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自分流塾「自分を変えるために」 Posted on 2024/02/15 辻 仁成 作家 パリ

どんなに頑張ってもなかなか自分の腰が重く、動かない、という時、なぜ、動かないのか、周りを見てみたらわかることがある。
そこに、誰か、あなたにいい影響を与えるような存在がいるだろうか。
人間は、やはり人間関係に一番左右される生き物である。数ではない。
悪口が口癖の友だちの中で生きていれば、自分も当然、悪口を言うようになる。
朱に交われば赤くなる、ということわざの通りだ。
しかし、ならば、いい友達に囲まれていればいいだけのことだけれど、いい友達というものがそもそもわからない。「いい友達」というイメージ自体が、曖昧過ぎる。
影響を与えてくれる人、と捉えたらいいのだ。
友だちとまではいかなくても、知り合いで十分と思う。
素晴らしい影響を与えてくれる人の近くにいれば、何かが、伝わってくる。
そこで、ぼくはある時、努力家の友だちの傍に張り付いたことがあった。
その人は、柔道をやっていたが、誰よりも努力というか練習をしていた。彼の傍にいるのに、自分は練習をしなかったので、試合で負けていたが、彼は勝ち続けていた。
彼は成績があまり、よくなかった。それが悩みだ、とぼくに打ち明けた。
ある日、柔道の練習のあと、遊びに行こう、と告げると、彼はぼくの申し出を断った。
夕方になると、勉強があるから、と呟き、遊ばずに帰っていたし、朝も一番に登校し、予習をやるようになった。まもなく、成績は一番になった。
「なんで、そんなに努力するの?」
とある日、訊いたら、
「夢があるからだよ」
という直球の返事が戻ってきた。
「それを実現するためには人より頑張らないとならない」
ぼくは、その言葉と言動の影響を受けて、人よりも長い時間、小説を書くようになった。
文学賞で落選をするたび、夢があるからだよ、と言った彼の言葉を思い出していた。夢があるから、頑張る・・・。

自分流塾「自分を変えるために」



努力家の友だちたちには、先見があり、幅広い好奇心もあった。
現状に満足せず、長いスパンで自分の人生を考えている人が多かった。
人の振り見て我が振り直せ、ということわざがあるが、努力をする人ばかりが周りにいると、当然、自分も頑張らなきゃ、と思うようになるし、逆に、だらだら生きている人ばかりだと、努力の意味を理解できないかもしれない。
何か新しいことをするためには、必ず、誰かの影響、というものが働く。
頑張っている人の傍にいることは、自分の財産になる。
すくなくとも、熱い影響を受ける。
そして、ひとたび、離陸することができれば、青空は自分で選び、好きなように飛ぶことができる。
努力したことの先にだけ、運、がある、とぼくは思うようになった。

自分流塾「自分を変えるために」



面白いことをいつも考えて実行しているようなやつ、負けん気が強く人一倍努力をしているやつ、夢をちゃんと持って生きているやつ、コツコツだけれど必ず前進しているやつ、常に前向きで決して挫けないやつ、そういう仲間がいることは、特に、若いうちには、大事なことかもしれない。
いいや、ある程度の年齢を重ねた時にこそ、素晴らしい友人に囲まれていることが大切だ。

刺激しあえるよき友情は、一生を導く光となる。

みんな、誰もがなにがしかの才能を持っている。
でも、その才能を開花させる方法がわからない。
それを教えてくれるのが、努力家の友だちであり、そのことに気が付ける自分自身の生き方なのである。
誰のための人生だよ、と鏡を見て、呟いてみるのもいい。

自分流×帝京大学

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辻 仁成

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Hitonari Tsuji
作家。パリ在住。1989年に「ピアニシモ」ですばる文学賞を受賞、1997年には「海峡の光」で芥川賞を受賞。1999年に「白仏」でフランスの代表的な文学賞「フェミナ賞・外国小説賞」を日本人として唯一受賞。ミュージシャン、映画監督、演出家など文学以外の分野にも幅広く活動。Design Stories主宰。