日々のことば
自分流・日々のことば「習う」 Posted on 2025/06/21 辻 仁成 作家 パリ
おつかれさまです。
ぼくは小説家ですが、文学部で文学を学んだことはないのです。(大学で小説の書き方を教えた経験は9年ほどあります)
学生時代は経済学部で経営の勉強をしておりました。
じゃあ、小説はどうやって書いたの、と人に聞かれます。
簡単に言えば、独学、でした。
先生は、書棚に積んである「本」ですね。
図書館とか、本屋にでかけ、とにかく読んだわけです。
読み散らかすと言うよりも、集中して、同じ本を何度も何度も読みました。
何度も何度も読んでいると、その作者の癖というか、文体が見えてくるので、それがお手本となったのです。
読み散らかすと、なんでもあり、になってしまいそうでしたから、最初は、この人はすごいと思う作家の本ばかり、繰り返し繰り返し、読んでおりました。
写経のようなものでしょうか。
そして、すぐに実践へと移行いたしました。
目標を持った方がいいので、新人賞に応募しようと決め、文芸誌の中身は読まず、募集要項だけ、何度も読みました。笑。
そして、応募作品の枚数が原稿用紙150枚以内だったので、そこへ向かって、書きたい物語を紡いでいったわけです。
楽しかったですよ。
すでに実践ですから、大変でしたが、すっごく刺激的な経験でした。
☆
最初に「海燕」という文芸誌に、おくったんです。
忘れもしません。
候補作にはなりませんでしたが、第一次予選突破50人くらいの中に、自分の名前を見つけて、
「いける」
とおもっちゃったわけです。そりゃ、思いますよね。
そこで、もっと頑張ろうと思って、本屋に行き、かたっぱしから純文学作品を読破していって、要はコツを盗んだのです。
そして、次に送ったのが「すばる」という文芸誌でした。
で、今につながります。
その頃、ぼくを励ましたことばがこちら、
「習うより慣れよ」
でした。
こういう風に言うと、学校なんかいかないでいいんじゃないか、と言われそうですが、そういう意味じゃないんですよ。
大学で学位をとるのも、立派な目標なんです。
好きなことを学べということです。苦手なことには気持ちが入らないから、もったいない。
好きなことなら、どんどん、出来るじゃないですか。それが「慣れよ」の精神なんです。
小説家は学位が必要ないので、文学部にいっても作家になれないと思いましたから、文学賞に応募したわけです。
なんでもそうですけれど、嫌なものをやれ、と言われると、なかなか、出来ないのが人生というものです。
嫌いなことを勉強しないとならない、と思うと苦しくなります。
でも、文学賞目指す、と思うだけで楽しいじゃないですか?
落選って当たり前だから、落選に怖気づくなら、やめた方がいいかもしれません。
「好きこそものの上手なれ」
ほらね、ですよね?
小説なんかは自分で発見することが大事なので、慣れることが最重要になるわけです。
で、ぼくは作家になってから、編集者さんや、他の作家の先輩たち、批評家の厳しい批判などによって、うちひしがれ、そこから「なにくそ」と学び始めたようなところがあります。
つまり、習うは後・・・。あはは。
習う前に、そこを目指そうと決めた。それが楽しかった。楽しいことしかしなかったら、作家になった。
「好きこそものの上手なれ」
実践を通じて学ぶ方がうんと身になる、ということばだから、ぼくは勝手に超解釈をし、作家になってから学べ、ということになったわけです。
もし、ぼくが大学を創設するなら、好きなことを追求する学校やりたいですね。一生は一度ですから。
☆
あの、よく、勉強をやるぞ、と決意をした人が、えんぴつを一生懸命削りますよね。
あれは、どうなんでしょう。
鉛筆なんか、削っている場合じゃない、という速度感が「習うより慣れろ」ということばに潜んでいるんじゃないでしょうか。
学位とって安心していちゃだめで、実践で、学んでそれを生きるバネにしたとき、強靭なものが精神に宿る!
はい、今日も精一杯生きたりましょう。
えいえいおー。
今日のひとこと。
「習うより慣れよ」
今日のごはん。
「辛みそスープ」
個展なんですが、迫ってきました。
ま、2週間も会期があるので、慌てないでください。7月21日まで東京では個展開催していますし、岡山でも、28日までやっていますので、・・・。
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7月9日から、三越日本橋本店、コンテンポラリーギャラリーで、2週間開催されます。初日9日だけ入場制限があるみたいですが、23日まで抽選受け付けています。三越さんにお問い合わせください。
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7月23日から、岡山天満屋本店美術画廊にて、開催。初日だけ、整理券が出るようです。天満屋さんにお問い合わせください。
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10月13日から、パリ、マレ地区にある画廊、20THORIGNYで2週間、開催いたします。新境地を打ち出します。
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2026年、1月中旬から、パリの日動画廊でも、グループ展に参加させて頂きます。
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posted by 辻 仁成
辻 仁成
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作家、画家、旅人。パリ在住。パリで毎年個展開催中。1997年には「海峡の光」で芥川賞を受賞。1999年に「白仏」でフランスの代表的な文学賞「フェミナ賞・外国小説賞」を日本人として唯一受賞。愛犬の名前は、三四郎。