日々のことば

自分流・日々のことば「世界」 Posted on 2025/06/27 辻 仁成 作家 パリ

おつかされまです。
ぼくは、まぁ、変わり者の代表のような人間ですかね。
自分のことを考えると、やっぱりかなり他の人とは違うんだろうな、と思わざるを得ません。
なので、周囲を見回しましても、過去を振り返りましても、ぼくのことを完全に理解できる人はいないだろうし、今後も、現れない可能性が高いような気がします。
息子でさえも、ぼくのことは理解できておりませんので、当然かと思います。

フランスの、とある有名な作家について、研究をされている学者さんがいるんですが、その人が、その作家の性癖について、ああだこうだ、彼のプライベートをあさって、研究(?)をされています。
でも、小説を生業にしている、ぼくからすると、こういう研究ほどくだらないものはないな、と思うのです。
たとえば、その学者は、その作家のセクシャリティを、過去作から、ひっぱりだし、まとめているわけですけれど、そういう学者に、その作家の崇高な精神の域は間違いなく見えないだろうな、と思いました。
それに、そういうことはどうでもいいことであり、その作家の人生がどうだったを調査して、偏った想像力で、だからこの作家はこういうことを書いた、と結論づけているのを読んで、笑い、が止まりませんでした。ご苦労様です。
人の関心の、レベルの低さ、というやつでしょうか。
作家にとっては、作品こそがすべて、でいいでしょう。

ぼくもいろいろと言われますが、ぼく自身もっとも不可解な人間が自分なので、自分のこともよくわからないのに、他人がぼくを理解できるわけはないだろうな、と思う次第です。
たとえば、セックスの描写を書いたら、ぼくがそういうことを普段している、と思うのは自由なのですが、・・・。
つまり、ぼくの小説はよく登場人物が人を殺したり、殺されたりしますが、ぼくは幸運なことに、人を一度も殺したことがないのです。
ただ、リアルに書くことができる能力を兼ね備えているのです。それが作家の仕事だからでしょうか。
第二次世界大戦の戦地を舞台にしたぼくの小説「日付変更線」では何十人もの人が次々に殺害されていきますが(最終的には一万人ほど死傷します)、しかし、ぼくは拳銃さえ、撃ったことがありません。
じゃあなんで、あんなに人が死ぬ瞬間を描けるのか、そこは、正直にもうしまして、それが作家の仕事だからなんです。
むしろ、人を殺していたら、書けないかもしれませんね。

強引に話を戻しますが、つまりぼくは、ぼくのことを理解している人に会ったことがない、ということなんです。
きっと、それは皆さんも同じじゃないでしょうか?
誰かが言う自分についてのイメージって、実は、随分違っていて、そうじゃないんだけれどな~、と思うことって、ありませんか?
他人が見ている自分が、自分が思う自分とぜんぜん違うことばかり、というこの世なのです。
だから、最近のぼくは、世の中が思うぼくを演じているような気がします。
もう自分でも、自分が何かわけがわからなくなっているのが、最近のぼくの流行、・・・ま、そういうのが、ちょっと面白いようなところもありまして・・・・。
本当のぼくはじゃあ、どこにいるのか、と申しますと、人のいない田舎の森の中のアトリエの犬小屋の前だったりします。
カメラに向かって、笑顔を向け、自撮りした後、脱力感に見舞われ、冷たく暗い顔に戻って、再び、絵を描いているわけです。
怖いですね~。
かなり、怖い現実、それが真実というものです。

自分流・日々のことば「世界」



昨日、ラジオで少し話しことなんですが、昔、世界は一つ、みたいな標語が流行りました。
世界的にヒットした歌もありましたよね。大勢の歌手の人たちが、みんなで高らかに平和を歌うやつ・・・。
みんなで手をつないで、世界は一つ、と合唱されると、若いぼくは違和感を覚えたものです。
グローバリゼーションというものは、それはそれで、いいんですが、同じ人間でも、苦手な人は絶対いるもので、仮面をかぶって、ウソの微笑みを浮かべて、手を繋いで世界の平和と謳うよりも、手なんか繋がないけれど、地球の平和、を考える方がぼく的には楽でいいな、と思ったのでした。
世界(世の中)には、相容れないもの、理解しあえない人間もいますが、地球(宇宙)は、そのすべてを含みますからね。
変わり者のぼくでも、無理をしないで、地球のことを考えることは可能なんです。
でも、主義主張も異なる世界が無理して平和を形成しようとすれば、そこに、必ず破綻が出てくる。
そして、諍いがおきます。
まじりあえない世界もあることをきちんと理解し、無理せず、地球を愛して生き切る方が個人的には好きな方法です。
形だけのグローバリゼーションではなく、お互い無理をしないグローバリゼーション、ならいいんじゃないですか。
話しが長くなりましたが、戦争がなぜ起こるのか、といえば、一つになろうとしているからだ、と言いたいのです。
はい、今日も精一杯生きたりましょう。
えいえいおー。

今日のひとこと。
「世界はたった一つじゃない」

自分流×帝京大学

今日のごはん
「うめおかかおにぎり」

自分流・日々のことば「世界」

自分流・日々のことば「世界」

辻仁成 Art Gallery



父ちゃんからのもろもろお知らせ。
まずは、出版のお知らせです。
電子書籍の新刊「永遠者」が配信となりました。


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辻仁成のウェブ版美術サイトが更新されました。あらたにアーカイブギャラリーが増設されました。


https://tsuji-art.com/



7月9日から、三越日本橋本店、コンテンポラリーギャラリーでにて、「Le Visiteur TOKYO」展、開催。

7月23日から、岡山天満屋本店美術画廊にて、「Le Visiteur OKAYAMA」展、開催。

10月13日から、パリ、マレ地区にある画廊、20THORIGNYで2週間、「Le Visiteur PARIS」展、開催いたします。新境地を打ち出します。

2026年、1月中旬から、パリの日動画廊でも、グループ展に参加させて頂きます。

・日々のことばを、生放送ラジオで、ツジビルは毎月3回、オンエアー中。詳しくはこちらから、どうぞ~。

TSUJI VILLE

自分流・日々のことば「世界」



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Hitonari Tsuji
作家、画家、旅人。パリ在住。パリで毎年個展開催中。1997年には「海峡の光」で芥川賞を受賞。1999年に「白仏」でフランスの代表的な文学賞「フェミナ賞・外国小説賞」を日本人として唯一受賞。愛犬の名前は、三四郎。