックダウン中にすでに行われていたが、検査も感染の疑いのない人にも行い、先日も日本人コミュニティーから、無料で検査できるクーポンが送られてきたほど、政府は念には念を押している。普段の生活には、レベル2も1も、そう大して明らかな違いはなさそうだ。
 

いま

※どこの誰がカフェに入ってきたか形跡が残るように、カフェ入店前に、スマホでオンラインチェックイン。会計の後、チェックアウトを同じくスマホで済ます。私が入ったカフェは、アプリでチェックインした客だけ通していて、他のレストランでは、ノートに手書きで名前と連絡先を書くようなカジュアルな形式を設けていた。※
 
特に、パッとするようなニュースはないが、特にこの数日間は、私のSNS画面は真っ黒に染まった。人々の叫び声や訴える声が、目に見え聞こえてくる。アオテアロアも今、世界中が立ち上がり、アメリカで起こっている人種差別についての報道、デモ、SNSでの抗議が強く広まっている。私も長年海外に住んでいることから、沢山の差別的体験をし、大学での卒業作品テーマは、インタビューベースの「マイクロアグレッション」だった。もちろん国から殺されるかもしれないことを考えながら過ごす国ではないが、何事も比べてはいけないと私は考えている。みんなは気付いていないだけで、無意識的な差別は、親子間でも友達間でも日常茶飯事に起こっている。マイクロすぎて、アメリカで起こっている暴動ほど、明確には見えない。

今伝えたいことは、勢いに乗ることは間違ってはいないが、きちんと理解せず握り拳をあげることより、沢山の関連書物を読み、多くの国際交流で意見交換をし、同じ釜の飯を食べ、子供から教育を深めることが、この問題に立ち向かう私たちができる一番の近道のような気がする。その上で握り拳を挙げられるだろう。ただ今の活動に、世界中の多くの周波数が一致していることは確かだ。
 

いま

※暦では冬だが、晩秋の候というのだろうか、紅葉狩りも終わりを迎える時期にきた。

 
私はというと、レベル2が始まって、今までになく人、人、人に会っている。少々本末転倒かもしれないが、このパンデミックやロックダウン生活について、コンタクレスなインタビューを行い、ポートレイト写真も撮影している。
写真は、嘘をつくと同時に真実も伝えたりするが、表面的な物を記録することは大得意だ。今はまだ、このロックダウン生活を経験し、第一派が収束しようとしているこの時点で、みんなの気持ちや考えが新鮮なうちに彼らを記録したかった。

インタビューは、ジョージ・フロイドさんが亡くなる前のものばかり。これからインタビューする方は、何かしら答えがが反映してくるだろう。

すでに20人程の撮影とインタビューが終わっているが、今回はその中から数人に登場してもらおう!
 

Paula ポーラ

1.ロックダウン生活が始まってから、物の見方や考え方で変わったことはありますか?
「自分自身の中で固執してきた、常に何かをやっていなくてはいけない、という概念に対して、少し余裕を思って考えられるようになった。その日一日、特に予定が何もなくても、後ろめたい気持ちがなくなってきた。」

2. ゆっくり時間が流れる生活の中、最も嬉しいサプライズは何ですか?
「今までなんとも思わなかった物事から、小さな喜びを見つけられるようになったこと。例えば、特に何処かへ出かけ誰かに会う予定もなく、お日様の下、カーペットの上でゴロゴロしたり、歩道ではなく道路を走ったり散歩したこと。他には、スーパーでのレジ待ちの時、特に急ぐこともないから、他の人を優先して、並んで待つという時間が安らぎにさえ感じること。
ロックダウン中は、息継ぎをする暇もないほどの、忙しい日々のことをよく思い出していたわ。もっと急がずに毎日を過ごすことができれば、何を成し遂げるにしてももっと上手にできるのに、って前々から考えてた。今は、その理想のような生き方を全うすることができている。今、という時間があるうちは、そういうことができる時間に感謝しながら、毎日を丁寧に生きていきたい。」

3. 自粛制限やロックダウン生活が終息したあと、世界はどのように変化していることを希望しますか?
「以前は軽視されていた、スーパーで働いている人たち、清掃者、配達業者、高齢介護福祉士など、当たり前のように思われがちな労働者の方々に対して、感謝の気持ちを表したいと思います。これからも、その感謝の気持ちと伝えることをいつまでも忘れずに、誰にでも優しく接することができる、私たちになれますように。」
 

いま

Kaustubh カウストブゥ

1.ロックダウン生活が始まってから、物の見方や考え方で変わったことはありますか?
「ロックダウン生活で気づいたことは、本当の幸せが私の手の中に、もうすでにあったこと。自分を見つめ直し、シンプルな生活の方が、より良い人生を築けると気づけた。」

