日々のことば

自分流・日々のことば「木と森」 Posted on 2025/06/28 辻 仁成 作家 パリ

おつかされまです。
細かいところばかりを気にして失敗をすることがあります。
一点に気を取られ過ぎて、全貌を見失うようなこと、ありませんか?
「木を見て森を見ず」
ということわざがこれに当てはまりますね。
英語だと、
You cannot see the woods for the trees.
となります。
人は目の前に聳える木を見ます。そこがまずは目の前にあるからです。一生懸命、目の前の木のことを考えます。しかし、その一本の木は、実は森の一部なのです。
目の前の木に気を取られ過ぎて、森がどういうものか、見えない人がいるという戒めなんですね。
小さなことに囚われすぎると、大局的にものごとを眺めることが出来なくなる、と、このとこばは教えてくれているわけです。
まさに、今、この世界で起きていることは、木を見て森を見ていない、に等しいことが多いわけです。
絵を描く人は、時々、カンバスから遠ざかり、2歩、3歩と下がって、絵の全体を確認します。
そして、再び、細部に筆を落として、細かいところを仕上げていくわけです。
細部がどんなに素晴らしくても、全体の調和がとれてないものは、よくありません。
何度も遠ざかって、森の形を確かめることで、一本一本の木がまた際立つということです。
大局的な視野を持つことが、大事、ということでしょう。

自分流・日々のことば「木と森」

同じような意味で、
「鹿を逐う者は山を見ず」
というのもありますね。
利益のことばかり考えている者は、周囲の事を見失うということですね。
狩りに夢中になり山の様子が目に入らなくなり、迷い込んだ山から抜け出せなくなったりしたのでしょうか?
「鹿を逐う(おう)ものは兎(うさぎ)を顧みず(かえりみず)」
大きな獲物を追いかけるあまり、そこにいる小さな獲物が見えていない、ということです。
目が眩みすぎて、全部失ってしまう、ということですかね。
作家になったばかりのころ、このことを新潮社の編集者さんから、細かく教えられました。
「辻さん、細部ばかり見ていると全体が見えなくなるよ。全体ばかり見ていると細部がおざなりになるよ。細部と全体というのはね、小説道において、とっても大事なことなんだよ」
この方のアドバイス、いまだに、ぼくは心に大切にしまっております。今は、絵の分野でもこの言葉は役立っています。
細部と全体、を掌握できる時、いい作品が生まれるものです。
人生も一緒ですね。
はい、今日も精一杯生きたりましょう。
えいえいおー。

自分流・日々のことば「木と森」



今日のひとこと。
「細部と全体」

自分流×帝京大学

自分流・日々のことば「木と森」

今日のごはん。
「参鶏湯」

自分流・日々のことば「木と森」



自分流・日々のことば「木と森」

自分流・日々のことば「木と森」

辻仁成 Art Gallery

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辻 仁成

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Hitonari Tsuji
作家、画家、旅人。パリ在住。パリで毎年個展開催中。1997年には「海峡の光」で芥川賞を受賞。1999年に「白仏」でフランスの代表的な文学賞「フェミナ賞・外国小説賞」を日本人として唯一受賞。愛犬の名前は、三四郎。