THE INTERVIEWS

ザ・インタビュー「dancyu編集長、植野広生×辻仁成。スープの時代」 Posted on 2021/10/31 辻 仁成 作家 パリ

dancyu編集長の植野広生氏と愛情料理研究家でデザインストーリーズ主宰の辻仁成の料理好きなオヤジ二人は、共通の料理感で意気投合し、食い道楽の会などで数多くの料理対決をやってきました。今日はこの二人に、欧州的な「食べるスープ」の醍醐味を語り合っていただき、ただ飲むだけのスープから一皿として立派に食卓を飾れるごちそうのスープの在り方までを考察していただきたいと思います。紙面上でのスープ対決、いざ、はじまり!!!

ザ・インタビュー「dancyu編集長、植野広生×辻仁成。スープの時代」

ザ・インタビュー「dancyu編集長、植野広生×辻仁成。スープの時代」

地球カレッジ

DS編集部「欧州ではスープを飲むとは言わず、食べるという動詞を用いますが、ここに辻さんは着目し、dancyu WEB版で、食べるスープ連載というのを長く続けてこられました。植野編集長、お墨付きの連載でもありまして、多くの反響があったと聞きます。料理好きなお二人に、今日は、スープ一皿で満腹になり、しかも健康ライフのベースにもまさにうってつけの、この食べるスープの概念について、お話しを伺いたいと思います」

「植野編集長に、WEBでレシピ連載をって最初に言われた時に、パッと頭に思い浮かんだのが、スープの時代が来る、という直感(すでに来てる感)でした。これから皆んな、美味しいスープ生活に舵取りしていくに違いない、という、なんか直感があって、特にフランスでは、今言ったように、スープは食べるという動詞を使い、飲む、じゃないんですね。それくらい、スープにボリュームがあり、バリエーションがあるんです。野菜嫌いの子供たちが、たとえば、うちの子が野菜が苦手だった時に、ミネストローネだけは物凄く大好きで、肉感があるからでしょうが、そこから、セロリやフヌイユなどの癖のある野菜も食べられるようになったのです」

植野広生dancyu編集長(以下、植野)「なるほど〜。僕も、子供の頃からスープ好きだったし、振り返ると子供の時って、コーンスープとかもご馳走だったじゃないですか。例えば、銀座にあった不二家とか、そういう洋食系の店では、スープは、凄く御馳走感があったし、非日常の素敵なものって感じがしたんですよ。僕らの世代は・・・。そして今、辻さんがおっしゃるように、スープの時代が来たというか、このコロナを経て、日本でもそういう、優しさとか、ベースのしっかりした王道の食べ物に、みんなが目を向けるようになったと思うんですね。その食の中でも、スープって、単に美味しいとか栄養があるだけではなく、ホッとすると言うか、なんか、気持ちも安らぐようなものを感じて、多分スープを家でも作っている人って多いと思うんですよね。辻さん、さっき直感的にスープの時代だと思ったとおっしゃっていたんですけど、その辺のこと、もう少しお聞きしたいです」

「はい。コロナの影響は大きいと思います。ロックダウンを長く経験して、毎度一日三食、手を変え品を変え作るのもつらかったですから、ブイヨンをきちんと作って、そこからいろいろと発展させて、日々を豊かに、温かく、栄養満点で、食欲がなくても元気になる、そういうことを考えるとスープにたどり着いたんですね」

植野「なるほど。フランスは3回もロックダウンがありましたものね」

「はい。家から出られなくなり、厳しい制限下で生きていました。その時に、ぼくは、日々を丁寧に生きることが、気力の根源だと気づくんです。そして、その生き方とスープが一致した。例えば、唐揚げは大体、骨が付いたもも肉をさばいて骨と肉を切り分けて作るんですけど、骨を捨てるの勿体無いんで、それでスープを作るようになりました。冷凍にして保存なんかもしていたんですよ、スープのダシ用に・・・。ラーメン食べたい時、その骨の関節を叩いて砕いて、鶏がらスープ取るんです。そこにいろんな、たとえば、セロリの芯とか、ネギの先っぽとか、玉ねぎとか、そう言うのを入れて、ぐつぐつ煮て・・・、それがめっちゃ美味くて、もうほかに何にもいらないんですよ。で、コロナが流行るずっと前のことですけど、植野さんに呼ばれて一緒に料理を作る機会があって、覚えてますか? どこだったかなー、料理研究家の尾身さんが一緒にいらしたんだけど」

植野「dancyu食いしん坊倶楽部のイベントでしたね」

「植野さんが、でっかいル・クルーゼの鍋で、何かスープを作っていらした。辻さん、肉だけしか入ってないんですけど、一度飲んでみてくださいと言われ、口にした時のあの感動、忘れられません。あ、これだ、やっぱりスープの時代、来るなーと思ったんですよ。その時にも・・・」

ザ・インタビュー「dancyu編集長、植野広生×辻仁成。スープの時代」



植野「あ、牛頬肉を煮たやつですね」

「そう、牛頰肉を煮たやつだ」

植野「牛頬肉のレモンハーブ煮なんですが、スープに凄く綺麗なエキスが出ますね。あれは本当においしいです。あれは、頬肉を一時間半ぐらい煮るとすごく柔らかくなるので、それに、ソースを付けて食べるんですけど、その残りのスープも綺麗に濾すとすごく美味しんですよね。辻さんが飲まれて感動されたのは、そのスープの方ですね」

