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ザ・インタビュー「甘党パリっ子たちを熱狂させる実力派、レ・トロワ・ショコラ」 Posted on 2021/01/28 辻 仁成 作家 パリ

パリ、右岸地区で話題の「レ・トロワ・ショコラ」をプロデュースするショコラティエールの佐野恵美子さん。チョコレートやケーキの超激戦区マレ地区で、じわじわと人気を集め、確固たる存在感を示すまでに至りました「レ・トロワ・ショコラ」の快進撃は、左岸に住むぼくの耳にも届いています。甘いものが大好きな人たちからの口コミでここまで有名になった、日本人ショコラティエールの心の内側を、そして、その秘訣と努力を、大ブレークをする前に聞いてみました!

ザ・インタビュー「甘党パリっ子たちを熱狂させる実力派、レ・トロワ・ショコラ」

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 実は僕はレ・トロワ・ショコラのチョコレートをオープン時に一度頂いるんです。おお、なかなかの実力派が出てきた、と唸らされました。その後、本当に偶然なんですが、ぼくも実家が福岡にあるので、たまたま、お父さまとテレビ出演でご一緒させていただいたことがあったのです。(恵美子さんのお父さんは福岡では有名なショコラティエである)
その時だったかな、福岡のお父さんのお店で販売しているチョコレートはすべてパリから直送だ、と聞いて、びっくりしたのですけど、あれ、全部、空輸しているのですか?

佐野 恵美子(以下、敬称略「佐野」) そうです。毎週、フランスの工房で作ったものを空輸して、天神のお店で販売しています。

 天神とパリを繋ぐ、レ・トロワ・ショコラ、おそるべしですね~。もともとチョコレートだけ販売していて、後からケーキもはじめたのですか?

佐野 オープン当時からチョコレートとケーキの両方を作っていました。最初は、私がどちらも兼任して作っていたのですが、今はシェフパティシエがいます。

 レ・トロワ・ショコラをオープンしたのはいつ?

佐野 2017年の2月です。

ザ・インタビュー「甘党パリっ子たちを熱狂させる実力派、レ・トロワ・ショコラ」

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 じゃあ、ぼくが食べたのも、その頃だから、本当に、出来立ての味だったんだね。ショコラティエをやろうと思ったきっかけは?

佐野 実家が祖父の時代からチョコレートショップをしていたのですが、私は大学卒業後、3年間営業の仕事をしていまして、もともと家業には興味を持っていなかったんです。

 あ、ご実家のチョコレートショップはお父さんじゃなくて、ご祖父様がはじめた!?

佐野 そうなんです。1942年創業で、今年79年になります。

 なるほど。ぼくが生まれるよりも、うんとうんと前のことですね。おじいちゃん、凄いなぁ。凄い早い時代感覚ですね。では、どうして突然受け継ぐことに?

佐野 社会に出て、外商の仕事をしていたんですけれど、祖父祖母の世代のお客様と接することが多くなりまして、世間話の一環で「自分の両親はお菓子屋さんをしている」という話をしたら、そのお客様から「そこは私が夫と結婚する前にデートで連れて行ってもらった思い出の場所だわ」というお話をしてくださって。それまで、父はいつもすごく忙しくしていて、家族でいる時間も少なかったですし、遊んでもらった記憶もほとんどない。私は、父はそこまで働いて何を守っているんだろう? もっと他のやり方もあるだろうし、違う職業もあったのじゃないかな? という反発jがあったんです。それで自分は違う業種に就職したんです。でも、そのお話を聞いた時に、祖父と父が必死で守ってきたお店が誰かの記憶だったり、誰かの思い出の場所になっているのはすごいことだなって初めて気づいたんです。それで、そのお客様から「あなたが継がなかったらあのお店は無くなってしまうのね、悲しいわ」というお話をいただいて、100年続くお店にするってチャレンジじゃないかなって思うようになりまして・・・。

ザ・インタビュー「甘党パリっ子たちを熱狂させる実力派、レ・トロワ・ショコラ」

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 79年続いているということは、僕も福岡にいた頃だし、両親もハイカラなものが好きだったから絶対行ってたはず。今度、聞いてみますね。

佐野 祖父が店を始めた頃はコッペパン1個が20円の時代でした。その時代にチョコレート1粒を100円で売ってたみたいで、売れなくてとても貧乏だったみたいです。それでも「美味しいものだから」と作り続けていました。今、自分が同じ職業について、パリで父の援助を受けずに一人でやっている中で、勝手な使命感なんですけど、その祖父の精神を受け継いでいきたいと思っています。

 素晴らしい。それが、今、本場パリで開花しているんだからね。ちなみに、佐野さんはお祖父さまのチョコレートを食べたことありますか?

佐野 はい。祖父は私が小学校に上がる頃に亡くなったんですけど、今でも祖父のチョコレートの味を覚えていますね。

 お祖父さまとお父さまのチョコレートの味の違いというのは?

