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愛すべきフランス・デザイン「知る人ぞ知るイギリス名物、ロンドン地下鉄のTFLモケットの魅力」 Posted on 2024/01/19 ウエマツチヱ プロダクトデザイナー フランス・パリ

愛すべきフランス・デザイン「知る人ぞ知るイギリス名物、ロンドン地下鉄のTFLモケットの魅力」

 
年末休暇に家族旅行をしたロンドンで、何気なく通りすがった交通博物館。
閉館直前だったので併設のミュージアムショップだけを覗いたところ、心を射抜かれるものに出会ってしまった。
以前、「パリのメトロ、可愛いだけじゃないシートクロスの秘密」という記事を書いたが、今回はそこから更に深掘りした、ロンドン公共交通機関のシートクロスの話だ。

愛すべきフランス・デザイン「パリのメトロ、可愛いだけじゃないシートクロスの秘密」


 

愛すべきフランス・デザイン「知る人ぞ知るイギリス名物、ロンドン地下鉄のTFLモケットの魅力」

※パリのメトロのシートクロス



 
この博物館はミュージアムショップが相当、気合が入っている。
店内に入って最初に目に飛び込んで来たのは、柄ごとに分かれたグッズ売り場。
なんの柄かとよく見ると、地下鉄の各路線の名前が記されている。
どうやらロンドンの地下鉄のシートクロスは路線ごとに分かれていて、それぞれがアイコンになっているようだ。
マグカップに靴下、ネクタイ、今は季節柄、帽子や手袋などの防寒具も充実している。
 

愛すべきフランス・デザイン「知る人ぞ知るイギリス名物、ロンドン地下鉄のTFLモケットの魅力」

※同じ柄で複数アイテムが揃えられる

 
更に店内を周ると、見慣れた素材のクッションの山に出会った。
これは地下鉄のシートクロスだと、ひと目でわかり胸が高鳴る。
「TFLモケット(Transport for London moquette)」と呼ばれているそうだ。
ロンドンの地下鉄の一部を自分の家に持って帰れるなんて! 絶対買う!! と決めつつも、悩んだのが柄選び。
 

愛すべきフランス・デザイン「知る人ぞ知るイギリス名物、ロンドン地下鉄のTFLモケットの魅力」

※豊富な色柄



 
フランスの学校に通い、トリコロールカラーへの忠誠心を刷り込まれた、純日本人の5歳の娘は、青白赤の3色のものを勧めてくる。
横にいた店員さんも「モケットはフランスから来たのよ〜」というではないか。
ならばと、選んだ柄がこちら。かつてのピカデリーラインのものだそう。
パイルが、ループ状の部分とカットされた部分の差で生まれる、立体感ある仕上がりが美しい。
 

愛すべきフランス・デザイン「知る人ぞ知るイギリス名物、ロンドン地下鉄のTFLモケットの魅力」

※かつてのピカデリーラインのTFLモケット

 
ロンドンの地下鉄のシートクロスについて調べると、どんどん情報が出てくる。
パリのメトロに関しては、開発をしている人に話を聞くまでは、詳しい情報を知る術がなかったのに、ロンドン交通局は情報発信をしていて、ブランディングがうまい。
実は、1930年代にロンドン交通局の最高経営責任者であった、フランク・ピックの功績が大きい。
彼は、ロンドンの地下鉄ではお馴染みの、丸に横棒が足されたロゴマークの原型を考案し、ポスターの大きさの標準化なども行った。
何度かリニューアルを重ねつつ、今でも使われている「ジョンストン」という書体を、タイポグラファーのエドワード・ジョンストンに依頼したのも彼で、交通局からのお知らせが広告に間違われない書体を求めた。
このようなコーポレートアイデンティティを整えていくことで、公共交通機関でありながらも、ブランド力を高めていったのだ。
 

愛すべきフランス・デザイン「知る人ぞ知るイギリス名物、ロンドン地下鉄のTFLモケットの魅力」

※ラウンデルと呼ばれるロゴマーク



 
シートクロスに話を戻すと、TFLモケットはコストの観点から4色以内で作られている。
詳しく解説している本、アンドリュー・マルタンの『Seat of London』の中で、その説明の引き合いに並ぶ写真がパリの虹色のシート。
キッチリしているイギリスと、芸術的なフランス、といったところだろうか。
TFLモケットを使用した製品販売は、2007年に当時の交通博物館の館長だったマイク・ウォルトンが決定した。
「公共交通機関を利用する際の、学校や仕事、病院など、重要な目的で利用しているシーンの記憶が、シートの柄によって呼び起こされる」と本の中で語っている。
 

愛すべきフランス・デザイン「知る人ぞ知るイギリス名物、ロンドン地下鉄のTFLモケットの魅力」

※パリの虹色のシート

 
たくさんある柄の中でも、いくつか印象的なものをご紹介。
まずは、「バーマン(BARMAN)」という柄。
2010年に制作された、この柄は「ロンドンらしい新しいモケット」というテーマのデザインコンペで、世界中から応募された300点の作品の中から選ばれた。
図案には、ロンドンのランドマークである、ロンドン・アイ、ビッグ・ベン、タワー・ブリッジ、セント・ポールなどが組み込まれている。
デザインをしたエマ・シーウェルとハリエット・ウォレス=ジョーンズは、この柄を「ランドマーク」と呼んでいたが、1930年代にフランク・ピックの右腕として、モケットの開発をしたクリスチャン・バーマンに敬意を表して「バーマン」になったそう。
 

愛すべきフランス・デザイン「知る人ぞ知るイギリス名物、ロンドン地下鉄のTFLモケットの魅力」

※「バーマン(BARMAN)」が使われたシート



 
今、ミュージアムショップで一番人気の柄は、2022年5月に開通したエリザベスライン。
名前のとおり、女王を連想させるエレガントなパープルのテーマカラーの路線で、シートの柄も紫のトーンオントーンのストライプに、ところどころ赤いアクセントが入っている。
 

愛すべきフランス・デザイン「知る人ぞ知るイギリス名物、ロンドン地下鉄のTFLモケットの魅力」

※今一番人気のエリザベスラインのグッズ

 
エリザベスラインが登場する前までの人気者は、ヴィクトリアラインのためにデザインされた「ストローブ(Straub)」で、1970 年代から 1980 年代にかけて、複数の地下鉄の路線やダブルデッカーバスと、幅広く採用された柄だ。
多くの人の記憶に残っているのが、人気の理由だろう。
 

愛すべきフランス・デザイン「知る人ぞ知るイギリス名物、ロンドン地下鉄のTFLモケットの魅力」

※「ストローブ(Straub)」ロンドン交通博物館公式サイトより

 
博物館に入らずして、ミュージアムショップだけでもこれだけのことを知ることができ、すっかり満足してしまった。ロンドン交通ブランドの陰の立役者、TFLモケットについての詳しい説明をした公式サイトもあるので、更に興味がある方はどうぞ。
https://www.ltmuseum.co.uk/collections/projects/moquette-project
 

愛すべきフランス・デザイン「知る人ぞ知るイギリス名物、ロンドン地下鉄のTFLモケットの魅力」

※我が家にやってきたクッション

自分流×帝京大学



Posted by ウエマツチヱ

ウエマツチヱ

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tchie uematsu
フランスで企業デザイナーとして働きながら、パリ生まれだけど純日本人の娘を子育て中。 本当は日本にいるんじゃないかと疑われるぐらい、日本のワイドショーネタをつかむのが速い。