「お肉もびっくりするくらい柔らかくて、美味しかった。でも、スープが忘れられなくて、あの透明感、まったく濁りがなかった。確かにレモンの香りがしましたね。今回のスープ本(植野さんが担当編集をして作った『パリの食べるスープ』)の中にも書きましたけども、ハンガリーを旅した時に出会ったグーヤッシュっというスープ。牛すね肉で作るんですけど、それをはじめて食べた時にもやはりもの凄く感動したのです。玉ねぎを炒めて、大量のパプリカを入れてスープを作るんですよ。それで、肉を煮込むとたまらない・・・」

植野「僕が、辻さんと初めてお会いしたのは、料理研究家の尾身さんのスタジオで、たまたまdancyuの撮影をお願いしていたんですが、その時、実は辻さんと御面識もなかったのに、不意に、植野と一緒に料理を作りたいとリクエスト頂いて、僕は、撮影の終わりぐらいに行って、それから。辻さんと一緒に料理を作って、その時に、僕はマグロとか持ってたんですよ。覚えてます。その時に辻さんにグーヤッシュ作ってもらって、凄くおいしかった!」

「おー、そうでした」

植野「だから、実は、今度、パリの食べるスープって言う本でも、パリの食べるスープの一番目にハンガリーのグーヤッシュ・スープって言うのを持ってきたという次第です。ちょうど、発売時期が秋でしたからね、季節的なものもあるし、あの時、まさに、これが食べるスープなんだと、本当に思ったので」

「その時の記憶はあまり無いんですけど、多分、植野さんが食べてくださったのは、ハンガリーのグーヤッシュじゃなく、オーストリアのグーラッシュじゃないか、と」

植野「あっそうか、煮込みの方でしたっけ」

「煮込みの方です。まー、作り方はほぼ一緒なんですけれども、ゆるめているのがグーヤッシュ・スープでしょうかね。ハンガリーはどっちかっていうとスープ風、オーストリーはどっちかというと煮込み料理なんですよ。ともかく、やっぱり冬は身体が冷える、その冷えてる身体を温める、で毎日忙しい、疲れた、その時に、体を生き返らせるもの、なんか、ほっとさせるものっていうのが、スープの魅力だな〜と、しかもその中に、僕は今回、ハーブとかを多く使う事を心掛けたんですけど、やっぱり健康を一食で、一食のスープで維持できるくらいの物を作りたいというのが今回の単行本のテーマだったですよねー」

植野「そうですよね。本当に辻さんがおっしゃる通りスープって今の時代にすごく合っていうと感じます。栄養学的にいろんな物が豊富に取れるっていうのもあると思うのですけど、栄養学だけではない、今の世界中の人たちに必要なものがスープにあると思います。そもそも例えばdancyuはヘルシーとか健康って、一切うたってないんですよ。カロリーとかも一切気にしてないんです。僕なりの勝手な解釈かもしれないけど、身体にいいものって何かっていうと、ストレスが無かったり、自然に食べられるものだと思うんですよね。頭でっかちになって、カロリー計算して無理に食べてるものは、栄養学的に良くても、心と身体に良くないと思っているので」

「なるほど」

ザ・インタビュー「dancyu編集長、植野広生×辻仁成。スープの時代」



植野「だからと言って、本当に肉の脂身が好きだからと言ってそれをずーっと食べてるとそれはやっぱり身体によく無いわけで、でもそれを両立するのがスープだと思うんですよ。いろんな意味で満足を得られる。辻さんの連載をやらせて頂いて、改めて思ったのは、やっぱりスープってすごいって事ですね」

「dancyuの表紙の左上に「『知る』はおいしい」って書いてありますけど、あれが、dancyuの編集方針ですね?」

植野「はい、そうです。難しい蘊蓄ではなく、料理や食材にまつわるストーリーや歴史、風土などを知ることで、普段の食事や料理がもっと美味しく、もっと楽しくなることを目指す“食いしん坊雑誌”だからです。『パリの“食べる”スープ』も、単にスープのレシピではなく、辻さんがマルシェでの買い物といった日常の風景や世界各地を旅することで知った物語を紡いでいただいているので、スープの味わいがより深くなると思います。まさに食いしん坊雑誌であるdancyuコンセプトはまさにこういうことなんです。美味しさのベースはここにあると思っています」

「その美味しいの源を知る哲学がぼくはdancyuという雑誌が好きな理由です。この新しいスープ本のコンセプトにも重なっている気がします」

植野「そう言っていただけると、嬉しいです。今回のスープ本に限らず、dancyu本誌でお願いしている巻頭連載『キッチンとマルシェのあいだ』でも食材や料理のことだけでなく、それらにまつわるストーリーを描いていただいています。これは雑誌全体でも常に考えているところで、こうしたストーリーを併せて伝えることが読者へのメッセージになると思っています」

※「パリの”食べる”スープ」全国書店で発売中です。

こちらからも購入できます⬇️
https://presidentstore.jp/category/BOOKS/005187.html

ザ・インタビュー「dancyu編集長、植野広生×辻仁成。スープの時代」



自分流×帝京大学
新世代賞作品募集

posted by 辻 仁成