PANORAMA STORIES

かゆい Posted on 2020/07/01 Summer Shimizu 現代美術家、写真家 ニュージーランド・オークランド

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「アジア人の声は聞こえない」と友達からよく言われる。アジアコミュニティーからの声は確実に存在しているのだが、確かに今回の人権主義抗議デモと同じような活動はないに等しい。香港の抗議デモについて言及する人もいるが、発端と目的が違う。アジア諸国で英語が公用語でない国が多いだけに、英語圏まで届きにくいのかもしれない。目上の人を敬い、宗教的・文化的な温厚さ、家族のことを想い、物事をはっきり言わない風潮が、デモや暴動が安易に起こらない背景がある。アジア諸国以外の人には、同じような概念は持ち合わせていない。西洋の人たちの視点では、何も言わないは、興味がないと解釈されることがほとんどだ。
 

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やはり、私が属していない文化・経験以外のことを語るには、文化的に不適切だと感じた。そこでジンバブエ出身の友達に連絡をした。彼は、過去に市役所の民族諮問委員会相談役や多数のアフリカンコミュニティーの代表・理事を務めていた。昼間の仕事を含めてたくさんの帽子を被ぶっている。帽子マンは190センチほどの長身で、いつものビシッとしたスーツ姿でカフェに現れた。「久しぶり。元気?」
 

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まず、「私のザワザワ」で話したアジア人に対してのコロナ差別について、「比較してはいけない。」と彼は話す。「今世界が声を上げて抗議していることは、400年以上も続く奴隷制度が問題で起こっている。一時的なコロナ差別と比較するべきではないし、全くの別物だ。」誰でも職務質問はされることについても、「確かにそうだね。その意見は間違ってはいない。でも、頻繁さで考えるとどうだろうか?」日本とは無関係だよ意見についても、「現代社会は情報に溢れている。日本にだってアフリカ系の人たちや移民は住んでいるだろう? 海外に住む日本人もいる。周りを見てごらん。」「アジア人が一番差別されてると感じている人がいるようだけど、その言葉を発した人がアジア人だからではないだろうか? 人は、自分自身に興味あるこや関係あることしか、情報は探さないし視界に入ってこない。この言葉を発した人にはきっと、アフリカ系の友達はいないのかもしれないね。」
 

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帽子マンは、ゆっくりとした口調で続けた。「ペントハウスから下を眺めている人たちを、無理やり引き摺り下ろさなくてもいい。彼らは降りたい時に、自分自身の考えで降りてくる。他人は変えられない。家族でさえ無理強いはするべきではない。相手と合わないのなら、無理に合わさせようとしなくてもいい。立ち去ればいい。変われるのは君、自分自身だけだ。そして、この地球上全ての人を幸せにすることはできないだろう。ただ、私たちがこの下でやっていることに、上から私たちを見ている人は、どう感じているだろうね。」

普段、異文化交流する機会が少ないと、このお話にもピンとこないかもしれない。ただ道端で見かけることと、友達や家族がいることでは関係性の深さが違う。日本も急速にグローバル化が進んでいることは、毎年帰国する度に感じている。特に国際性豊かなスポーツ選手が、日本代表としての活躍を見て、時代が変わってきたと体感する。日本には人種主義は関係ない、考えるにはまだ早すぎるだなんて言えないはずだ。これからさらに、日本もグローバル化が加速する。
 

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恐怖感は、知ることでなくなる。ちょうど数日前、東京のママ友達と電話をしていた。彼女は子供を英会話教室へ通わせることをとても心配していた。「何が心配なの?」と聞くと、「ほら、いっぱい外国人がいるからさ・・・。」と後ろめたそうに小声で答えた。それで? どうやら東京ママ友は、外国人から子供がコロナ感染してしまうのではないかと恐れていた。身体中が痒くなった。日本人が海外へ行くこともありえるし、距離が保てない通勤を毎日こなす日本人もいる。日本人に見えて日本人ではないかもしれない。外国人に見えて外国人ではないかもしれない。日本到着後はPCR検査が実施され、陰性の場合でも14日間の自己隔離 。空港からの帰宅手段も、公共交通機関は利用不可能。今、気軽に海外を行き来している人はいるだろうか? 東京ママ友も、そんなつもりで言ったわけではないことは分かっている。親だから子供が心配なのは自然な事。ただ偏見は、こんなに無意識に、そして簡単に起こる。
 

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2020年はコロナから始まって、今度は人種主義。まるで新しい時代へ変化するため、私たちがやってきたことに対して、膿出し作業をさせられているように感じてならない。宿題を終わらせず、どう新学期を迎えるのだ! みたいなことを、叩きつけられている。私たちのやる気スイッチはどこにあるんだろう? ロックダウンで世界は一斉に止まった。大きな地球でお互い会ったこともない国の地球人たちと、同じ周波数でグルグル回っていた。みんなのちょっとした小さな輪が、その隣の小さな輪とくっついて、どんどん大きな輪になり、想像以上の結果を生み出した。私たちの価値観が変わろうとしている。「あの近所の何人」ではなく、その人の名前が言える社会になるだろうか? 私たち大人世代は、安全で健康なハーモニーを奏でる社会を次世代へ残せるだろうか?
 

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今までずっと自分とは無関係だと思っていた人が、何も言わずに高みの見物をしていた人たちが、何をしたら良いのか分からず座っていた人たちが、自分たちが言及するには場違いだと思っていた人たちが、見切り発車で立ち上がってきた。400年の時間を経てやっと、私たちの足並みが揃い始めてきた。
 

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Posted by Summer Shimizu

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Summer Shimizu
現代美術家、写真家。オーストラリアだと思い込んだ学校が合格後にニュージーランドだと判明。そのまま1997年ニュージーランド移住。英語試験IELTSに4回失敗。5回目で大学入学を掴み取る。2003年Massey大学情報サイエンス学部コンピューターサイエンス&情報システム学科をダブル専攻卒業。ITサポートとして大学やアパレル会社アイスブレーカー本社で世界支社を支える。退職し写真学校で写真基礎を学ぶ。国最高峰のアートスクールに2016年入学、オークランド大学芸術学士号卒業。2019年同大学院芸術修士号をFirst Classで卒業。広告写真撮影のアシスタント業をしながら現代美術家として個展やグループ展を開催。現代彫刻、異文化交流や社会性、帰属意識を概念とした作品が多い。