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自分流塾「負けてもいいから、挫けるな。不屈でいけ」 Posted on 2023/03/11 辻 仁成 作家 パリ

なぜ、ぼくはあいつのことが気になるのだろう、と思ったことは一度や二度じゃない。
いまだに、よく、ある。
あいつには負けたくない、と頑張ったこともあったけれど、よく考えると、その人に負けていることを自分で認めているようなものだった。情けないことに・・・。
これに気が付くのに何十年もかかった。
気が付いても、なかなか自分を変えることが出来なかった。
まわりばかり気にして、ようは周りに振り回され、ほんらいの自分を奪われてしまってきたのである。
自分を失くしてしまっている。
愚かだが、これは仕方がない、人間だから・・・。
たぶん、こんな偉そうなことを書いているけれど、ぼくは自分の狭い心を改心させて、清く正しく生きることが出来ない人間の代表かもしれない。
ふっ切れても、またすぐに別の「あいつ」が現れて、心をかき乱され、くそー、と思って落ち込むのが、せいぜい・・・。
もう、ぜんぜん、ダメ人間なのである。

自分流塾「負けてもいいから、挫けるな。不屈でいけ」



たぶん、多くの人が、周りが気になって仕方がなく、焼きもち焼いたり、大なり小なり悔しい思いを抱えて日々を生きているのに違ない。でしょ? 
そのうち、疲れて、しょうがないな、と諦めることもある。
かっこ悪いことだけれど、それが人間なんだと思う。
ださいよな、俺、とか思ってへらへら笑ってたりもする。
誰かのツイートみたいに、他人のことなんか気にしないでいいですよ、とはできない。問屋が卸さないのだ。

しかし、ものは考えようで、それでもいいじゃん、しょうがないよね、だってぼくは仙人様じゃないし、神様でもないんだから、と開き直る手もある。
自分の小ささを認めたところからもう一度、頑張ってみるのもいい。
ぼくは結局、そうやって、乗り切って来た。
誰かと自分を比較して、がっかりした後に、「ちっちぇーなぁ、ひとなり」とせせら笑って、悔しいけど、もう一度だけ、がんばってみるか、と気合いを入れ直してきた。
それでいいのよ、聖人君主じゃないんだからさー。
徳なんかないし、人格高潔じゃないし、人の模範のような人生なんか生きられないもん、と思うくらいの高さ(低さ)から、頑張る方が気が楽だからである。
また、誰かと比べてるな、と自分を揶揄してみるのもいい。
比べてる時点で負けてんじゃん、と自分を言いくるめる。
情けない負け犬になってんじゃないか、だせー、こんなの嫌だあ、と心の中でじたばたするのもアリなんだと思う。

自分流塾「負けてもいいから、挫けるな。不屈でいけ」



でも、負けてもいいけど、挫けちゃいけない。
だって、負けることもあるよ。そんなしょっちゅう勝つことなんかできないよ。
負けてもいいけど、挫けてしまったら、もう、立ち上がることが出来なくなるじゃん。
だから、さっさと負けを認めて、戦略的後退作戦に出た方がいいのだ。
自分、ダサかった。すまんすまん、こりゃあ、出直そう、と舵をきって、力を温存するのだ。そして、虎視眈々と次のチャンスを狙う。
負けた悔しさが肥しになるし、挫けてないわけだから、挽回も出来る。
弱さを認められる自分である方が、ぜったい、有利だもの。
人生は長いんだから、ともかく、続けていくことが大事なのだから。
ぼくは確かにそうやって、屈辱を跳ね返してきたかもしれない。
粘り強さは取り柄だった。ほら、いい風にとっていこうよ、そうすると、ちょっとやれそうな気がするじゃないか。
大事なのは負け方なんだと思う。
うじうじしていても逆転できないから、負けは負けだと潔く認めて、次にいく。
やる気になってきた。
やれそうな気がする。そこで、ベルトを締め直して、二度と悔しい思いはしねーぞ、と自分に言い聞かせてだな、ぼくなんか、63年も生きてきちゃったじゃないか!!!
でも、しょうがない。認めよう、これがぼくの人生だった。
これからもきっと、うじうじしたり、悔しがったりするのだろうなぁ。
でも、必ず、立ち直ってやる。
それをね、不屈、とぼくは呼んでいる。
負けてもいいから挫けない。
それが、不屈の基本なのだ。

自分流塾「負けてもいいから、挫けるな。不屈でいけ」

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えいえいおー。

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Hitonari Tsuji
作家。パリ在住。1989年に「ピアニシモ」ですばる文学賞を受賞、1997年には「海峡の光」で芥川賞を受賞。1999年に「白仏」でフランスの代表的な文学賞「フェミナ賞・外国小説賞」を日本人として唯一受賞。ミュージシャン、映画監督、演出家など文学以外の分野にも幅広く活動。Design Stories主宰。