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ザ・インタビュー「dancyu編集長、植野広生×辻仁成。二人で作ったスープ本の秘密」 Posted on 2021/11/06 辻 仁成 作家 パリ

今回は、料理好きにはたまらない雑誌「dancyu」の編集長、植野広生氏に、料理雑誌を作る醍醐味や意気込みやポリシーなどを聞いてみました。
みんな大好きなdancyuはどうやって、生まれて、愛されて、読まれているのか? そして、スター性もある編集長、植野広生の秘密にも迫ります。辻仁成と植野広生編集長が組んで作ったスープ本の秘密にも迫る、キッチンを愛する人のための、

ザ・インタビュー「dancyu編集長、植野広生×辻仁成。料理雑誌編集の醍醐味」

ザ・インタビュー「dancyu編集長、植野広生×辻仁成。二人で作ったスープ本の秘密」

※ 左、植野編集長、右、辻仁成



・料理雑誌を作る苦労と醍醐味について。

「雑誌はだいたい、メインとサブの二つの特集になっていますが、毎月の構想は、どういう所から、考えていらっしゃるのですか?」

植野「基本的には、食いしん坊が食べたい、作りたい、買いたいと思っている物がベースですね。もちろん、寒い時に鍋だったり、暑い時にカレーだったりっていう、季節的なものとか、定番みたいな物もありますし、でもdancyuの場合、世の中のトレンドとか、流行り廃りみたいなもの、あまり気にして無いんですよ。僕もこの時期になると来年の食のトレンドはなんですか?とか聞かれる事が多いのですが、dancyuも僕も別にトレンドを追っていないので分かりませんって、正直に答得ます。なんか、そういうトレンドよりも、本当にこの世の中の食いしん坊は、自分も含めて食いしん坊が、今、こういうのが食べたいよねとか、今は、野菜たっぷりのスープが食べたいよねっていう、そういう気分の方が重要だと思います」

「うんうんうん」

植野「株式投資で、いろんな指標があるんですけど、そのひとつにサイコロジカルラインっていうのがありまして、企業の業績とか経済動向とはまた別に、投資家がこの企業に投資したいとか、この株買いたいっていう投資家心理を基にした指標なのですが、僕は食にもサイコロジカルラインっていうのがあると思っていて、世の中の流行りとか、マスコミが流行らせようとか、全くそれとは別に、世の中の食いしん坊が、今、こういう甘い物が食べたいとか、こういう辛い物が食べたいとか、麺が食べたいとか、食いしん坊たちの意識が向かう先を示すサイコロジカルラインがあると思っています」

「へー、なるほど。dancyuの編集方針ていうのが、人間のほんとに食のそういう、食べたいっていう気持ちに直結しているっていうところ、それはどこから来たのか知りたいっていう気持ちに、直結しているところがいいなーって、いつも思います」

植野「やはり、食だけではないと思うんですけど、マスコミが作った流行って言うのは、やっぱり作った物でしかないので、廃れちゃうんですよね。そうじゃなくて、やっぱり歴史だったり、風土だったり、そこに関わる人だったり、いろんな環境のベースがあって、みんなが求める物って普遍的なものになるじゃないですか、それが日本でも、世界中でも、その郷土料理って形になって残ったりすると思います。やっぱりそういう物こそが本当の、長い目で見て不偏的流行であって、なんかこう作られた流行って流行じゃない、一時的な物でしかないと思うんですよね。あんまり、そっちは興味がないんですよ」

ザ・インタビュー「dancyu編集長、植野広生×辻仁成。二人で作ったスープ本の秘密」



「それにしても植野さん、いつ寝てるんですか? ぼくが日本の夜中に、質問メールを送ったら、いつも必ず2秒で返ってくる。笑。そんな編集長ってあまりいなし」

植野「辻さん、Twitterだったかブログだったか、それを書いちゃいから僕もすぐ返さざるを得ないと思ってしまって(笑)」

「僕が言いたいのは、植野さんは、要するに常に雑誌作りの最前線に編集長自身がいるっていうところ。そこは頭が下がります。dancyuのWEBと本誌と両方で連載させてもらっているけど、全部担当、植野さんなんですものね。いったい休んでるのかなとか、すごい心配になるんですよね。みんな、普通、若い編集者が担当になるものですけどね。いつ休んでるんですか?」

