自分流・日々のことば

日々のことば、「ベストを尽くした後にあるもの」 Posted on 2026/04/29 辻 仁成 作家 パリ

おつかれさまです。
一年間かけてコツコツと描いてきた絵画作品がイラン戦争などの影響を得て、スムーズに日本に輸送が出来ない状態(輸送費の高騰)などが続き、はらはらしていたのですが、本日も、ぼくの作品の第一便、8枚がシャルルドゴール空港で足止めされたままとなっております。様々な事情があるのですが、一つはぼくのノルマンディのアトリエから日本に出発したのですが、そこは自宅ではなく事務所なので、送り主がぼくだと発送コードが違うということになり、コードの変更を現在会計担当の方がやっておりまして、それに2週間ほどの時間がかかる、ということになり・・・、何せ美術品ですから、空港のどこに保管されているのか、わからないせいで、制作者としてはヤキモキ、昨日はほぼ一日寝込んでしまいました。
こういう時に、そのイライラを鎮めるのに適したことばが、「人事を尽くして天命を待つ」になります。
自分にやれることはやりつくしているわけです。できる限りの努力をやり、ぼくの手を離れ、今は、機械作業もしくはAIの仕事に委ねられているわけですから、ヤキモキしても、どうにもなりません。こういう時には、結果を天の意思に任せるしかないわけです。
「人事を尽くして天命を待つ」とはそういうことばになります。心構えですね。人間には心構えが必要なんです。
「人事を尽くして天命を待つの心境だよ」と唱えれば、焦りも和らぐというものです。だって、人事は尽くしたんですからね・・・。
東京の中継画廊のゴメスさんから、「先生、届きましたわ」と連絡が来るのを待つしか、他に方法はないわけです。

日々のことば、「ベストを尽くした後にあるもの」

この「人事を尽くして天命を待つ」ですが、南北朝時代の中国の儒学者が言った儒教的思想が反映された言葉になります。
「尽人事而待天命」と記されるんだそうです。
人間って、「待つ」動物ですよね。人生を振り返ると、ぼくはこの苦しいほどの「待つ」を何度も何度も経験してきました。国際映画祭に応募した時、文学賞に応募した時、様々な結果を待って、時にはそれが叶いましたが、90%以上は落選でした。でも、ダメでも何度も何度も応募をしてきたし、今だって、質と内容は多少変わりましたが、まだ、応募を続けているんです。本当です。信じられないかもしれませんが、ぼくはこの年齢になっても、気になる応募があれば送りつけております。ダメな場合が普通ですし、人の好みはそれぞれだから、「辻さん、もうそこまでやったのに、まだ応募するんですか」とスタッフさんには呆れられています。でも、上には上の判断基準がありますからね、甘んじて腕を組んでボケっとしているのは、自分の生き方じゃないので、人知れずチャレンジは続けています。フランスや英国にある世界的な画廊とかにも、作品を送ることもあります。ルートがあるわけじゃないので、普通にインフォーメーションから送るんです。見られないかもしれないし、かすらないこともあります。でも、そうすることで、自分の作品の未来を高めることも可能だったりします。ぼくは一生新人でいたいから、かっこ悪いと言われても上を見て進んでいるわけです。思わぬ時に思わぬ返事が届くこともあるでしょう。それはベストを尽くしているからこその、ご褒美だと・・・。
そして、結果は結果ですから、特に気にしないようにしています。人事を尽くして天命を待つ、の精神ですよ。
それがぼくをぼくらしく維持する精神の支柱なのであります。
えいえいおー。

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Hitonari Tsuji
作家、画家、旅人。パリ在住。パリで毎年個展開催中。1997年には「海峡の光」で芥川賞を受賞。1999年に「白仏」でフランスの代表的な文学賞「フェミナ賞・外国小説賞」を日本人として唯一受賞。愛犬の名前は、三四郎。