日々のことば

自分流・日々のことば「好きでやること」 Posted on 2025/06/03 辻 仁成 作家 パリ

おつかされまです。
どういう人生を生きるかは、個人の自由なので、人それぞれ、方法が違って当然です。
お金をとるか、夢をとるか、若い頃のぼくは悩みました。
夢だけを追いかけていると喰っていけませんし、金持ちになることを成功と思えればよかったのですが、ぼくは、特に若い頃のぼくは、それが苦手でした。
そこで、ある時、好きなことを仕事にするけれど、生きるために多少得意じゃないこともやろう、と決めたのです。笑。
たぶん、かなり若い頃からこの考えはあまり変わっていません。
どういうことか、といいますと、夢度が高いものはボランティアでもやる。夢度は低いが、魂を売るわけでもない、仕方ない仕事は夢を叶える環境を築くために、やる、という具合です。
仕事と割りきって引き受ける仕事も、多少は、存在している、ということです。
これは、今現在のぼくにも当てはまります。
夢度の高いものだけをやっていると、子供の学費が払えない、という時には、広告の仕事なども引き受けていました。
コピーライターさんみたいにかっこよくコピーは書けませんが、ぼくだから依頼したいという会社さんもあって、・・・。
広告って、本が一冊売れるよりもギャラがいいんですよね、あはは、だから、大昔ですけれど、バランスをとって、生きてました。よっこらしょっと。

最近、ものすごく仲がいいフランスのミュージシャンがいます。仮に、Xさんとしておきますね、笑。
Xさんはお子さんが二人いて、現在、60歳です。
50歳くらいまで投資家としてロンドンで働き、大金持ちになりました。羨ましいほどの大金持ちです。
でも、彼は50歳を目前に、すべての投資の仕事をやめたのです。完全に、です。
家族と生きていくお金が出来たので、自分が子供のころから持ち続けてきた音楽の方へと100%シフトをした、という次第です。
すごくないですか?

自分流・日々のことば「好きでやること」



「辻さん、ぼくは、家族がいた。彼らを養うために、音楽は適さなかった。でも、夢は諦めきれなかった。それで、50歳までに稼げるだけ稼いで50歳ちょうどで引退をするって決めていたんだ。予定通り、達成できた。それ以上を求めることは自分のためによくない、と思っていたからね、家族の理解をえて、仕事をやめ、今は、毎日、自分のスタジオでレコーディングをしているっていうわけさ」
これ、簡単じゃないですよ。
彼は田舎に稼いだお金で、大きなレコーディングスタジオを持っています。同じような人生を生きてきた他3人のメンバーとバンドを組んで、ツアーを開始、アルバムも出しました。
今度、一緒にライブをやろう、と話し合っています。
こういう人生もあるんです。
「辻さん、ぼくはラッキーだよ。死ぬまで、あとは好きな音楽のことだけを考えて生きて行けばいいんだ。これはビジネスじゃない。お金に支配されない純粋な音楽活動だ」

「好きこそものの上手なれ」
ということわざがありますね。
大好きなことは何よりも情熱をもって挑めるし、工夫もするから、当然、上達も早いよね、という意味ですね。
Xさんは、それを最初にやらずに、人生の外堀を埋めてから、好きなだけやる環境を作った、という次第です。
ぼくは、若い友人たちに、この言葉「好きこそものの上手なりけり」をよく語ります。
だって、やりたいことをやって、それで生きていければ、その方がいいじゃん、というのが、ぼくの考え方なんです。
Xさんは、素晴らしい成功をおさめて、スパッとお金にしがみつかず、音楽にシフト出来ましたが、普通は、なかなか、難しいですよね。
「のめりこむ」
という言葉が好きです。
のめりこんで、その世界で一番になれば、ま、なんとか、生きていけるわけですから、ぼくのおすすめは、「好きこそものの上手なれ」かな、と思います。
ただ、気を付けないといけないのは「下手の横好き」という対義語がある通り、やるからには、一番を目指さないとどっちも手に入らないという最悪の結論も待っているかもしれません。
ま、それも人生。
ぼくの友人のZさんは、頑張って音楽をやったけれど、うまくいかず、会社員を続けながら、いまでも、仲間たちとバンド活動をしていて、これが、プロだったぼくが言うのも変ですが、プロとか、アマチュアとかの境界線のない、マジで最高のブルースなんです。あの音楽は、Zさんにしかできない。
ぼくは彼の友人であることを誇りにしています。
だから、今度、一緒にライブをやろう、と話をしているところなんです。ね、いいですよね?
Xさんも、Zさんも、素晴らしい。そして、その方法はそれを実行する人の数だけ、ある、というわけです。
でも、好きなことがあること、それが大事です。
さ、今日も精一杯生きたりましょう。
えいえいおー。

今日のひとこと。
「道は好む所によって易(やす)し」

自分流×帝京大学

自分流・日々のことば「好きでやること」



自分流・日々のことば「好きでやること」

大切なお知らせになります。
・辻仁成の個展開催
7月9日から、三越日本橋本店、コンテンポラリーギャラリーで、※ 初日、7月9日だけ、混雑をさけるために、入場抽選があります。それに関して、以下のURLからご確認ください。
また、10日以降は、入場整理券は不要ですが、会場混雑緩和のために入場制限をさせていただく場合がございます、と画廊さんからご連絡頂きました。2週間ありますから、のんびり、ご来場ください。

https://www.mistore.jp/store/nihombashi/shops/art/art/shopnews_list/shopnews0696.html

7月23日から、岡山天満屋本店美術画廊にて。
10月13日から、パリ、マレ地区にある画廊、20THORIGNYで2週間、開催いたします。出没しますよ!
・日々のことばを、生放送ラジオで、ツジビルは毎月3回、5の付く日にオンエアー中。

TSUJI VILLE

自分流・日々のことば「好きでやること」



自分流・日々のことば「好きでやること」

posted by 辻 仁成

辻 仁成

▷記事一覧

Hitonari Tsuji
作家、画家、旅人。パリ在住。パリで毎年個展開催中。1997年には「海峡の光」で芥川賞を受賞。1999年に「白仏」でフランスの代表的な文学賞「フェミナ賞・外国小説賞」を日本人として唯一受賞。愛犬の名前は、三四郎。