THE INTERVIEWS

ザ・インタビュー「日々を丁寧に生きるための短歌教室②」 Posted on 2020/11/29 辻 仁成 作家 パリ

 前回に引き続き、短歌についてもう少し聞かせてください。言葉の持っている響きの良さなんかも追求されてるのですか?

 意味を伝えるだけだったら電報みたいになっちゃう。論文だったらちゃんと言いたいことを伝える、言葉と意味が一対一対応であることが必要だと思うけど、韻文の場合は一対一じゃすごく痩せたものでしかないので、リズムとか韻律の助けをもらって言葉を膨らませるというのは常に考えています。

 なるほどね、電報か、面白いこというなぁ。ぼく、そういう発想大好き。他に、ご苦労されている点、ありますか?

 基本、短歌のいいところは五、七、五、七、七、にのせさえすれば百万力というか。自分の日常の言葉をキラキラさせてくれるものなので、本当に、五、七、五、七、七が味方をしてくれる限り、日本語は輝けるという、そういう信頼感はありますね。

 短歌を作るというのはとても素晴らしい話で、みんなうかうか生きてるんですよ。うかうか迂闊に生きてる。そのうかうかが短歌をやってることで、あ、これって思った瞬間にね、ちょっとツイッターにも似てるんですけど、Twitterも短歌っぽいというか、僕があれをなぜやっているかというと小説を書くヒントなんかを探せるなと思ってるんです。短歌って人にフックする瞬間があって、わかるわかるその気持ちってなるのかなって。

 うかうか生きる、なるほど、そうですね。あとがきの最後にも書いたのですが、短歌って日記より手紙に似てるなっていうのが実感です。よく「短歌って日々のことを記録できて日記みたいでいいですね」なんて言われるんですけど、それだったら自分の机の引き出しにしまっておけばいいので、やっぱり短歌にして誰かと想いを共有したいという気持ちがあるからこそ、こうやって紡いで言葉にしていくと思うので、まだ見ぬ誰かへの手紙という感じでしょうか。

ザ・インタビュー「日々を丁寧に生きるための短歌教室②」



 インスタよりツイッターって感じかなぁ…。

 Twitterは私も好きですね。今、SNSの時代で、みなさん短い言葉で発信するということに抵抗感もないし、トレーニングもされているので、若い人で短歌をする人が増えてるという実感はあります。あとは、五、七、五、七、七というこの感じさえ覚えてしまえば、大丈夫だと思います。

 短歌って、季語を使わなくてもいいし、入りやすいですね。ぼくが俳句が嫌いな理由は季語なんですけど、季語を使うことで季節を表さないほうがいいのになって思うことがあるんですよ。季語をあえて使わないで季節を感じさせるものを書いて欲しいのに、季語を使うから、残念みたいな…、笑。短歌はそれがないので、流れていく人生のある種の季節感が見える。

「自らは食べずひたすら振る舞えり料理上手な君の人生」
「べらぼうにウマいと言われ丁寧にダシのとりがいある男なり」

また俺のこと言ってる(笑)って思っちゃう、読んでると…。やっぱり、愛の歌が多いね。なんか、この人間の不器用な人たちのやりとりの中にあるほのぼのとした一瞬を掬い取るのは素晴らしいですよね。なかなかそういう見方って人生に余裕がないとできないなって。

 いやいや、その余裕を短歌が私に与えてくれてるんだと思います。私もまあまあうかうか生きてますけれども(笑)

 うかうかいいじゃないですか、ぼくはそういう人生でよかったって思います。

「すれ違うことに不慣れな生き物となりてスマホという命綱」

携帯切ればすごく楽なのに切れないところとか、日常にみんなが思っていることを書いてある感じがすごく好きです。小説とか、俳句とか、短歌とか、言葉を紡ぐ方法はたくさんありますが、俵さんはなぜ短歌を選ばれたんですか?

 全部試して決めたわけではないんですけど、相性が良かったとしか言えないというか、自分が一番のびのびできる表現方法かなと思います。

 若い人の間では今、俳句なんかもブームみたいですね。あとがきが「短歌は、日々の心の揺れから生まれる」と始まりますが、何かあった時に、心に留めておいて、あとで言葉に起こすという手法をされているのですか?

 揺れが一度ではなくて、何度か来たときにはっと思うこともありますね。その揺れたなっと思った時に立ち止まって言葉を探すっていう作業が始まります。まずは、その揺れをキャッチできる自分でいることが大事だと思います。メモすることもありますし、ちょっと泳がせておく時もあります。言葉にすると安心しちゃうから、ちょっと泳がせといて、そろそろ捕まえようかという時にメモをしたり。

 面白いなぁ。僕なんか歌を作ったり歌詞を作ったりする時、一度携帯に録音したりするんです。というのは、時々忘れてしまって、なんだっけな、いいの思いついたのにって思い出せないことがよくあるからなんですよ。そういう時は「泳がせてる」と思っておけばいいんだね(笑)。

 戻ってくる時は戻ってきますよ、きっと。

 俵さんは何がきっかけで短歌の世界に入ったのでしょうか?

