ノルマンディ、ツジ村便り

辻村相談窓口、「強さとは」 Posted on 2026/07/07 辻 仁成 作家 パリ

おつかれさまです。
暑いです。再び、暑くなったフランスから、お届けします。
相談窓口、開店の時間です。

匿名希望Zさん
「私は辻さんとほぼ同世代で、辻さんのお名前をぼんやり知っているくらいで、SNSで流れてきて日記などを拝読するようになりました。辻さんが作家でミュージシャンであると知り、作品に触れましたが、私の好みではないというか。
なのに、この絵のパワーはなんなんだ!と。
辻さんの日記を拝読していくと、ご自分のことを、生意気で一言多くて、嫌われる、いじめられっ子でボコボコにやられたこともあると、サラッと書いておられて、感銘を受けました。
私も子供の頃は生意気と言われたのですが、その後、嫌われるのが怖くて、本当の自分に蓋をする、出る釘にならない生き方をしてきたようです。辻さんはなぜご自分を貫く「強さ」を身に着けたのですか?それがすべて絵に現れているような気がして…。
私は父が嫌いで尊敬できない(今ではその気持ちに折り合いをつけることができました)想いをずっと引きずってきたので、辻さんは父上の影響などあるのかな、と思いました。すいません、長くなりました」

辻村相談窓口、「強さとは」



おこたえしまーす。

「そんなこと書きましたか? 「いじめられっ子でボコボコ」、まあ、そうですね。中学生のころはボコボコにされていましたが、高校から柔道部に入って身体を鍛えたので、ボコボコされることはなくなりました。要は、やられっぱなしは、自分を変えないとダメだと思ったからにすぎません。別に吹奏楽部に入ることも出来ましたが、一度くらいボコして来る連中に勝ちたいと思ったから、強くなろうとしただけです。おかげで、この年ですが、身のこなしは素早いですよ。負けん気といいますが、やられっぱなしの自分を変えたいと中学生の自分は思って、柔術を少し習得したんだと思いますが、ある程度、腕に自信が出来ると自然とボコボコにされることが減りました、というか無くなりました。そんなことかもしれないです。

あと、父親には遊んでもらった記憶がありません。抱っこしてもらった記憶もないですが、モノクロの写真で、ぼくが3歳くらいの時に抱えてもらっている写真が一枚ありましたので、幼い頃は抱っこしてくれていたんだろうな、と思うことがあります。自分がそういう経験がないこともあって、ぼくも自分の子供をあまり抱っこしたことがなかったです。親の影響なんでしょうかね。だから、その後、出来るだけ、スキンシップをしなきゃ、と思いましたが、フランス人のお父さんのような人前でハグとか、ビズとかできずに、息子には寂しい思いをさせたかもしれません。愛情は人一倍あるんですが、スキンシップって、難しいものだと思い、あまり好きではなかった父の苦悩のようなものも、最近、自分がその年齢になって多少理解出来るようになりました。ということで、ぼく自身は、父の影響を受けたことはないんです。

『辻さんはなぜご自分を貫く「強さ」を身に着けたのですか?それがすべて絵に現れているような気がして…。』
最も大切なご相談の、ここの部分ですが、ぼくは物心がついた頃から、自分は自分でいい、人と比較しない、というルールを決め、実行してきた人間です。人間の弱さの根本って、周囲と自分を比較することに一番の原因があるように思います。でも、ぼくは子供の頃から、人は人、自分は自分、ぼくが変わり者でみんなと違うのは自分の最大の個性であり、それが生きる上で重要な意味になる、と気が付いたことです。自分が、クラスメイトと圧倒的に違っていて、変わり者であることは、次第に気が付いてきました。だから、常にクラスでも浮いていたのはそれが原因なんだ、と分かっていました。最初は、自分こそ、普通人間だと思っていたんですが、あれ、おかしいな、なんでみんなぼくとこんなにも違うのだろう、と気が付いていくんです。笑。なぜ、こんなぼくが生まれたのか、それはなぞです。でも、一つ、「自分は自分」と決めたあの瞬間に、辻仁成が生まれたように思います。

これも、何度かエッセイ集とかで書いたことなんですが、昔、社宅のお隣に優秀なお子さんがいて、その子は、小学生にもかかわらず、詩集とか難しい本を社宅の門にもたれかかって読んでいた、ような子だったんです。それを見た父が、ぼくのところにやってきて、「K君はあんな難しい本を読んで偉いな、お前も見習え。遊んでばかりいないで」と言われたんです。その時、遊んでもらったこともない父にそう言われて、つまり、父も無自覚だったと思いますが、K君とぼくとを比較したわけです。それが結構、悲しかったんです。ぼくのいいところはそこじゃない、と辻少年は思いました。ぼくにはぼくの良さがあり、なぜ、父さんはぼくのいいところを褒めないんだ、と憤慨したわけです。子育てをする中で、自分が一番気を付けたのは、そこでした。息子が、失敗をしても、お前はいいところがほかにもいっぱいあるから、気にするな、自分らしさだけを追求しなさい、と言い続けたんです。それが、結果が出ているか、わかりませんが、ぼくは息子が自分らしく幸せなら、別に博士号を持つ必要もないと思っています。周囲の知人からは、ぼくの子はフランスで生きる日本人だから資格をたくさんとり、いい学校を出ないといけない、とおせっかいというか、親身になって言ってくださる人がいましてね、それはありがたいことですが、残念ながら、ぼくはそうは思ってないです。その子はその子、ぼくはぼく、彼は彼の人生を生きてもらいたいし、自分の幸せを自分なりの方法で掴んだら、人生には意味が出る、と信じているんです。だから、優秀な彼の学友がたくさんいますが、それはそれで、A君はすごいな、いい会社に就職出来て、というようなことは一切言いません。それは自分で決めること、気づくこと、自分で考えてやらないとならないことだからです。それがぼくの人間として生きる大事なことなんです。自分の人生を決めるのは自分です。無理せず、がんばってください。えいえいおー」

辻村相談窓口、「強さとは」



父ちゃんの独り言、&、近況のようなもの。
またまた、昨夜は大ファンのハーランド選手のいるノルウェー対ネイマール選手率いるブラジルの試合を見て、興奮した父ちゃんでした。やっぱ、サッカーは面白いですよねー。一度、生で試合するハーランドをみたかったのですが、期待を超える凄さで、彼独自のサッカーのスタイルがあって、みんなと同じように走らないし、下向いて歩いてるし、でも、2点も決めるし、怪物でした。大ファンです。ぼくは、フランスのムバッペ(エムバぺ)もファンで、この二人、人間的にも好きです。本当に目が離せないワールドカップですね。いや、ハーランド、すごい。あと、最後の最後に、ゴールを決めたネイマール選手に、おつかれさまでした、を言いたいです。

さて、まもなく、日本なんですが、目指すのは、三越での個展でして・・・。一年、制作に取り組んできた大規模展です。会場に入った瞬間に、ぼくの魂に触れて貰えると思います。ノルマンディの大自然の中で、草履で、ふんばって紡ぎ続けた辻の精神を、ぜひ、見てやってください。今回も輸送が大変で、これから先、日本での個展を増やすのは難しい状況ではありますが、今回は、生涯で一番の大仕事になりました。えいえいおー。

辻村相談窓口、「強さとは」

辻仁成 Art Gallery

辻村相談窓口、「強さとは」

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