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パリ・カルチャー情報「パリの街を染める“あの緑”はどこから? 不思議な色の正体」 Posted on 2026/03/21 Design Stories  

 
パリでは、「グリーン」という色を本当によく見かける。
グリーンとはいっても、植物の緑ではなく、ストリートファニチャーの色。公園のベンチ、水飲み場、メトロの出入口、そして広告塔…と、街全体がグリーンの色で覆われているようなイメージだ。
 

パリ・カルチャー情報「パリの街を染める“あの緑”はどこから? 不思議な色の正体」

※パリの水飲み場「ウォレスの泉」



 
普段はほとんど気にかけることがない、このカラー。しかし見方を変えれば、「まったく気にならないほど風景に溶けこんでいる色」ということにもなる。
色味は、厳密に言えばダークグリーン。日本の「黒板」に近い色で、なんとなく目にやさしい、心落ち着くような印象を抱く。

そんなダークグリーンがパリで一斉に採用された背景には、やはり19世紀の都市計画があった。どうやらこの「パリ大改造」は、建物のフォルムだけでなく色にもこだわった、徹底的な美観プロジェクトだったらしい。
 

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※メトロの入り口のデザイン

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※「モリスの柱」と呼ばれる広告塔

 
パリ大改造では、「街全体のビジュアルを統一すること」が大きく求められた。建物はもちろん、街灯やベンチ、水飲み場、樹木の柵、そして広告塔にいたるまで、あらゆる公共物が同じデザインで整えられたのだ。
その際に標準カラーとして選ばれたのが、フランス語で「vert wagon」と呼ばれるダークグリーン。ではなぜ、この深い緑色がパリの街に馴染むと判断されたのだろう?
 

パリ・カルチャー情報「パリの街を染める“あの緑”はどこから? 不思議な色の正体」

※パリで必ず見かけるダークグリーンのベンチ(背景にもグリーンの広告塔が)

 
理由はいくつかあるが、とくに大きいのはこの2つ。
一つは、自然世界との調和だ。パリ大改造では、その仕掛け人であるナポレオン3世のもと、公園や並木道がぐんと増えた。そうした流れで、ベンチ・街灯といった設備の色も、“風景の一部”として考えられるようになった。
 



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※公共の植木鉢もグリーン

 
ダークグリーンは、オスマン建築の石造りの色、ベージュやグレーとまったく衝突しない。木々の緑にも自然となじみ、派手すぎないのに存在感があり、視覚的な落ち着きを与える。つまりダークグリーンは、パリの街で 「主張せずに全体をまとめる色」として機能したわけだ。

この色が採用されたもう一つの理由に、素材との相性がある。
パリでは、多くの公共物が鋳鉄製。そのため、錆や汚れに強い塗装が必要だった。ダークグリーンの色は、金属を保護しつつ汚れを目立たなくする実用性も兼ね備えているのだという。
 

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※地域のゴミ収集所もグリーン



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※セーヌ川沿いの街灯もグリーンで統一!

 
ということでグリーンカラーは、パリ大改造を機能面と美的面、同時に満たすバランスの取れた色だった。
ただ、グリーンカラーと聞いて思い出すものがもう一つある。セーヌ川沿いの古本商、ブキニストだ。彼らの「箱」はパリ大改造で同時に統一されたものではなく、実はウォレスの泉や広告塔の色と調和するよう、後からパリ市によって整えられたものだった。
 

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※中世から続くパリのブキニスト

 
ブキニストの箱は、セーヌ川の景観に馴染むよう、パリ市から現物支給されている。素材は亜鉛メッキされた木材。これも、雨風によって味わい深く風合いが増していくのだそう。使い込まれるほどに景色に溶け込んでいく、古い街並みに合ったデザインなのだった。
 

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※ブキニストたちが座る折りたたみ椅子もグリーン!

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そう考えるとパリの街では、ブティックやレストランのファサード、アパルトマンの扉にもダークグリーンが多く使われている。パリでは規制があるため極端に派手な色は使えないのだが、それを差し引いても、このカラーはやはり特別な存在だと思う。ゴールドの文字との組み合わせはとくに映えていて、シックで落ち着いた印象を残してくれる。

そんなパリのダークグリーンは、もはや遺産ではなく、継続的にかつ意図的に管理されている、街の定番カラーだ。
19世紀に整えられた景観を、21世紀の今も守ろうとする努力。色として目立つわけではないが、もしこれがなければ、パリは今のパリらしさを失っていたのかもしれない。(コ)
 

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※キオスク(街の売店)もグリーン

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