2. ゆっくり時間が流れる生活の中、一番良かった出来事は何ですか?
「毎日子供なしで、愛する妻と二人きりの散歩。(笑) あとは、料理することだね。」

3.自粛制限やロックダウン生活が終息したあと、世界はどのようになっていると思いますか?
「世界は、これから二つのタイプの人間に分かれる。一つは、次世代の人々が存分に活躍できるように、環境や社会に優しく務める人。もう片方は、母なる大自然から何も学ばない人たち。ただ単に、今、世界的大流行している感染症のせいで始まったロックダウン生活や経済に対して嘆き、自分から何も変えようとしない。世界が回り始めても、ロックダウン前と同じ生活にしがみ付きたがるだろう。」
 

いま

Alice アリス

1.ロックダウン生活が始まってから、物の見方や考え方で変わったことはありますか?
「ロックダウンは、毎日の生活リズムから私を開放してくれた。木や鳥、そして海から大地の母「パパ」の息遣いを聞いた。もっと喜びをもって地球を愛したい。」

2. ゆっくり時間が流れる生活の中、一番良かった出来事は何ですか?
「何かポジティブなことがしたかった。千羽の折り鶴、一羽一羽に祈りを込めた。完成した翌日、新規感染者数がゼロに!偶然か奇跡か、いずれ歓びだ。私もとても感動した。」

3. 自粛制限やロックダウン生活が終息したあと、世界はどのようになっていると思いますか?
「人間同志、もっと思いやりをもつ関係が生まれそう。でも、地球にはもっと努力が必要。目に見えないものをいたわる、慈しみの心をもって生きたい。」
 

いま

Nââwié ナウイア

1.ロックダウン生活が始まってから、物の見方や考え方で変わったことはありますか?
「私はロックダウンが始まってから、常に何かを生産すべきという資本主義的なプレッシャーがなくなったから、ものすごくゆっくり過ごすようになった。」

2. ゆっくり時間が流れる生活の中、最も嬉しいサプライズは何ですか?
「まだ早い段階で、ジャシンダ(NZ首相)への成功を祝う世間に驚いた。彼女は、先住民を過小評価する政府の象徴であり、忘れてはならないことは、彼女は「太平洋の顔」にまで選ばれたのに、今まで一度もIhumātaoを訪問しなかった。」

─ ⬆︎NZの歴史・背景に少し触れます。フィジーを拠点とする、Islands Business雑誌が、名誉のある「太平洋の顔」を、今年はジェシンダ首相を選びました。サモアやフィジー、トンガなど、太平洋出身ではない人が選ばれたのは、これで二人目。

Ihumātaoとは、2019年7月に始まった土地問題一連の抗議行動と、マオリ人の土地の名前を指しています。NZの歴史、ワイタンギ条約などが複雑に絡んでおり、NZ文化遺産省が、住宅開拓のために強制的な土地の買収を宣言し、マオリ人を中心に抗議のデモが行われています。感覚的には、沖縄の基地問題のような複雑さや社会性に、私は少し似ているような気がします。

一見、平和的なNZなのですが、先住民族・マオリ人とパケハ(ザックリいうとヨーロッパ系NZ人)との間には、まだまだ繊細な土地問題と歴史があります。ちなみに、インタビューに答えてくれたナウイアは、マオリ人ではありません。

歴史については、簡単な言葉では言い表せられないし、言い表してはいけないことなのですが、また次回機会がある時にお話しします。─


3. 自粛制限やロックダウン生活が終息したあと、世界はどのように変化していることを希望しますか?
「二つあります。新しい形の「社会的親密さ」と「空間的結束」を発展させること。それには、世界的な西洋思考を解体して搾取労働のない新しい経済構造を作っていくこと。」
 

いま

Kaoru カオル

1.ロックダウン生活が始まってから、物の見方や考え方で変わったことはありますか?
「海外にいる家族が、時間的に遠く離れている感じがします。いつになったら会えるでしょうか。」

2. ゆっくり時間が流れる生活の中、最も嬉しいサプライズは何ですか?
「世界は、もっと立ち止まることができると感じました。私にはまだ締め切りや、人とのやり取り、仕事もあります。あと、車が無いオークランドは最高です。そのことを経験できて、とても嬉しいです。」

3. 自粛制限やロックダウン生活が終息したあと、世界はどのようになっていことを望みますか?
「将来のパンデミックに、もっと人道的な対応ができる国が増えるといいと思います。停止や中断を全面的に利用して、私たちの存在が、もっと持続可能なものに変わることを希望します。困難な状況にもかかわらず、起きた良いことを忘れないことが、私の望みです。」
 

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Summer Shimizu

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Summer Shimizu
現代美術家、写真家。オーストラリアだと思い込んだ学校が合格後にニュージーランドだと判明。そのまま1997年ニュージーランド移住。英語試験IELTSに4回失敗。5回目で大学入学を掴み取る。2003年Massey大学情報サイエンス学部コンピューターサイエンス&情報システム学科をダブル専攻卒業。ITサポートとして大学やアパレル会社アイスブレーカー本社で世界支社を支える。退職し写真学校で写真基礎を学ぶ。国最高峰のアートスクールに2016年入学、オークランド大学芸術学士号卒業。2019年同大学院芸術修士号をFirst Classで卒業。広告写真撮影のアシスタント業をしながら現代美術家として個展やグループ展を開催。現代彫刻、異文化交流や社会性、帰属意識を概念とした作品が多い。