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ザ・インタビュー「パリのうどん国虎屋・野本将文、フランスで成功する秘訣」 Posted on 2019/09/25 辻 仁成 作家 パリ

パリ、オペラ地区には数軒のうどん屋があるが、その中でも老舗中の老舗「国虎(くにとら)」はオペラが日本人街と言われていた時期から大行列のできる人気の四国うどん店であり、在仏日本人で知らない人間はいない。欧州のあちこあちにうどん屋が出来ていく先駆けのような店であり、日本人がフランスで店を出す時の一つの成功例として飲食業界では語り継がれている。高知県出身の店主、野本将文にフランスで成功するための秘訣について聞いた。
ザ・インタビュー「高知の虎、パリで吠える!」
 
 

辻 仁成(以下、辻):おれがパリに渡った2001年、あの頃のオペラ、サンタンヌ界隈って「日本人街」と呼ばれててさ、ラーメン屋やカラオケ屋、日本食品館がそこかしこにあったね。その中でも異彩を放っていたのが四国うどんの「国虎」だった。狭い店なのに、物凄い行列で、いつも俺は赤ん坊抱えて並んでたなぁ。

野本将文(以下、敬称略「野本」):なんかね、爆発的なヒットやったね。どっかであたると思っていたんだけど、その通りになった。

:秘訣はなに? きっとそこをみんな知りたいんじゃないかな?

野本:まず、秘訣その1は、人と違うこと考えるってことだな。俺はもともと高知でフレンチやってたんだよ。フレンチとうどん屋、二店展開していた。でも、フランスも好きで、しょっちゅう遊びに来ていた。ほら、写真もやるからね。

:写真集持ってるよ。忘れ去られた人形をさ、モノクロで撮影した奴ね。あと、道端の水の反射の写真なんかもあったね。

野本:うん、好きなんだよ。写真、趣味なんだよ。今度、12月にカルーゼル・ド・ルーブルのグループ展に一枚だけやけど出品するよ。
 

ザ・インタビュー「パリのうどん国虎屋・野本将文、フランスで成功する秘訣」

:へ~、行くよ。で、高知でフレンチやってたのに、なぜパリ?

野本:やっぱ、フレンチやからさ。でも、来てみたら、うどんだって、思いついたわけよ。日本人やし、同じ土俵で勝負するより、日本をここで売った方が早いって思ったわけだ。

:成功の秘訣その2は、発想の転換ってことかな。でも、最近は若い日本人シェフがミシュランの星をがんがん獲ってるね。去年も6~7人いたんじゃない? 凄いことだけど、日本人シェフはまじめで技術があるということが世の中的に広まったからね、それはそれで凄いことだな。

野本:でも、まだ俺の時代は差別とかさ、いろいろとあったから、フレンチの世界にスっとは今みたいに入れない。そこで地元のうどんを作っていろいろなやつらに食わせてみたら、うまいじゃん、ってことになってね。在仏日本人の連中もちゃんとした和食出せる店が欲しいって声があがって、ラーメン屋はいろいろとあったからね、ならば、うどんだ!って、高知県人は思ったわけだ。

:人と違う着眼点だな。

野本:俺が思うに、パリで成功するためにはそれが一番大事だと思う。パリの伝統に入り込むには30年かかる。伝統の外からならすぐだ。そこに必要なのは自分の腕だけってことになるからね。あのまま高知で同じこと続けるよりも世界の食の中心地、パリで一花咲かせてみようって思って、出てきた、ちょうど30年くらい前のことやね。

:いいじゃんいいじゃん。
 



ザ・インタビュー「パリのうどん国虎屋・野本将文、フランスで成功する秘訣」

野本:海外で成功する秘訣その3は、そこで手に入るもので、勝負できるものをやるってことだ。うどんは、小麦と水と塩で出来るから材料費もかからないし、労力と時間だけだから、それなら無限にあるからね。蕎麦屋はそば粉を日本から輸入しないとならない。うどんは世界中どこの小麦でもバランスよく美味いものを作れるし、提供できるんだよ。

:その秘訣、すごいな。独創的なことをやれ、材料費はかけるな、か。なんか文化会館ではじめた三軒目の「おにぎりバー」も大成功しているじゃない。昼時になると、日本好きなフランス人が行列作ってる。この間、文化会館でライブやったら、野本の店があって驚いた。

野本:今度、4軒目を出す。「スタンド虎」という7席くらいの小さな店だけど、でも、こだわり抜いたおにぎりとハイボールが飲める(笑)。

:マジか。どこまで坂本龍馬!

野本:あ、そういえば、辻、お前、パリ坂本龍馬の会の会長やってくれ。

:15年くらい前にも言われて断ったやつね。

野本:今、パリの日本人元気ないんだよ。お前みたいなバカがちょうどいい。

:バカは余計だろ!(笑)

野本:結局、みんな俺のところに龍馬会どうなってるのって言ってくる。でも、お前がやるなら盛り上がるよ。

:もちろん、俺でいいならいいよ。高知県人じゃないけど。

野本:いや、世界中に坂本龍馬の会はあるけど、高知県人だけじゃない。日本人だけじゃない。アメリカ人とかロシア人とか坂本龍馬が好きならみんな入れる。デザインストーリーズの海を渡った日本人を応援するというコンセプトも龍馬の精神じゃないの?

:その通り。

野本:お、決まり。
 

ザ・インタビュー「パリのうどん国虎屋・野本将文、フランスで成功する秘訣」

:ところで、ずっとパリでやり続けるの?

野本:ああ。そのつもり。高知の国虎は甥っ子に任せている。でも、俺はここで死ぬまでやるかな。いまだに借家なんだけど、自分の家買うくらいなら、店を買いたいんだ。アイデアと野心は坂本龍馬並みだから、俺一代で出来ることをとことんやってからくたばりたい。

:フランスで店だしたい日本人、大勢いると思うけど、コツはなに?

野本:諦めないことだ。秘訣その4はそれにつきる!

:ロマンについてはよくわかったけど、パリで店出して儲かるの? ぶっちゃけ。

野本:そこまで儲からない。でも、どこも一緒だろ。郷に入っては郷に従えだ。

:ビザとか営業権とか大変だよね。そういえば野本は東欧とかイギリスとかに出店するうどん屋の支援とかやってたよね。

野本:支援ってほどじゃないけど、アドバイスくらいね。同じ日本人だから。

:それにしても国虎のうどん、うまいよね。忙しくて、もう5年ほど行けてないけどな。

野本:辻、来いよ、たまには。

:俺、自分で料理するし、育ち盛りの子供育てないとならないから、オペラ界隈で遊んでられないんだよ。

野本:そういう忙しい奴に、これ、お土産。カップ麺「手抜きうどん」はじめたんだ。世界で初のフリーズドライのうどんスープ。そして、白だし、醤油だし、ポン酢も、ええやろ?

:商売人やな、相変わらず。日本で買えるの?

野本:高級デパートで買える。

:誰が買うの! これ、ミニサイズなのに5ユーロ以上するやん! ※ ところが後日、辻が試食をすると、これが他では食べたことがないくらいに絶品であった。え、これがカップ麺、という驚き。白みそのフリーズドライスープが美味いだけじゃなく、麺が、高知っぽく出来ていて、レベル高い。ぼくはここに柚子七味を入れて食べたのだけど、かなりおつでした。やるな、のもっちゃん。

野本:あのな、食ってから文句言えよ。めっちゃ美味いんだから。

:おお、それは楽しみだ。で、売れてんのか?

野本:まあまあやね。でも、パリの土産に最適なんじゃない!?
 

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posted by 辻 仁成