植野「休みって、何でしたっけ(笑)」

「あはは、出版界の回遊魚みたいだ」

ザ・インタビュー「dancyu編集長、植野広生×辻仁成。二人で作ったスープ本の秘密」

※ dancyu本誌の巻頭エッセイを辻仁成が担当、「キッチンとマルシェのあいだ」



・思い出に残るスープについて。

DS編集部「お二人の好きなスープを聴きたいです。世界のスープを色々食べられたと思いますが、思い出に残るスープについてお聞かせください」

「絶対、植野さんは、スペインのアホ・スープ(ニンニクのスープ)だよね」

植野「僕は見た通りスペイン人、正確にはカタルーニャ人なので、(一同、爆笑)スペインではホセ・ブエーノっていう名前で通しています。コウセイ・ウエノという名前はスペイン人は発音できないので、コウセイはホセに、ウエノは美味しいを意味するブエーノにしちゃったんです。ホセ・ブエーノって言ったら、バルでウケたので、それからホセ・ブエーノにしています」

「スペインのスープ、当然、お好きですね?」

植野「スペインでもそうですが、日本にいるカタルーニャ人のシェフの友達がいまして、ソパ・デ・アホというニンニクのスープを彼が作ってくれて、本当に美味しくて、僕らカタルーニャ人はニンニク大好きなので、本当に美味しくて」

「僕ら? カタルーニャ人、・・・なりきってる」

植野「なので、このパリ・スープを連載して頂いた時も、ソパ・デ・アホをリクエストさせて頂きました。我々、カタルーニャ人にとっては欠かせない物ですね」

「あれ、作るの楽しかったです。やっぱり、スペインを旅した時に、学んだのを、思い出して、作らさせていただきました。ぼくもスペインにたくさん仲間がいるもので。しかし、時間ですね、結局、美味しいスープは時間がかかります」

植野「そうですね。あと、味もさることながら、スペインだとパン・コン・トマテとかもそうですけど、古くなって硬くなったパンをいかにこう美味しく食べるかって言う、知恵と工夫と、それって、ほんとに凄い長い歴史とか、郷土の味としてズーッと残ってきたもの。ニンニクのスープもそうなんですけど、『パリの“食べる”スープ』に載っている26皿のスープは、辻さんが、あちこち旅行して実際に触れたもの、現地の人に教わったもの、マルシェで教わったものって、なんかそういうストーリーがちゃんと入っています。26皿すべてに、美味しくつくるために辻さん流のコツやヒントが入っているだけでなく、さらにその味わいが深くなるような物語があります。編集者としてはもちろん、一読者としてもレシピ本ではなく、“食べる”スープを巡る物語集として読み進む楽しさがあります。スープの美味しさって言うのは、単に美味しいとか、栄養があるだけじゃなくて、なんか色んな人の思いとか歴史とか文化とか風土とか、全部、それが詰まっている感じがして、有り難い食べ物になるんじゃないかと思うんですよね」

「そこの土地の文化や風土、そして歴史、そこの土地の人たちの生きてきた人生模様みたいなものが、まあ、全部スープに入っていて、だから僕は前の植野さんのインタビューに答えさせて頂いた時にも言いましたけど、美味しいものが食べたくて旅に出るタイプなんですよ。史跡巡りに行きたくて、外国に行きたくて、旅行したいとか言って旅行に出ることはまず無いから、ツアーとか入ったこと無いんですよ。僕は、美味しいもの、まずはマルシェに顔出すところから、必ず旅を始めるんで」