佐野 父は、祖父が作ったものを受け継いでやっているのですが、父の葛藤もあったようです。祖父は「俺のチョコレート美味しいだろ、食べてくれ」って感じで、当時ドイツやフランスで作られていたチョコレートをそのまま作っていたのですが、父はどちらかというと祖父の技術を使って、日本人の口に合うチョコレート作りをしました。

ザ・インタビュー「甘党パリっ子たちを熱狂させる実力派、レ・トロワ・ショコラ」



 なるほど。あなたのお父さん、佐野さんは迫力ある方ですよね。ビジネスマンだし、スター性がある。だから、広めることに力を入れたのですね。それで、三代目の佐野さんはまたお祖父さんの時代の感じに戻って、フランスに渡って本格的なチョコレート作りをしている。今、パリのレ・トロワ・ショコラが目指しているところ、お客様への想いを聞かせてください。

佐野 今、レ・トロワ・ショコラがあるのはパリのマレ地区という場所なんですが、歩いて2、3分のところに30軒くらいのパティスリーが立ち並ぶお菓子激戦区なんです。ピエール・エルメやパトリック・ロジェ、世界で有名なショコラトリーがライバルという環境にいます。だけど、その中で、じゃあ、私らしいチョコレート、レ・トロワらしいチョコレートっていうのは何かな?  というのをいつも考えています。うちだからできること、日本の食材を使ったり、なかなか大手さんが出来ないこと。うちは地下で作ってすぐ食べてもらえるよう鮮度にも拘っていますし、いつも商品が変わる。お客様に昨日来ても今日来ても、いつも楽しんでもらえるように毎日100%で作っています!

 そうそう、フランスはすごいショコラティエたくさんいますからね! 僕が一番好きなのはジャック・ジュナンですけど、ジャン=ポール・エヴァン、パトリック・ロジェ、ピエール・マルコリーニ・・・、みんな世界で活躍している。勝負に出るのは相当度胸がいるね。

佐野 本当に、天狗になることはないです、一生。パリはモチベーションが下がることがない場所です。

ザ・インタビュー「甘党パリっ子たちを熱狂させる実力派、レ・トロワ・ショコラ」

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地球カレッジ

 いい言葉だね。モチベーションの下がることのない場所。戦いの場所でもあるわけですね。

佐野 はい、常に前を向ける場所なので。父からは「お前しか出来んかったことやな」ってそこだけ認めてもらっています。何も考えずにやりたいことに挑戦するというところは祖父に似ているのだと思いますね。

 シェフ・パティシエを今、つとめている木村翔さんのお話をお聞かせください。

佐野 彼はワーキングホリデーでフランスに来ていたのですが、地方のパティスリーで働いていた頃に、たまたまインスタで彼がアップするケーキを見ることがあって、すごくセンスの良いパティシエがいるな、と思って、実はチェックしていたんです。そしたら、ある日、その本人がお店に来てくれて、びっくり。話をしているうちに、うちで働いてもらうことになりました。

 すごいご縁ですね!

佐野 彼は、10年間青森で修行をしてフランスに来たんですけれど、彼の実家もお父様がお菓子屋さんをされていて、彼は小さい頃からパティシエになりなさいと言われ、それが嫌だったみたいんです。だけど、違う職業についても長続きせず、ある時、お父様から「パティシエじゃなくてもいいから、人が喜ぶ仕事をして欲しい」と言われ、その言葉が印象に残って、やはりパティシエとして頑張ろうと思ったみたいです。

 じゃあ、ケーキは木村さん、チョコレートは佐野さんの二人体制なんですね?

佐野 私がシェフ・ショコラティエ、木村さんがシェフ・パティシエ、そしてもう一人ショコラティがいます。3人でやっている、すごく小さいラボです。

 彼のケーキはどんな特徴があるのですか?

佐野 お客様からは「繊細でソフト」と言われています。いわゆるフランスのパティスリーとは違うのですが、フォレノワールやパリブレストというフランスを代表するパティスリーを日本で習得した技術を取り入れて作ったり、食べ歩きが好きなので、食べて研究を重ねています。例えば、「フォレノワール」は2年半くらいかけて少しずつ改良して、今、やっと自分が納得いくものができたみたいです。

ザ・インタビュー「甘党パリっ子たちを熱狂させる実力派、レ・トロワ・ショコラ」

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 コロナで大変な時期にケーキだけでも甘い感じを届けたいですが、現在のコロナ禍に思うことはありますか? 大変だったと思いますが。

佐野 マレ地区ということもあって、普段から日本人やアメリカ人の観光客がすごく多かったのですが、その方達がいなくなって、大丈夫なのかな・・・っていう不安はありました。だけど、春のロックダウン時に20日間ほど閉店したのですが、「どうして開けてくれないの?」というメールをたくさんもらって、自分たちが作れる範囲だけでお店を開け始めました。宣伝もしていなかったし、お客様も少なかったのですが、2週間ほど経つと近所の方々が来てくれるようになって、その時に来てくれたお客様が今大事な常連さんになってくれています。「なぜもっと早く見つけられなかったのだろう」って言ってくださって。3年経って、やっと評価も変わってきた気がします。

 素晴らしい。実力が本場の門をあけたんですね。モチベーションが上がり続ける場所で、ますます、その実力を磨いてくださいね。応援しています。もし良ければ、近々、地球カレッジでチョコとかケーキの作り方、講義してもらいたいです!

佐野 あ、いいですね! ぜひ!
 
 
佐野恵美子さんの地球カレッジ登壇が決定しました! 
今回は、ガトーショコラの作り方を佐野さんにご指南いただきます。本場パリの味をご自宅で。

3月14日(日) 19:30 open 20:00 start 
佐野恵美子 × 辻仁成 「これぞ本場! ガトーショコラを作る」

この授業に参加されたいみなさまはこちらから、どうぞ

チケットのご購入はこちらから

*定員になり次第、締め切らせていただきます。
 

ザ・インタビュー「甘党パリっ子たちを熱狂させる実力派、レ・トロワ・ショコラ」

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posted by 辻 仁成