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ザ・インタビュー「日本酒を世界に認めさせたい男の野望と執念」 Posted on 2021/07/09 辻 仁成 作家 パリ

日本酒を世界で広める。この壮大な仕事に魅せられ、普及につとめる一人の日本人がいる。欧米のソムリエやシェフたちの間では高い評価を獲得しつつある日本酒。しかし、まだ海外の人たちの多くが日本酒の本当の素晴らしさに気づいていない、と宮川圭一郎は考えている。あと一歩のところまで来ている日本酒の世界的普及に向けて奔走する宮川圭一郎の野望と挑戦に耳を傾けよう。

ザ・インタビュー「日本酒をもっと世界に広めたい男の野望と執念」

 ワインと日本酒を広げるのは難しさが違うと思いますが、どういうところが難しいのでしょうか。

宮川 圭一郎さん(以下、敬称略) それは、3つあります。
まず1つは、「SAKE」という言葉が蒸留酒に誤解されているというところ。フランス人が「ノンノンノン!」と言うわけですよね。この啓発活動は100年やってもなかなか変わらない。そこで、私は一時SAKEという名前を捨てて、「GINJO」という言葉を使うようにしたんです。フランス人は知らないですから、「GINJOってなーに?」って言うんですよ。じゃあ、こちらは、「知らないのですか? それなら、ちょっと飲んでみて!」と勧めることができるんです。すると、吟醸は香りがいいので、「こんなの私飲んだことないわ!」となるわけです。で、これはSAKE(酒)なんだよ、NIHONSHU(日本酒)なんだよ、というやりとりになっていきます。

 なるほど。で、2つ目は?

宮川 それはアルコール度数が16度くらいあるということ。これが2発目の「ノンノン」なんです。日本酒を試飲して見て、その後、絶対聞くんです、「アルコール何度?」って。なんでいつも聞いてくるの! と思うんですが、必ずなんですよね。それで、16度と答えると、「ほら、高いじゃない」となる。蒸留酒じゃないと言っても、「いやいや、頭が痛くなるー」とこうくるんですよね。
そして、3つ目の「ノン」。1990年くらいまではフランスで日本酒がどういうものだったかと言うと、その当時は吟醸酒がまだ主流ではありませんでした。しかも、日本人向けの日本食レストランのために日本酒を販売にきたというのが歴史なんで、ワイン大国のフランスでは売れてこなかったは当たり前でしょうね。僕は2007年くらいからこれじゃはダメだ、と思って、吟醸酒をワイングラスで飲んでくださいと広めるようになったんです。
当時三つ星レストランに日本酒を持って行っても、「馬鹿じゃない? ここフランスだよ!」と、ほとんど追い出されていました。でも、最近ようやく変わってきました! 吟醸を持ってレストランに入っていくと、「日本酒?ちょっと来て」と奥に手招きされるようになったんです。最近は「日本酒のことを教えてくれ」と、ほんと嬉しい時代が始まっています。

 つまり、今、宮川さんがやっていることは啓発活動で、フランス人のプロの方に、進化が始まってきている日本酒を広める仕事をしているわけですね。三つ星レストランの中に少しでも優秀な日本酒を置いてもらって、クオリティのわかるお客さんを増やしていくと言うところに今在る、ということですね。

宮川 はい、その通りです。今、なぜこんなに日本酒が売れていないのでしょうか? 売れてないのには売れていないだけの理由があります。ですが、その道には先輩がいる。6000年以上も続いているワインという先輩です。ですから、そこから学ぶものが沢山あるということ。そして、できるだけ現地の人が現地の言葉で説明した方が断然良いだろうということの2つです。
日本で最初からワインなんて売れていませんでした。1600年頃にポルトガルからワインが入って、飲んで、すっぺえ! 赤い色は血みたい、気持ち悪い! で終わりでした。でもサントリーさんが日本人の好みに合わせて赤玉ポートワインを作りました。ワインをうまく甘くしたんです。その国の持っている味覚に近づけていくことが大事だったんでしょう。なぜなら、日本酒って甘いんですよね。
そこからがはじまりでした。その後、ドイツ白ワインは酸味は強いけど甘いという特質から売れ、辛めのシャルドネに少しづつ移行していきました。そして、1980年代、爽やかな軽い味わいの赤ワインであるボジョレーヌーボーが出ました。「世界で最も早く飲める」というキャッチフレーズで大人気!その後、ボルドー、そしてブルゴーニュのような深みのある渋みも強い赤ワインに辿り着くわけです。同じように、日本酒にやらなきゃいけないことは、その時代とその場所にもっともっと寄り添っていくことだと思います。売れないなら、寄り添いなさい、です。ワイングラスで吟醸酒を飲ませて、ターゲットをしっかり絞って見せていかないと、下手な鉄砲数打ちゃ当たる、ではないんだと思うのです。日本食がブームでそれに沿って日本酒が売れるのは当たり前でしょう。これからの時代は世界中のガストロノミーのフレンチ料理の各店舗一軒に一本入っていけばよいのです。3倍になる時代がすぐにくるよ! と、私は断言しています。

ザ・インタビュー「日本酒を世界に認めさせたい男の野望と執念」

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 力強いですね。どんな目論見なのでしょう?

