PANORAMA STORIES
ささやかなご報告です! Posted on 2026/08/09 辻 仁成 作家 パリ
おつかれさまです。
数日前に倒れて頭を殴打しましたが、その後は無事で、倒れた時に出来たと思われる腕の傷も、カサブタになり、ほぼ、順調に回復しています。ご心配をおかけしました。
ということで、今日も、三越に出向き、何度か、展示場で皆様と歓談が出来たのがうれしかったです。
画廊のあちこちでお客様から「えいえいおー」と小さく言われて、がんばろうと、自分を鼓舞していた父ちゃんですが、今日の夕刻、すべての作品が無事にそれぞれの新しい親となる皆さんに引き取られたことが判明しました。一年一緒に過ごしたあの子たち全員、温かく迎え入れられる場所が見つかったということです。船出ですね・・・。ぐすん。
この報告は、三越を出たところで、担当のゴメス氏からの連絡で知ったのですが、思わず、おおおおお、と熱い吐息が肺の奥から溢れ出てしまいました。
すぐに友人のしまちゃんに電話をしたら、電話口で、おおおお、つじちゃん、それは素晴らしい、と言われて、涙もろい父ちゃん、思わず、じーん・・・、
ささやかながら、小さな声で皆さんにご報告させて頂きます。
「ありがとうございます」
☆
そして、明日も、ちらっと、特選画廊に顔をださせていただきたい、と思っています。
えいえいおー、ですね。
今回は、イランやウクライナでの戦争もあり、個展が出来るかどうかも、一時期、わからず、不安だらけでしたが、感無量でございます。
あらためて、御覧いただいたみなさん、いつも応援してくださっている皆さん、中継画廊の新生堂、そして、三越の皆さん、ありがとうございます、と言わせてもらいます。
11日の17時まで、変な言い方ですが、無料で鑑賞が出来ますので、どうぞ、最後の機会に、うちの子たちの勇姿を三越日本橋本店まで観に来てやってください。
多謝!

そして、昨日は、ぼくの母のいとこでもあり、ぼくにとっては東京の母のような存在でもある、親戚の東英子さん、88歳が、小淵沢から出て来てくださいました。
英子さんは、童話作家、東君平(くんぺい)さんの奥さんなんです。(くんぺい童話館は、小淵沢町にあります)
ぼくが絵を描きだした子供の時代、絵に目覚めたきっかけは君平さんの絵とイラストと絵本からでした。
「ひとなり、あなたはがんばったね。くんぺいさんも喜んでいると思うよ」
というようなことを英子さんはおっしゃってくださいました。
若い頃のぼくに芸術や文化を教えてくれたのが東家の人々だったのです。
君平さんは、当時、いくつもの絵本を出版され、毎週、週刊文春で挿絵を描かれていました。ある日、アトリエに行くと、黒と白の紙を取り出し、ぼくの目の前で、それを切り絵にした、んです。
半月の切り絵だったんです。黒い紙を月の形にくりぬき、カットして、白い紙の上に載せた、だけのものですが、不意にそれが半月になった、わけです。
まるでマジシャンのようで、辻少年、衝撃を受けました。不意に黒い紙の真ん中に、綺麗な白い月が出現したわけですから・・・。
「ひとなり、これがアーティストの仕事なんだよ。会社につとめなくても、こうやって、仕事が出来る、シンプルの中に本質を描き、原稿料を貰うんだ」
これは、とってもすごい事件だったんです。ぼくの父は会社員でしたからね、絵描きは、こうやって、生きているのか、という、衝撃・・・。ある種の感動と衝撃でございました。
☆
でも、その切り絵の月が出来るまでに、君平さんは、たくさんの絵を描いて、つまり画学生だったり・・・、長い道のりだったわけですね。
とくに、一年、英子さんと暮らされたニューヨークで描いた絵が素晴らしかった。それらの作品と出会ったあの時、ぼくは18歳でした。ぼくも絵をすでに描いていたので、これだ、と思ったのを記憶しています。これだ!
アーティストって、すごいな、と思ったんです。
「これを自由業というんだよ」
「すごいですね、自由業・・・」
「ああ、組織に属さず、一人で、好きなことをとことん追求して、答えを出す仕事さ」
その時のぼくの驚きが、その後のぼくの心の支えになり、今に至ります。
ぼくは英子さんの手を引いて、そこいたお客様がたに紹介をさせていただき、エレベーターまで見送りました。
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今日、特選画廊にお集りのみなさんに、ぼくの絵について説明をし、語りながら、ぼくは、半世紀も前に、君平さんから教わった「絵」という仕事のすばらしさを思い出していた、という次第です。
君平さんは46歳の若さで急逝されましたが、もし、今生きていたら、一番、個展に来てほしかった恩師でもあります。
その何かをぼくが受けついでいられたら、いいのですが、・・・。さらに、さらに、旅は続きます。そして、精進させて頂きたいと思います。
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えいえいおー。

Posted by 辻 仁成
辻 仁成
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作家、画家、旅人。パリ在住。パリで毎年個展開催中。1997年には「海峡の光」で芥川賞を受賞。1999年に「白仏」でフランスの代表的な文学賞「フェミナ賞・外国小説賞」を日本人として唯一受賞。愛犬の名前は、三四郎。