 歌人であり、早稲田大学時代の恩師であった佐佐木幸綱先生の授業を受けて、かっこいいなと思って。まあまあシンプルな理由です。私ももともとは短歌ってすごく古めかしい日本の文化と思っていましたが、全然違うということは佐佐木先生を通して知りました。ただ、きっかけは偶然でしたが、30年以上続けているということは偶然ではなかったかなと思いますね。

ザ・インタビュー「日々を丁寧に生きるための短歌教室②」

 「サラダ記念日」と「未来のサイズ」ではご自身でも違いを感じますか?

 「サラダ記念日」は、批判精神がないとか、社会性がないとかいろいろ言われて、いや私、恋愛にしか興味ないんですけど、何か?って思っていましたけど、だんだん機が熟すというか、子供を通して子育てのこととか、社会のこととか、年相応に考えるようになってそれがいい形で反映していれば嬉しいですね。

 手が届くところにいる人に向けて書かれているサイズ感というのは変わらないですね。だから根本は一緒なんだけど、俵さんが大人になっていく過程がこの2冊の間で銀河を横断するくらいあって、人生の年月の凄さを痛感しました。もうすぐ、地球カレッジで短歌教室がはじまりますけど、豊富とかありますか? 

 ぜひ、辻さんも作ってみてください。

 あ、ぼくが生徒になって、短歌作るんですね。なるほど、面白い。やりたい。

 辻さんにはぜひ最初は下手くそでいて欲しいです(笑)。

 (笑)。了解です。ぜひ、教えてもらいたい。僕なりのものを作ってみます。僕は短歌的な人間じゃないので、たぶん、短歌、ぜんぜんダメだと思う。短歌っていうのはロックンロールとかフォーク、イージーポップスに近くて、理論でいってもダメなものだなと思う。もうちょっと日常に近い、息子のこととか、そういうこと、真似て書いてみようかな。ところで、短歌がある人生ってどういうものですか?

 とっても豊かです。短歌が伴走してくれている、一緒に走ってくれてるような感覚があるので、短歌が自分を映す鏡になっているし、大きく言えば、短歌って時代を映す鏡なんですよね。だから、話は大きくなるけど、その時代の歴史の大舞台に立っている人の言葉じゃない、名もなき人の言葉をちゃんと残しているのが短歌だと言えるので、ぜひ多くの人に詠んで欲しいと思います。できれば、実作をしながら短歌の面白さとか深さを伝えられたりしたらいいなと思いますね。

 日本語のリズムや広がりのよさ、日本語の豊かさのようなものを基準に授業ができたらと楽しいですね。

 本当に、地球規模で見てもこんな形の表現方法ってないんですよ。千年以上前からずっと作られているっていうのもすごいし、今でもそうやって多くの人が作ってるという横の広がりもすごいですし、短さもすごいですし、日本の文化財産でもあるので。ただ、なかなか翻訳は成立しづらいですけど。

 地球カレッジ、どんなことやりましょうね?

 是非短歌を皆さんにも作って欲しい。例えば、今ここで「短歌を来週までに一首作ってきて」と宿題を出したとしたら、これからの1週間の心の持ち方が変わると思うんです。

 おう、宿題が出ました! それ、すごくいいアイデアですね!

地球カレッジ

 そういう心持ちで日々を過ごせるということは、最初に戻りますが、「丁寧に生きる」ということに繋がることなので、自分の心とか暮らしをそういう優しい、ゆったりした目で見直せる時間が必然的に生まれるんですね。短歌を作っていると。

 じゃあ、「日々を丁寧に生きる短歌教室」というタイトルにしましょう。生徒の皆さん、俵先生から早速宿題が出されました。短歌を作ったら、募集フォーマットのメアドから地球カレッジ事務局に短歌をおくってください。ぼくらがそこからいくつか選び、選評などもしてみましょう。選評というか、語り合いましょう。

 いいですね。楽しくなってきました。

「お知らせ」
ということで、歌人俵万智を迎えて、10月24日に「日々を丁寧に生きるための短歌教室」を開催することが決定しています。ぼくもそこで生徒の一人となります。皆さんにも短歌を作っていただき、どしどし、ご参加ください。

募集要項はこちらから⬇️
2021年10月24日(日)の地球カレッジは、俵万智さんをお招きします。

「日々を丁寧に生きるための短歌教室2」


参加されたいみなさまはこちらから、どうぞ。

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今回の配信方法は、ZOOMになります。
 



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posted by 辻 仁成