宮川 世界で最も愛される料理って、フランス料理なんですよ。その数は世界一です。2010年くらいから料理が様変わりしています。1990年、僕がフランスにきた頃は今の量の4倍くらいありました。値段は今の4分の1位でしたけどね(笑)! 肉なんて最低1人前200gはあった。魚もバターいっぱい。赤ワインソースなんて、二人分で握り拳一個分くらいのバターが入っていましたから・・・。今のフレンチシェフは何処も出汁やわさびや醤油とか、いっぱい日本のものを使うようになってきています。全ては健康を無視できない時代に入ったということです。バターや生クリームなどの動物油脂から発酵食品を使う。野菜も生に近い状態で食べるようになった。昔はクタクタに似るのがフランス流でしたからね。「Umami うま味」って言葉をフレンチシェフがみんな口にするんですが、そのうま味のあり方がここ10年でガラッと変わってきましたね。濃いソースも線のようにすっと引いて表現されている位に少ないですよね。酸味も初めから最後までどこかに絶対隠れてる。酸ってカラダに入ると油を流す役割をするから・・・。今はフランス料理が懐石料理のように品数が増えましたが、量は本当少なくなってきています。このような様々な要因が複雑に絡んでいるのですが、このいくつかの料理に日本酒が絶妙に合うようになってきているのです。

 宮川さん、すごいね。話に引き込まれる。というか、情熱に引き込まれる。ぼくも、20年パリで暮らして、世の中が変わってきたなというのは実感してるんです。

宮川 僕が持っている日本酒の最終的なイメージってシャンパーニュです。なぜかというと、日本から輸入してきたら、パリで3ユーロや5ユーロでは買えません。少なくても20ユーロにはなってしまう。これだけ高いのに、シャンパーニュはどこのカフェにでもある。日本酒がカフェにまで置かれるようになることが、一つ大きなステップになるかな、と思っています。それがクラマスターの持ってる世界観でもあります。シャンパーニュのイメージでやるから、チープなことは一切したくない。だから、ソムリエだとかバーマンだとか、1つの軸、シーンを作っている。ポップに振るのはまだまだ早い。そこまで行けるのは5年から10年先だと思っています。

 あとは焼酎に挑戦されてるのもすごいと思いますね。なかなかフランス人が焼酎を理解できるかな、という心配はありますよね。

宮川 心配どころじゃない。正直なところ、まだまだ本格焼酎・泡盛を最高に美味しい蒸留酒の一つだとは思われていないです(涙)! 日本とフランスの決定的な違いは、日本は味で飲み、フランスは香りで飲むということです。日本人は香りの重要性をまだまだ理解していないのかもしれません。日本酒が純米から吟醸に移ったように、焼酎にもこれからの時代の世界に通じる香りが必要なんです。あと、日本酒や本格焼酎・泡盛を本当に大きく育ててくれるのは世界の人です。安倍内閣の時は農林水産物・食品の輸出額1兆円だった目標が、菅内閣になって5兆円になって、27品目のうち3品目がアルコール(ウイスキー、日本酒、本格焼酎&泡盛)なんです。これらを世界に出して売るぞと意気込んでいます。だけど、フランス人からすると、焼酎や泡盛は香りがまだまだ高貴じゃないと言われるんですよ。
そして、一番大事なのは認知の問題です。知っているという認知レベルではダメで、認識されなければいくらやってもテコでも売れません。だから、まずは機会創出が大事です。それをクラマスターがやる!

 流れができていますね!

宮川 フランスは物を作るときの見せ方こそが大事だと思っています。売りこむのではない。文化を作っているのです。それはブランド作りの感覚が全く違うからでしょう。アメリカにエルメスは作れません。アメリカや中国みたいに、売るのが目的の作り方をしてもうまくフランスでは機能しないのです。ヨーロッパではブランドの根本の考え方が違うのでしょうね。広めるには文化を作っていくことが最初に大切だと考えています。日本酒、本格焼酎・泡盛は、その培ってきた歴史の力をお借りしたいのです。
日本を元気にするには、海外の方から圧力をかけられて、どんどんよくなるのだって思っています。残念ながら日本では、同胞同士であるが故、どうもお互いに意地を張って、楯突きあい反発しあい、なかなか前に進まないようにみえます。それでも、日本は歴史的にいろんな国から学び、このように繁栄してきました。学び、消化して、自分のものにしてきたという素晴らしい特質があります。ただ、これからは世界を相手に仕事をするのだから、世界感覚で、世界の人をもっともっと理解して、世界に自分もでていき、一緒に分かち合わい、この心を理解しないといけない時代に入ってきています。

ザ・インタビュー「日本酒を世界に認めさせたい男の野望と執念」



 日本人はしっかり勉強をしてきているから、目利きとしての力がすごいあると思います。その目利きの力というのはフランス人も持っているので、この両方が掛け合うことによって日本酒は伸びるはずですよ。絶対。だから、僕は今、宮川さんが攻めてるところは間違いないと思うな。

宮川 ありがとうございます。日本人は匠の技なんです。下を向いてぎゅーっと洗練していき、どんどん良きものをつくっていきます。自分の世界の中に入っていく感じです。ヨーロッパの人はその反対。上に上に広がっていく感じなんです。考え方が、世界人相手の色々な人種の方がいる分、色を変えます、とか、このように追加しますとか、どんどん上に広がるタイプの手法のように思えます。といっても、売ることが一番じゃあないんですよね、ヨーロッパの人たちって。それがとにかく面白い。だから、これからの時代はこの二つの融合が必要だと思うんです。

辻 その日本の匠の力と外に広げるヨーロッパの力、その両方わかっているのが宮川さんですね。だから、あなたがこの仕事をするべきなんです。これは成功すると思います。すごく面白い試みだと思うし、これが成功すればもっと日本の食材が広がっていく可能性があるということもわかった。素晴らしいお話がきけました。

宮川 最後に、日本酒をユネスコの世界文化遺産の運動を始めています。それに向けて、辻さんからぜひエールの手紙が欲しいと心から思っています。

 もちろんです。ぜひ協力させてください。今日はありがとうございました。

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自分流×帝京大学

posted by 辻 仁成