植野「そうですよね」

ザ・インタビュー「dancyu編集長、植野広生×辻仁成。二人で作ったスープ本の秘密」

ザ・インタビュー「dancyu編集長、植野広生×辻仁成。二人で作ったスープ本の秘密」

「スペインのセビリアに行ってもセビリアのマルシェに直行して、やっぱり観光目当てのマルシェと市民が行く貧しいマルシェが二つあって、両方行くんですけど、観光マルシェはどこ行っても一緒で、観光客しかいなくて高くて、でも売りたいから笑顔で、作り笑顔がまるわかりなんです。でも、地元民のマルシェに行くと作り笑顔が一切なくて、しかし、仲良くなると本当に心から開いた笑顔をむけてくれて、まあセビリアにはちっちゃいマルシェがあって、そこにアントニオが経営する生ハム屋があるんですけど、アントニオが「食ってけー」って言って、ドングリ豚のハムを切ってくれて、それで白ワイン飲むんですけど、これが、まじ、最高に美味い。やっぱり、その人間に出会った時に感じるもの、それが旅の醍醐味です。地元の人たちの中に紛れて自分が一人飲んでるっていう優越感、あー、これが旅だよねっていうのがあるんですよ。だから僕はこのスープ本の中の26皿、まあ、どれも思い出があるんですけど、忘れられないのは、やっぱり豚汁ですかね。昔、北海道に5、6年住んでたんですけど、自衛隊が近くにあって、その駐屯地のお祭りに呼ばれると、必ず豚汁とおにぎりが出てきたんですけど、あの豚汁が忘れられなくて、ある日、フランス人に豚汁をふるまいたい、と思いついたんです。でも、そのままだと仏人に分かりにくいかな、と思って、アレンジをしたんです。バターをのせて、さらに、ケーキなどに使う、ティムート胡椒っていうのがあるんですけど、ちょっとグレープフルーツの香りがするやつ。それに、あえてジャガイモじゃなく、フランス人が好きなフヌイユを入れてみたら、いや、もう受けた受けた。笑。これ、植野さんも食べてくださった・・・」

植野「いやー、もうびっくりしました。ほんとに。ティムート胡椒をかけるだけで、全然違うもの、ガラッと表情が変わりましたね。だから、豚汁ってご飯に合わせる物だと思っていましたけど、バターとティムート胡椒で、急にバケットが欲しくなる・・・。スッキリと美味しさが立つし、ほんとビックリしました。じゃがいもの代わりに入れるフヌイユも、本当に良かったですよ。あの食感、不思議でした。でも、この26皿のスープはほぼそうなんですけど、いろんな方から、現地で教わったものがベースですが、全部、辻さん流のアレンジが加えられてますね」

ザ・インタビュー「dancyu編集長、植野広生×辻仁成。二人で作ったスープ本の秘密」



「発想するのが大好きなんです」

植野「その発想が、普通出来ないじゃないですか。ティムート胡椒みたいな思いつかない発想はどこからふってくるんですか?」

「やっぱり旅を数多くして、世界中、歩きましたから、知らない食べ物を食べつくして、食いしん坊力を養っていると、ある日、インドネシアとアフリカがミックスされたりするわけです。笑」

植野「そうですよね、だから、材料とか分量とかだけじゃなくて、ほんとにいろんなストーリーだったり、思いだったり、辻さんなりのアイデアとか工夫とかアレンジとか、いろんなものが入ってるから、普通のレシピ本ではないですね」

「ありがとうございます。ちょっと安心しました。この間、NHKの『ボンジュール、辻仁成のパリの秋ごはん』という番組でも、二皿くらいスープ作らせていただきました。トンジルーも。笑。それにしても、僕まだ単行本見てないんですよ、まだ届いてないから」

植野「すいません!まだ見本しかできていないんです!」

「あはは」

「そうだ、植野さん、11月中に、地球カレッジにご登壇して頂いて、今回『パリの食べるスープ』が発売になったので、それを記念して日仏スープ対決なんて、やりませんか?」

植野「あ、いいですね、是非!!! やりましょう!!!」

「マジですか、やった! 簡単に出来るスープを一品か二品作って、皆さんに暖かい冬を送ってもらうっていうのは、どうでしょう」

植野「いいですね。身も心も暖かくなるでしょう」

「はい、今日はありがとうございました」

植野「ありがとございました」

DS編集部「みなさま、お疲れさまでした」

ザ・インタビュー「dancyu編集長、植野広生×辻仁成。二人で作ったスープ本の秘密」

おしらせ。

植野編集長が担当をして、父ちゃんがレシピとエッセイを担当して、出来た父ちゃんの最新刊は、辻家の秘伝のスープと、そのスープにまつわるお話が、満載なのです。
題して、「パリの食べるスープ」、ぜひ、キッチンの横に、立てかけて、日々の献立の参考にしていただければ幸いであります。

※「パリの”食べる”スープ」全国書店で発売中、そして、こちらからも購入できます⬇️
https://presidentstore.jp/category/BOOKS/005187.html



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posted by 辻 仁成